小鳥が口をパクパクしているんですけど?〔Ver.2〕専門獣医師が解説する鳥の甲状腺腫
口パク
あれ?口パクしてないですか?頻繁に口をパクパクと開ける行為は以下のことが考えられます。
- 暑くて体温が高い(熱中症)
- そ嚢炎
- 甲状腺腫(甲状腺機能低下症)
熱中症の場合は
鳥は汗腺を欠き汗をかかないので、開口して熱を逃がします。体温で暖まった呼気を体外へ吐き出すために、頻繁に開口する行為が口をパクパクさせるように見えます。しかし、ケージの中が適温であるのに口をパクパクしていたら病気の可能性が高くなります。
そ嚢炎の場合は
そ嚢炎だと口を開けたり、プツプツと音がなったりします。その他の症状として、食欲低下、嘔吐、削痩(痩せる)がみられます。
甲状腺腫の場合は
甲状腺腫では食欲は末期になるまで落ちませんし、肺炎・気嚢炎のように、呼吸困難や活動性の低下は見られず、なんとなく元気もあるのが特徴です。食欲や動きに大きな問題ない時は、甲状腺腫が最も疑われます。
甲状腺の解剖
鳥の甲状腺は対になっており、胸郭入口の首の付け根の腹側に、気管を挟むようい位置します。各甲状腺は、内側に総頸動脈、外側に頸静脈と密接しています〔Breit et al.1998〕。甲状腺の組織は多数のコロイドを含む甲状腺濾胞から構成されており、コロイドの主成分はチログロブリンと呼ばれる甲状腺ホルモンの前駆体です〔Joyce et al.1988〕。甲状腺は一般的な代謝率を維持し、多くの臓器を制御する重要な器官です。
甲状腺ホルモン
甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、哺乳類と同様に、体重、羽毛の維持、生殖能力および二次性徴、脂質代謝などを調節します。特に換羽を促進する作用が有名です〔Pant et al.1993,Szelenyi et al.1988,King et al.1985〕。そして、近年の報告では、鳥の雛が親の姿を記憶して追従するようになる刷り込み学習(インプリンティング)にも関与していることが分かりました〔Yamaguchi et al.2012〕。鳥類の甲状腺ホルモンも、哺乳類と同様にヨウ素から合成され〔Wentworth et al.1985,Newcomer 1978,Hoshiro et al,1970〕、トリヨードチロニン(Triiodothyronine:T3)とチロキシン(Thyroxin:T4) が生成されます〔Wentworth et al.1985〕。甲状腺ホルモン産生の制御に関与する視床下部および下垂体のフィードバックにおいて、鳥類では哺乳類と異なる点があります。視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)は、下垂体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)およびや甲状腺を刺激するのではなく、下垂体による成長ホルモンの放出を増加させます。末梢でのT3のレベルが低下することで、成長ホルモンはT4の不活性な rT3 への変換を防ぐことによって T3を増加させます〔Kuhn et. al1993,Hull et al.1995〕。鳥においても甲状腺ホルモンは、T3が優位に作用すると言われています〔McNabb 1995〕。
※T4は一般的に視床下部でT3に変換されます。リバースT3(Reverse triiodothyronine:rT3)とは、T3と同様T4の代謝産物ですがT3の活性作用がありません。体が体内のエネルギーを節約しようとする際に、T4からT3ではなくT3の非活性型であるリバースT3に変換し、新陳代謝を低下させて脂肪を蓄えようとします。
甲状腺疾患
甲状腺の過形成および甲状腺腫が圧倒的に多発し〔Leach 1991,Blackmore 1982,Schlumberger 1955, Lumeij 1994〕、鶏でよく研究されています〔Ito et al,1986〕。愛玩の飼鳥ではセキセイインコ〔Rae 1995,Lumeij 1994〕に数多く報告され、散発的な症例は他の鳥種でも報告されていますが〔Ivanics et al.1999,Sasipreeyajan et al.1988〕、一部ではコンゴウインコにも好発するとも言われています〔Schmidt et al.2002〕。腫大した甲状腺は両側が大きくなり、セキセイインコで約2.7×1.4cmまでなることがあります〔Leach 1991〕。病理組織学的には、濾胞上皮はびまん性に過形成を起こしたり、嚢胞形成あるいは乳頭状突起が存在する上皮が認められます〔Blackmore 1982,Schlumberger 1955,Wadsworth et al.1979〕。そして、自己免疫性甲状腺炎の自然発生例が鶏〔Sundlick et al,1991, Dietrich et al.1997〕とヨウム〔Schmidt 1997〕で報告があります。