オシッコが出ない?専門獣医師が解説するチンチラの尿結石〔Ver.2〕
結石がオチンチンでつまっている?
尿結石は名前の通りに、尿路に結石が形成し、排尿障害を起こす疾患です。尿を生成する腎臓、そして膀胱へつながる尿管、排尿する尿道で結石が発見されます。しかし、チンチラの尿結石のほとんどが膀胱または尿道に発生します。膀胱結石は膀胱内にとどまった後に尿道に移行し、頻尿ならびに排尿障害、血尿を引き起こすことではじめて異常に気付きます〔Mans et al.2013〕。オスはペニスの中を通っている尿道が細くて長いため、尿結石がつまりやすいです(尿道閉塞)。一方でメスは尿道が太くて短いため、結石がつまることは少ないです。
どんな症状?
結石が長期間膀胱に停滞していた場合、膀胱壁が炎症を起こして充血や浮腫が見られ、膀胱炎も起こしています。結石が膀胱の出口や尿道で尿道閉塞を起こすと排尿ができなくなり、チンチラは虚脱し動かなくなり、食欲も低下します。尿は毒素が含まれているため、毒素が体に溜まってしまうことを尿毒症と言います。排尿姿勢をとり、力んでいたり、漏れるような少量の尿が滴りおちるような症状が見られます。もちろん、ペニスから少しでも尿が出ていれば、尿毒症になる可能性が低くなります。尿が出にくい時や血尿などの初期で異常に気づいて尿結石が発見されれば、初期対応で軽く済む場合もあります。つまり結石が小さければ、排尿量を増やせば、結石が排泄することもあります。
膀胱に結石が形成されて、時々血尿が見られる
↓
頻尿や排尿障害(排尿姿勢を頻繁にとる/頻尿/排尿時に鳴く)
↓
結石が大きくなる
↓
結石がペニスにつまる
結石の発生は?
尿結石はオスに好発し〔Mans et al.2013,Martel-Arquette et al.2016〕、比較的若い個体でも発生します。発症年齢は平均30(11〜132)カ月齢という報告があります〔Martel-Arquette et al.2016〕。
なんで尿結石ができるの?
発生要因として、尿量の減少、高カルシウムの餌、飲水不足などが挙げられます。チンチラは乾燥地帯に棲息し、本来は飲水量が少なくても対応できるため、尿量が少ないことも結石が形成されやすいのかもしれません。運動不足の場合も尿中のカルシウム結晶が沈殿して結石の核になりやすくなります。チンチラで発生した尿結石の 88%が炭酸カルシウムであったとの報告もあり〔Osborne et al.2009〕、文献によって見解が多少異なります。しかしながら、チンチラはウサギと異なり、摂取した餌に含まれるカルシウムの大部分を腸から排泄し、尿からの排泄は 1〜3%に過ぎないため〔Hansen 2011〕、ウサギほど高カルシウムの餌は影響しないかもしれません。
検査は何をするの?
大部分の尿路結石は X 線検査で診断ができますが、チンチラは X 線における腎臓・膀胱陰影が不明瞭なため、超音波検査を併用して形成箇所を確認することもあります。膀胱基部や尿道近位の結石は外科的に摘出することが難しいため、CT検査で正確な場所を確認する場合もあります。また、尿あるいは結石を分析検査により、結石成分を判別します。尿毒症の確認は血液検査で行います。
治療はどうするの?
尿結石のほとんどは炭酸カルシウムであるため、薬剤による溶解は期待できません。しかし、小さい結石であれば水和により尿量を増やすことで排泄されることもあります。基本的には皮下補液ならびに経口での飲水が行われます。チンチラは乾燥地帯に棲息し、水分が少なくても適応できる生理機能を備えているので、大量に水を飲まなくても生活ができますが、日本での乾燥したペレット中心の生活であれば十分な飲水が必要になります。ある研究では,給水ボトルよりも皿タイプの給水器の方が飲水量が多くなると報告されています〔Hagen et al.2014〕。しかし、大きな結石は外科的に摘出するしかありません。尿道閉塞になっているようであれば緊急手術で結石を摘出する以外に方法はありません。放置すると数時間のうちに尿毒症で死んでしまいます。尿道結石はペニスにカテーテルを挿入し、水圧をかけて結石を膀胱内に押し戻してから摘出手術になります。
えっ、結石再発するチンチラは短命なの?
