専門獣医師が解説するカメレオンの魅力と特徴
地上のライオン
カメレオンは特徴的な外貌をしています。扁平な体幹で、細長い四肢で枝をつかんで重心をとっており、細くて長い尾は物に巻きつけることができます。カメレオンの大半は樹上性で、地面を歩行するのは上手くありません。後頭部に隆起(カスク)があり、小型の恐竜のようにも見えます。
カメレオンという名前はギリシャ語の khamai(地上)とleon(ライオン)から、「地上のライオン」という意味になり、後頭部のカスクがたてがみに似ていることや体を膨らませて威嚇する姿をライオンに見立てことによります。また、カメレオンは体色を保護色として瞬時に変化させることができますが、これは興奮したり、体温を上昇させるなどの精神的な意思表示でもあります。そして、目は大きく円錐形をしており、左右の目をキョロキョロと別々に動かすことができ、前方にいる虫をとらえて、ロケットのように発射した舌を伸ばして捕る姿が有名です。食性は主に昆虫食ですが、大型種は鳥類や哺乳類を食べるものもいます。そして、補助的に植物質を摂取するものもいます。
大きさ
カメレオンの大きさは様々です。最最重量種は約680gにまでになるパーソンカメレオン(Calumma parsonii)で、全長は45~60㎝です。最長種はウスタレカメレオン(Furcifer oustaleti)で、最大68㎝まで成長する報告があります(範囲は40~68㎝)。最近まで、最も小さいカメレオンは、体長3㎝のミクロヒメカメレオン(Brookesia micra)でしたが、2021年に体長約2.15㎝のナノヒメカメレオン(Brookesia nana)がマダガスカル島で発見されました〔Glaw et al.2021〕。
眼球
カメレオンの視力はとても高く、獲物の捕獲、交尾、捕食者からの回避に利用され〔Avichai et al.2012〕、これは聴力と嗅覚を失う代わりに視力を極限に発達させ進化してきましたと言われています。目は円錐状に丸く突き出ており、上眼瞼と下眼瞼が丸くつながって癒着しており、中央に瞳孔のための小さな穴が開いています。両眼を同時に異なる方向に動かすることができるため、焦点を別々に合わせたり、距離をより正確に判断したり、常に天敵を監視しながら、周囲をパノラマ的に見回したりすることができます〔Ott et al.1998,Foy 1983,Avichai et al.2012〕。
獲物を発見した場合、検出した眼はもう一方の眼の調節をし〔Ott et al.1998〕、両眼視で焦点を合わせるという考え〔John et al.2002〕と、獲物を発見したらそれぞれの角膜が調節され、一つの眼のみで独立して物に焦点を合わせる単眼視という意見もあります〔Harkness 1977〕。カメレオンにおける網膜像でのサイズの拡大も、他の脊椎動物の目と比べて倍率が高くなり〔Ott et al.1995〕、15m以上離れた所にいる虫を視認できると言われてますが、暗闇ではほとんど目が見えません。
四肢と指
四肢の趾指はそれぞれ5本ですが、前肢は内側の3本の指と外側の2本の指、後肢は前肢と反対に内側の2本の趾と外側の3本の趾が癒合して二股にトングのようになっており、木の枝を器用にしっかりと掴むことができます。趾指の先には爪があり、枝に食い込ませることで体を支えることができます〔千石2001Amold et al.1986〕。
尾
尾は細く、多くの種でものに巻きつけることができますので(ナマクアカメレオン、ヒメカメレオン属などは尾が短いために物に巻きつける力が弱い)、第5の足とも言われ、樹上では安定するにに使われることがあります。なお、尾は自切することはしません〔千石 2001,Amold et al.1986〕。
体色
舌
大半のカメレオンは昆虫動物食で、体長の約1.5~2倍の長さの舌を伸ばして虫を採食します〔Higham et al.2014〕。特に小型のカメレオンの種類は、大型のカメレオンよりも長い距離に舌を突き出すことができ、体長の2 倍以上も舌を突き出すことも分かっています〔Anderson et al.2012〕。舌の中には、根元から1本の骨(舌骨)が伸びており、周りは筋肉が付着しています。この筋肉は普段はアコーディオンの様に折り込まれていますが、獲物をつかまえる際には、バネ仕掛けのように根元にある舌骨が前方に押し出され、折り込まれた筋肉が伸びて細長くなります〔Herrel et al.2001〕。しかし、伸びた舌の前半は筋肉のみで、根元にのみ舌骨があり、舌はストローのような形状をしています。舌の先から分泌される粘液で獲物をくっつけて捕獲し、舌を引っこめて獲物を口にいれます。このような舌の動きで自分の体重近くのエサも捕まえることも可能とします〔Herrel_et al.2000〕。
繁殖
