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専門獣医師が解説する餌としての昆虫・軟体動物

虫とか与えることできますか?

昆虫や軟体動物を主食に、あるいはエサのメニューの一つとして与える種類がいます。与える動物によって、その種類を使い分けます。

  • ハリネズミやフクロモモンガの主食
  • シマリス、スローロリス、ピグミースローロリス、リスザルへのタンパク源
  • ブンチョウ、ジュウシマツへのタンパク源
  • ヒョウモントカゲモドキ、フトアゴヒゲトカゲの主食
  • 水ガメの副食
  • カエル、イモリ(ウーパールーパー)の主食

昆虫では、コオロギ(フタホシコオロギ、ヨーロッパイエコオロギなど)、ゴキブリ(デュビア、レッドローチなど)、ワーム(ミルワーム、スーパーワーム、ハニーワーム、ブドウムシ、シルクワームなど)、ハエなどが代表的です。軟体動物では、ナメクジ、カタツムリ、タニシ、ミミズ(シマミミズ、糸ミミズなど)、エビ(ヨコエビなど)、ブラインシュリンプ、ダンゴムシやワラジムシなどが代表的です。昆虫や軟体動物をエサとして与える場合、野生で捕まえるか、ペットショップで生き餌として購入するかです。生き餌以外にも、死んで乾燥させたり、缶詰になったりしている商品もあります。全般的に昆虫や軟体動物のエサは栄養の問題が指摘され、単食は避けたほうが良いとされています。コオロギやワームは、カルシウムやビタミン・ミネラルが低いといわれ、主食あるいは単食として与えると代謝性骨疾患ならびにくる病になります。与える場合は、これらのエサに粉のカルシウム剤やビタミン・ミネラル剤を振りかけてから与える(ダスティング: Dusting)、あるいは適切な栄養がとれたエサを昆虫に与えた状態(ローディング:Loading)で、与えることが常法として広まっています。

 

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昆虫は外骨格(成分はキチン)を持っており、エサとして与えると、羽根や足が消化できずに糞と一緒に排出されます。キチンは、食物繊維であるセルロースと似た構造をしており、消化されません。食物繊維は腸の動きをよくするもので、消化されないキチンもその役目を果たしている可能性があります。

種類

コオロギ(フタホシコオロギ、ヨーロッパイエコオロギ)

一般的にフタホシコオロギと、それよりも小型のイエコオロギが流通しています。生き餌は単にケージ内に入れればよく、フタホシコオロギは爬虫類専門店で SS、S、M、L と各サイズが販売されていますので使いやすいです。

ここのフタホシ、ぷりぷり!

 

ここのフタホシ、ぷりぷり!

 イエコオロギはやや小型で、フタホシコオロギと比べて、柔らかくて嗜好性が高いかもしれません。しかし、跳躍力があるため、食べる動作が遅い動物に対しては、コオロギの脚を折ってから与えないと、捕食しにくいです。栄養学的には、フタホシコオロギもイエコオロギもタンパク質ならびにアミノ酸、脂肪、ビタミンのバランスがよい餌ですが、リンに対してカルシウムが少ないため、添加する必要があります〔Finke 2002,2015〕。

ここのイエコ、くいつき最高!

 

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 活き餌でコオロギを管理・繁殖するには25~28℃の設定で、プラケースなどに入れ、水と餌を与えて飼育します。コオロギは専用のペレットや飼育セットも市販されているため、比較的簡単に自家繁殖もできますが、悪臭が漂うことと鳴き声がうるさいという欠点があります。ローディングではカルシウムの多い野菜、砕いたハムスター用ペレット、ひよこの餌などが使われています。

 

生き餌以外に、熱帯アジア産の大型のコオロギの冷凍や煮沸した缶詰、粉状製品も流通しています。

 

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ゴキブリ(デュビア、レッドローチ)

