専門獣医師が解説する両生類の変態
変身?変態?
両生類において、幼生(オタマジャク)から成体へと成長する過程で、四肢が伸び(無足類やサイレン科は例外)、他にも脳・神経系、消化器系、呼吸器系など全身のほとんど全ての器官が変化します。これは変態(へんたい)と呼ばれる現象です。多くの両生類では、幼生は水生で植物性の餌を食べる草食なのに対し、成体は陸生で動物性の餌を食べる動物食・肉食へと変わります。幼生は鰓呼吸を行いますが、成体では肺呼吸に変わります。無尾目や無足目では変態により尾は体内に吸収されますが、有尾類では発達した尾が残ります。変態の過程で食性が草食から動物食・肉食へと変化し、それに伴い腸管は細長いものから太く短く変化します。窒素代謝産物も幼生では鰓からアンモニアのまま大半を排出されますが、成体はアンモニアを尿素に変えて腎臓から排出する方を主流とします〔内山ら.2009〕。変態の前後では生体の形態や機能だけではなく、生息環境、食性、行動様式などが大きく変化します。
カエルの変態
後肢が生えてきて、次第に尾が短くなります。
次に前肢が生えて、尾は完全に消失し、陸上にあがってきます。
イモリ・サンショウウオの変態
カエルと反対に前肢が最初に生えてきて、次第に尾が短くなります。次に後肢が生えて、尾は完全に消失し、陸上にあがってきます。
ホルモンの関与
カエルの幼生は、前変態期、変態始動期、変態クライマックスの3ステージに分かれています。幼生の成長が進む時期を前変態期、それ以降に後肢の成長して前肢が出現するまでを変態始動期、尾と鰓が吸収して消失し、肺が形成されて成体となるまでが変態クライマックスです。変態始動期以降は甲状腺ホルモンによって変態過程が全身的に制御されています〔Lim et al.2002,Furlow et a l.2004〕。変態に関わるホルモンは甲状腺ホルモン以外にも、副腎皮質ホルモンとプロラクチンなどで計3種類です〔Kikuyama et al.1993〕。甲状腺ホルモンは変態における中心的な役割を果たし、ほとんど全ての変化に影響します。副腎皮質ホルモンは前変態期には成長や発達を遅延させますが、変態始動期には甲状腺ホルモンの働きを強めることで変態を加速させます。プロラクチンは幼生器官の発達や維持の役割を担い、変態期の変態の進行速度を和らげながら、一部の成体器官の発達を促します。両生類の変態はこれらのホルモンにより複合的に調節されると考えられています〔Kikuyama et al.1993,Denver 2013〕。
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参考文献
■Denver RJ.Chapter Seven-Neuroendocrinology of Amphibian Metamorphosis.InCurrent Topics in Developmental Biology.Shi YB.ed.Animal Metamorphosis.Academic Press.p195–227.2013
■Furlow JD,Yang HY,Hsu M,Lim W,Ermio DJ,Chiellini G,Scanlan TS.J Biol Chem279(25):26555.2004
■Kikuyama S,Kawamura K,Tanaka S,Yamamoto K.Aspects of amphibian metamorphosis:hormonal control.In International Review of Cytology.Jeon WJ,Jarvik J.rds.Academic Press.New York.1993
■Lim W,Nguyen NH,Yang HY,Scanlan TS,Furlow JD.J Biol Chem277 (38):35664.2002
■内山実,今野紀文,兵藤晋.尿素を利用する体液調節:その比較生物学.比較内分泌学35(134).p175-189.2009