形態では顕著な異常が見られず、甲状腺機能低下を起こすことは稀であると考えられていますが〔Merryman et al.1998〕、自然発生のコンゴウインコと実験でのオカメインコの症例があります〔Harms et al.1994〕。腺腫や癌腫を含む甲状腺腫瘍はセキセイインコで頻繁に報告され 〔Leach 1992〕 、他の種でも見られます〔Wadsworth et al.1979〕 。 癌腫は未分化性で浸潤性がありますが〔Schmidt 1992〕、腫瘍性の病変の症例では、過形成や炎症の時と同様に、機能的なホルモン分泌を行っていないことが多いです〔Rae 1995, Schmidt 1997〕。しかしながら、 腺の質量が増加しているため、鳥は甲状腺機能が正常のこともあり得ます。甲状腺過形成の初期は臨床徴候は見られず、気管を圧迫する両側性の甲状腺肥大を指す場合があります〔Ivanics et al.1999〕。セキセイインコの甲状腺の腫大により、気管や食道の圧迫で呼吸困難や嚥下困難を引き起こし、ハトでは嗜眠や肥満が見られます〔Schmidt et al.2002〕。 その他、羽毛形成不全や換羽の遅延などの羽毛障害、高脂血症および脂肪腫などの脂肪代謝障害が起こります〔Harms et al.1994〕。
肥満や脂肪腫
甲状腺ホルモンが低下すると、脂質代謝低下から鳥は肥満になります。中には脂肪腫ができる鳥もいます。
口パク
甲状腺の腫大が進行すると、気管を圧迫するため、口をパクパクする開口呼吸が見られます。「ヒーヒー」、「プチプチ」という呼吸音が聞かれることもあります。
羽毛症状
甲状腺機能低下症になると、換羽が不調になったり、羽の形状の異常(羽毛形成不全)や羽色の変化(セキセイインココザクラインコに好発)が見られることがあります。
ブンチョウでは、はばきが見られたり、顔や頭の羽が抜けることがあります。
原因
甲状腺疾患の主な原因は、餌のヨウ素欠乏がであると考えられています が、他の潜在的な原因としては、植物由来の甲状腺腫誘発物質の摂取や遺伝的素因などが挙げられます〔Rae 1995, Schmidt 1997〕。甲状腺腫誘発性として有名であるのがゴイトロゲン(Goitrogen)です。ゴイトロゲンはヨウ素の取り込みを阻害し、甲状腺の肥大、つまり甲状腺腫を引き起こす物質の総称で、アブラナ科の植物(キャベツや芽キャベツ)、大豆などにも含まれています。ヨウ素の取り込み、ヨウ素のヨウ素酸塩の酸化、ホルモン分泌、または T4 を T3 に変換するモノデイオジナーゼを妨害することにより、甲状腺ホルモンを妨害する可能性が示唆されています〔Jones et al.1997〕。 甲状腺過形成につながる遺伝性素因が、ヒツジとヤギ〔Jones et al,1997〕、ヒト 〔 Medeiros-Neto et al.1979〕で報告されています。 なお、好発するコンゴウインコでは、特にルリコンゴウインコに見られることから、鳥種や品種に関連する遺伝的問題の可能性も考慮されています。また、鶏では甲状腺の状態に比例して、甲状腺ホルモンが卵黄に存在します。 卵黄リポタンパク質に結合した甲状腺ホルモンが、胎盤に入りこみます〔McNabb et al.1997〕。何らかの理由で甲状腺ホルモンが欠乏している母鳥が甲状腺欠乏状態の卵を産むと、雛の先天性甲状腺腫を引き起こす可能性があります。
検査
TSH 反応検査や甲状腺の病理組織学的検査での確認がなければ、甲状腺疾患の確定診断はできません。血液サンプル量および測定基準の未確立なことから、血液検査は非現実ですが、一部ではTSH を投与し、特定の期間後にT4 を測定することも報告されています〔Zenoble et al.1985,Lothrop et al.1985〕。しかし、動物用 TSH は現在入手できないため、人用の製剤を使って行わています〔Fudge et al.2001〕。そして、鳥類の甲状腺ホルモンの半減期 は哺乳類よりもはるかに短いため、例え測定しても、一回のホルモン測定だけでは正確に判断できません〔Rae 2000〕。病理組織採取も、鳥では侵襲が高いことから行われません。したがって、臨床症状から暫定的に診断されています。X線検査にて腫大した甲状腺が発見されることあります。
治療
一般にはヨード剤を飲み水に混ぜて投与すると改善がみられます。肥満が著しい場合は、甲状腺ホルモン製剤の投与や食事療法もあわせて行います。
予防
ヨードが豊富なエサを与えることが予防になりますが、ヨードはボレー粉に多少含まれているだけです。主食が種子だと十分なヨードを摂るのは困難ですので、ペレットに切り替えることが理想です。日常的にヨードを含むサプリメント剤を飲み水に混ぜることも推奨されます。
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