餌用のゴキブリは足に滑り止めがないため、ガラスやプラスチックの壁を登ることができず、飛翔もしません。繁殖・管理も可能で、扱いやすい虫です。栄養学的にはリンに対してカルシウムは少なめですが、栄養価や嗜好性がとても高く、コオロギに飽きてきた個体もよく食べてくれます。デュビアとはアルゼンチンモリゴキブリのことで、餌としての嗜好性が高く、特にフトアゴヒゲトカゲは好物です。ゴキブリはコオロギよりも大きいために大型爬虫類に、幼虫のゴキブリは中小型種に使用されます。デュビアは乾燥した環境で飼育され、ウサギのペレットや野菜屑を与えることで繁殖・管理され、臭いも少ないです。レッドローチはトルキスタンゴキブリのことで、デビュアに比べて小型のゴキブリですが、油っぽい臭いがするのが欠点です。繁殖するにはふやかしたウサギペレットを餌とします。デュビアは成虫になるまでに半年かかり、繁殖するペースが遅いですが、レッドローチの繁殖速度、繁殖サイクルが早く、2週間に1回くらいのペースで卵を持ちます。その他にも、マダガスカルオオゴキブリやグリーンバナナゴキブリも販売されています。

ワーム類

ワームにはミルワーム、アメリカミズアブ、ブドウムシ、ハニーワームなどの甲虫の幼虫が販売されています。ワームのクネクネした動きが食欲を誘い、食いつきがよいという特徴がありますが、栄養面での問題が多いです。

ミルワーム

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アメリカミズアブ

ハエの仲間のアブの幼虫で、草や果実、動物の死体や糞などの腐敗有機物を食べるため、家庭の生ごみから発生することもあります。日本に水洗式便所が普及するまでは、便所周辺でよく見かけられたため、便所バチと呼ばれていました。 汚物の中から小虫が発生する様が不死鳥を連想することから、フェニックスワーム(Fenix worm)とも呼ばれています。栄養学的に優れ、外骨格にカルシウムを沈着させ、カルチシウムとリン比率も1.5:1と理想的えで、昆虫食の爬虫類用の餌として優れており、カルシワーム(Calci worm)、レプチワーム(Repti worm)と言う名称もあります。繁殖・管理では、腐食や野菜屑を与えるだけなので、容易です。外殻がやや固いのが欠点なので、消化不良に注意してください。

ブドウムシ

ブドウムシとはブドウスカシバという蛾の幼虫が餌として使用されています。ブドウの木を食い荒らす害虫として有名ですが、釣り餌として集魚性が高く、皮膚がほどほどに硬いので、針につけやすいことから、大変人気があります。ブドウ虫は飼育が大変難しいため、やや高価なことが難点です。そのため、近年これに代わって養殖されたブドウ虫が出回り、人気を呼んでいますが、別種のハチノスツヅリガの人工的に大きくした幼虫です。

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ハニーワーム(ワックスモス)

ハニーワームとはハチノスツヅリガという蛾の幼虫で、ワックスモスとも呼ばれています。蜂の巣に産卵し、ハチミツを食べているために高カロリーで、体力低下や産後の個体に適しています。ツヅリガという名の通り、周囲にあるものを体のまわりに綴って巣を作るため、ワームをこの巣から取り出すのが面倒になります。また、動きが素早く、脱走に注意しなければなりません。栄養学的には高脂肪ですが、ビタミンAが少ないです。繁殖・管理は面倒で、手間がかかります。これまで、小型なのが難点でしたが、人為的なホルモン操作によって体長も体重もほぼブドウ虫に匹敵させることに成功し、 大々的な生産が行われつつあります。また、このホルモン操作は、幼虫が蛹になることも抑制し、餌として長く使える利点があります。

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シルクワーム(カイコ)

シルクワームはカイコガ科のカイコガ(中国のカイコの人工改良種で、日本のカイコとは異なります)の幼虫で、1~5令の各サイズが流通しています。栄養学的には、水分が多く、消化性に優れているのですが、タンパク質に対して脂質が少ないです。繁殖・管理は桑の葉やカイコ用人工飼料が必要になるため、結果的に餌代がかさみます。そのために冷凍や乾燥製品が使われることが多く、結果的には水分は少なくなり、消化性も低下します。

