専門獣医師が解説するチンチラの歴史と病気の解明
ワシントン条約サイテスⅠであるチンチラ
チンチラは陸上に生息するすべての哺乳類の中で最も毛が密集し、非常に柔らかい毛質が人気です。そのため、世界三大毛皮のうちの一つとしての高級品な扱いを受けています。この毛皮はアンデスの原住民も昔から身に着けていましたが、その後16世紀にヨーロッパ人に毛皮が知れ渡ると乱獲が始まり、20世紀初頭には絶滅の恐れに陥りました。野生の数が激減しましたが、現在は政府の保護下に置かれ、ワシントン条約 の第Ⅰ掲載種になり、捕獲および国際間の取引きは禁止されています。日本で飼われているペットのチンチラは国内繁殖なのでワシントン条約の違法にはなりません。
ペット化の歴史は浅い
チリの鉱山技師のアメリカ人、マティアス・F・チャップマン(Mathisas F.Chapman)氏はチンチラに興昧を引かれ、現地でチンチラを買い取って飼育を試み、1923年にアメリカにはじめて輸出しました。しかし、飼育を始めて11年後、1934年チャップマンは亡くなりましたが、子供のレジナルド(Reginald Chapman)氏は繁殖に成功したのがペットのチンチラの始まりです。日本では1961年に静岡県三島市の動物愛好家によって導入されたのが最初と報告されています〔富永1977〕。
実験動物は一部だけ
チンチラは 1950 年代から研究に使用され、1970 年代以来、研究者がチンチラに最も関心を持っているのは聴覚系です〔Suckow et al.2012〕。
毛皮産業で大活躍と問題点
現在の毛皮産業で衣料品やその他のアクセサリーに使用されているチンチラは、農場(ファーム)で飼育されている個体群です〔Jiménez 1996〕。これまでの歴史から、チンチラは毛皮の産業動物の歴史が長く、感染症の調査や報告の大半は、チンチラを繁殖しているファームでのデータです。野生動物と異なり、本来の習性と異なる環境で、しかも狭くて不衛生な金網ケージの中で一生を過ごしていました。チンチラは大きなストレスを受け、多種の感染症も蔓延して過大な被害を被ってたこともありました。
チンチラの医学
実験動物のチンチラは限られた分野でのみしか活躍しておらず、ペットの歴史も浅い。そのため、現在解明されているチンチラの疾病は、毛皮用の家畜で発生したもので、いまだに逸話的に引き継がれたり、真偽性が不明なものも多いです。本稿では解剖生理学的に正しい情報を論議し、ペットでの臨床経験から系統だてて疾病を解説しますが、逸話的な疾病も数多く含まれているかもしれません。
参考文献
■Jiménez JE.The extirpation and current status of wild chinchillas Chinchilla lanigera and C.brevicaudata(PDF).Biological Conservation77(1):1–6.1996
■Suckow MA,Stevens KA,Wilson RP.The Laboratory Rabbit,Guinea Pig,Hamster,and Other Rodents.Academic Press.p949ff.2012
■富永聡、辻紘一郎.チンチラ.実験動物技術編.田嶋嘉雄編.朝倉書店.東京.1977