興味深いことに,膀胱結石の外科的摘出後に再発した症例は予後不良になるという報告があります。膀胱結石を外科的に摘出したチンチラは 10 頭中5 頭の割合で再発し、再発までの期間は平均68(9〜440)日で、再発を伴うチンチラの生存期間は初診後平均391(74〜1,074)日でした。一方で、外科的摘出後に再発を伴わないチンチラの初診後の生存期間は平均2204(1914〜2535)日でした〔Martel-Arquette et al.2016〕。
緊急時に自宅でできること!
「尿が出ているか?」ペニスが濡れているようであれば尿が少し出ている可能性が高いです。全く出ていないようであれば緊急状態です。自宅でできることはないため、急いで動物病院に連れていきましょう!
以前から尿の異常があったならば対応が遅いです!
尿結石以外の色々な病気が考えられますが、小さい結石であれば内科的に対応が可能化もしれません。
尿がある程度出ているようであれば翌日の診察でよいかも?
尿が出ているならば少し安心ですが、いつ出なくなるか分かりません。その後も尿量や色を確認して下さい。尿道閉塞を起こすと尿毒症になり、安心できる状態ではありません。
まったく尿も出ずに、横たわってしまっているなら急いで下さい!
素人が手当てをする状態ではありません。とにかく、すぐにチンチラに詳しい獣医師に診せて下さい!
- 早急に動物病院で診察を受けて下さい。
チンチラは尿道閉塞で腹痛が起こると、目を細めて辛そうな顔になり、ひどくなると横臥して動かなくなります。腹部がピクピク動かし、歯ぎしりも見られます。腹部を触わると張っています。ショック状態になると、反応が鈍くなり、耳などを触ると冷たいです。このような状態だと、末期症状かもしれません。
動物病院への情報提供
以下の項目を獣医師に伝えて下さい
- 尿は出ているか?出ていないか?
- 力んでいるのか?
- ぐったりしているのか?
- 横臥しまっているのか?
- その状態が始まってどれくらいの時間がたっているのか?
- 体が冷たくないか?
対応
できることはごくわずかですが、最低限の対応を解説します。下記の方法を行い、チンチラの状態が悪化しても、当方は責任を負えませんのでご了承下さい。
その1
口に水をスポイトなどで与えてみます。自ら飲むようであれば、少量にとどめて下さい。ペット用の電解質飲料があれば、水よりも理想的です。小動物専用の電解質飲料も販売されいます。粉製剤なので水に溶かしてシリンジを使って飲ませたり、給水ボトルに入れて下さい。電解質飲料になるので体の隅々まで水分がいきわたり、尿量が増加します。
ペットの電解質飲料はコチラ!
楽天で購入!
緊急用でストックお願いします。
粉の電解質飲料ならコレ!
楽天で購入!
これ溶かして使って!電解質の粉ですが、エネルギーも摂取できる一石二鳥なんです。
その2
体温が極端に低い場合は、大至急保温をして下さい。ホカロンや湯たんぽを体の周りに置いたり、ペット用のヒーターの上にのせたり、エアコンで室温を上げたりなどの対策を練って下さいい。数十分毎にチンチラを触って体温が上がってきているかを確認して、火傷や体温が高くなり過ぎていないか確認して下さい。チンチラは体温が高くなりすぎると危険です。
その3
腹痛に関しては、お腹を軽くさすってあげて下さい。強く押したり、無理なマッサージは不要です。お腹に手を当てるだけでも、痛さが落ち着くはずです。
まとめ
基本的にオスの尿結石のつまりは緊急事態ですので、軽い状態で様子を見ていると、突然に状態が悪化するものもいれば、偶然に結石が出てケロッとして復活することもあります。もしも復活しても、念のために動物病院で診察は受けて、獣医師の診断や治療にしたがって下さい。
参考文献
■Mans C,Donnelly TM.Update on diseases of chinchillas.Vet Clin North Am Exot Anim Pract16(2):383-406.2013
■Osborne CA,Albasan H,Lulich JP et al.Quantitative analysis of 4468 uroliths retrieved from farm animals,exotic species, and wildlife submitted to the Minnesota Urolith Center:1981 to 2007.Vet Clin North Am Small Anim Pract39(1):65-78.2009
■Hansen S. Studies on Calcium Metabolism and Tooth Development in the Chinchilla.(In German).doctoral dissertation.College of Veterinary Medicine, Hannover. 2011.
■Martel-Arquette A, Mans C. Urolithiasis in chinchillas: 15 cases(2007 to 2011). J Small Anim Pract57(5):260-264.2016
■Hagen K,Clauss M,Hatt JM.Drinking preferences in chinchillas(Chinchilla laniger),degus(Octodon degu)and guinea pigs(Cavia porcellus). J Anim Physiol Anim Nut(Berl)98(5):942-94.2014