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ハエ類

ハエはヤドクガエルなどの小型のカエルや小型樹上棲あるいは幼体のトカゲの餌として、キイロショウジョウバエとトリニドショウジョウバエが、専用の繁殖器とともに販売されています。なお、バナナなどの果物を少し発酵させた瓶に入れておけば、野生のハエも採集できます。

キイロショウジョウバエ

昔から遺伝学等の動物実験に用いられているため、飼育法も確立され、人工飼料も販売されています。ペットショップでは通常は、餌用に人工養殖された、痕跡した羽しか持たないウイングレス(非飛翔型)や飛べないフライトレス(無飛翔型)と呼ばれる飛翔能力を失ったものが見られます。ショウジョウバエの持つ本能として上へ上へと登っていくため、ケージ内の低い位置に放つようにして与えて下さい。。

生き餌ショウジョウバエ

 

 

ショウジョウバエ繁殖セット

 

ミミズ類

餌としてのミミズはフトミミズ、ツリミミズ(シマミミズ)、ヒメミミズの三種類がメインとなります。畑でよく見かけるのがフトミミズで、土を食べてその中にいる微生物を栄養源としています。シマミミズは釣具店で餌用に容易に購入でき、堆肥を餌としており、本来は畑には住み着きません。栄養学的にミミズは高タンパクかつ低脂肪で、消化性も優れ、比較的多くのカルシウムを含んでいます。幼生から成体の爬虫類や両生類¥f¥ffまで幅広く使え、嗜好性も非常に優れていますが、シマミミズやアカミミズなどのツリミミズ科よりもフトミミズ科のミミズの方が、嗜好性が高いようです。繁殖・管理は、衣装ケースのような大きめのケースに畑の土や腐葉土を入れ、野菜屑などを入れておけばよいので容易です。

ミミズ

イトミミズ

イトミミズはイトミミズ科に属する極細のミミズで、下水管や側溝、水田などに集団で生息しています。イトミミズは頭を床土の中に入れて活発に土壌の有機物や微生物を食べ、尾を土の表面に出して糞を排出します。底に何もない容器で飼育すると、潜り込もうとする習性から、お互いに絡み合ってダマになり、中心部が酸欠で死亡します。浅い水底に枯れ草や落ち葉、腐葉土等を敷くだけでも、飼育はできますが、毎日の換水など手間がかかります。かつては観賞魚の餌としてペットショップで頻繁に見かけましたが、栄養学的には主食には向いていないことから、近年は生き餌は目にしなくなりました。管理するのに便利な乾燥や冷凍製品を使うことが多いです。

アカムシ

アカムシ(赤虫)はオオユスリカやアカムシユスリカなどの蚊に似た昆虫であるユスリカ類の幼虫です。河原など水場で成虫が集団発生すると、いわゆる「蚊柱」と呼ばれています。アカムシ(赤虫)という名前の通りに赤色をしており、これは赤血球を持っているために赤色を呈し、ブラットワーム(Blood worm)とも呼ばれています。体長は約1cmの細い姿をしています。栄養学的には、タンパク質が豊富で、栄養価も高いです。そして、嗜好性が高く、多くの動物が好んで食べてくれます。生き餌のアカムシは保管が面倒です。短期間なれば濡らした新聞紙で包み、タッパーに入れて冷蔵庫で保管し、仮死状態にします。水に入れて飼育することもできますが、意外と早くに成長して成虫となり飛翔します。餌として使用するならば、乾燥や冷凍製品を使うことが多いです。昔はアカムシによる病原菌のリスクがあると言われてましたが(実際にアカムシを与えたことで病気にかかったという話はほとんど聞きません)、最近は殺菌されたり、衛生的に飼育されたアカムシが使われています。

衛生的なUV殺菌赤虫

紫外線殺菌した赤虫!新鮮な赤虫を洗浄した後、紫外線で殺菌しました。雑菌がなくなり、栄養分も変化していませんので、生体に安心して与えることができます。

 

UV殺菌栄養添加赤虫

ビタミンプラスの赤虫!化学汚染のない環境で育てられた赤虫で、ビタミン複合体を与えて栄養のバランスをはかりました。

 

ブラインシュリンプ

イモリのオタマジャクシなどは、基本的に生き餌しか食べないです。オタマジャクシは孵化後数日~1週間でエサを食べはじめますが、エサの準備をしなければなりません。夏であれば、池や水田で発生しているミジンコなどを採取して与えます。しかし、入手が面倒なので、通常は、熱帯魚用のエサのブラインシュリンプの卵を孵化させて与えるような方法がとられています(専門の孵化容器も販売されています)。アメリカのカリフォルニア州北部、サンフランシスコ湾とサンパブロ湾産の塩水性のエビ(プランクトン)の仲間です。休眠した乾燥卵が熱帯魚店で販売され、昔はシーモンキーと呼ばれていました。乾燥したブラインシュリンプ・エッグ(卵)を27(25~28)℃ で 食塩水の中でで 約1日で孵化してきます。水温が低くなると、孵化までの時間がかかり、30℃を超えると孵化率は低下します。

孵化させるには、2(1~3)%の塩水でエアレーションを水の中に卵を入れて行います。

塩水中のブラインシュリンプの幼体をスポイトで吸い取り、塩水をガーゼなどで濾してから与えます。孵化後は、水面に卵の殻が残って浮いていますが、これは水質を悪化させる原因にもなるので、なるべく取り除きます。

 
採食したイモリのオタマジャクシは、消化管が赤褐色に透けてみえることから、判断できます。

ブラインシュリンプは、植物プランクトンなどを与えることによって、1日でひとまわりほど大きくなります。そのため、与える生体のサイズに合わせて、大きさを調整させてから与えることもできます。乾燥卵は冷暗所で維持した場合1年ぐらいはそれほど孵化率は落ちません。

淡水エビ

カワエビとヨコエビなどの淡水エビが餌として使われ、これらを乾燥エビが最も有名です。スジエビ、ミナミヌマエビ、ヤマトヌマエビ、テナガエビが熱帯魚店で販売されていますが、餌用ではないので高価です。また、大型のエビでは爬虫類に反撃する場合があります。繁殖は容易ではありません。

スジエビ

2~4cmの大きさのエビ!

 

 

ミナミヌマエビ

1~3cmの大きさのエビ!

 

乾燥したヨコエビ類は特に嗜好性がよく、水ガメでがーーーーーーよく好んで食べられています。しかし、栄養学的には主食としては推奨できません。

淡水巻貝

田、沼、池に生息しているモノアラガイ、サカマキガイ、ラムズホーンなどの巻貝が流通しています。カイマントカゲは貝類を主食としますが、水ガメも好んで食べます。

カタツムリ・ナメクジ

野生のカタツムリやナメクジを給餌すると、寄生虫感染の恐れがあります。しかし、陸棲のオオトカゲやデグーなどでは、カタツムリを好む種類がいます。アフリカマイマイの殻を取り除いた缶詰が流通しています。

ワラジムシ類

ダンゴムシ、ワラジムシ、ヒメフナムシなどは庭や公園の石の下などにいるので、野生個体の捕獲は容易です。昆虫とは異なり、どちらも甲殻類でカルシウムが豊富ですが、ダンゴムシは硬いので積極的には食べられていません。ワラジムシは柔らかいので好んで食べられていますが、カルシウム以外の栄養素が少ないので主食に向いていません。

参考文献
■Finke MD.Complete Nutrient Composition of Commercially Raised Invertebrates Used as Food for Insectivores. Zoo Biology21.269-285.2002
■Finke MD. Complete Nutrient Content of Four Species of Commercially Available Feeder Insects Fed Enhanced Diets During Growth. Zoo Biology34.554-564. 2015