ほとんどの種は卵生で、メスは種に応じて10~30cmの深さの穴を地中に掘り、産卵します。クラッチのサイズは種によって大きく異なります。小型のヒメカメレオン亜科(Brookesinae)〔ヒメカメレオン属・カレハカメレオン属〕は2~4個の卵しか産みませんが、大型のエボシカメレオン( Chamaeleo calyptratus ) は20~20 個、パンサー カメレオン(Furcifer pardalis)は10 ~ 40 個 の卵を産むことが知られています。クラッチのサイズは、同じ種でも大きく異なります。通常、卵が孵化するまでの期間は4〜12カ月ですが、パーソンカメレオンの孵化は最長2年かかります〔Frank et al.1994〕。ジャクソンカメレオン(Chamaeleo jacksonii)などは幼体を産む種類もいます。
絶滅の恐れ
特徴的な外貌のカメレオンですが、分類学的にはトカゲの仲間で、有鱗目カメレオン科に属しています。カメレオンは200以上の種類が知られ、そのうち76種はマダガスカル島のみに生息しています。森林伐採や焼き畑農業の影響やペット用の乱獲などにより生息数が減少している種類もおり、カメレオンの約半分の種は絶滅の危機にさらされ、大半の種類がワシントン条約付属書掲載種です。なお、ロゼッタカメレオン(Brookesia perermata)はワシントン条約附属書Iに掲載されています。日本にも輸入される個体は主に野生個体(WB)が流通しますが、一部の種類では繁殖個体(CB)も流通します。
飼育の難しさ
カメレオンはペットとして人気があり、現状では膨大な数のカメレオンが違法に捕獲されています。カメレオンの珍奇な姿、興味深い習性などもあって、爬虫類の飼育者ならば一度は飼育にあこがれる種類です。ペットとしての需要はかなり高く、特にビギナーにとっては飼育するのは非常に困難です。「飼うべきでない」「繁殖できない」「長期飼育は難しく短命で終わってしまう」と言われてきましたが、その後は飼育法が次第に確立し、現在ではそこまで言われることはありません。飼育の困難な理由はストレスに弱いこと、餌は生き餌でないと食べないこと、普通の水容器からは飲まないこと、温度と湿度管理が難しいことなどがあげられます。完璧な飼育マニュアルもまだ確立していないのが現実ですので、試行錯誤しながら自分のカメレオンに最適な方法もを探さなければなりません。
寿命
カメレオンの寿命は、種類によって平均5カ月~最長20年とかなり相異があります。ペットや動物園でのCB個体は、WB個体より寿命が延びるケースが多々あります。しかし、カメレオンに関しては逆で、CB個体では2~3年ほどで死んでしまうケーズが多いです。一般的な寿命は下記の表にまとめてみました。なお、短命な種類もカメレオンでは珍しくなく、カーペットカメレオンは1~2年ですが、ラボードカメレオン(Furcifer labordi)は、約9ヵ月を卵で過ごした後、孵化して2ヵ月を要して成熟して繁殖し、寿命は4~5ヵ月ととても短いです。
表:カメレオンの種類
種類 | 大きさ | 性格 | 生息地 | 食性 | 繁殖形式 | 寿命 |
---|---|---|---|---|---|---|
パンサーカメレオン | 40~52㎝ | 臆病で温厚 | マダガスカル北部 | 昆虫動物食 | 卵性 | 2~5年 |
エボシカメレオン | 40~60㎝ | わがまま | イエメン | 雑食(昆虫と植物) | 卵性 | 5~8年 |
パーソンカメレオン | 45~60㎝ | 物静か | マダガスカル北部・東部 | 昆虫動物食 | 卵性 | 10~20年 |
ジャクソンカメレオン | 20~30㎝ | 気が強い | ケニア・タンザニア | 昆虫動物食 | 胎性 | 8~10年 |
セネガルカメレオン | 20~30㎝ | 神経質 | アフリカ大陸 | 昆虫動物食 | 2~5年 | |
ヤマカメレオン | 15~35㎝ | 暗い | カメルーン・ギニア | 昆虫動物食 | 卵性 | 約10年 |
カーペットカメレオン | 20~30㎝ | なつきやすい | マダガスカル | 昆虫動物食 | 卵性 | 1~2年 |
マルテカメレオン | 20~30㎝ | 独特の雰囲気 | マダガスカル北東部 | 昆虫動物食 | 卵性 | ? |
コノハカメレオン | 約5㎝ | のんびり系 | タンザニア | 昆虫動物食 | 卵性 | 約3年 |
スパイニーカメレオン (ボタンカメレオン) | ~55㎝ | 丈夫 | マダガスカル南東部 | 昆虫動物食 | 卵性 | ? |
ラボートカメレオン | 23~25㎝ | 不明 | マダガスカル南西部 | 昆虫動物食 | 卵性 | 4~5カ月 |
参考文献
■Anderson CV et al.Scaling of the ballistic tongue apparatus in chameleons.Journal of Morphology273(11):1214–1226.2012
■Arnold G. Kluge,Gordon Shuett.トカゲ類.原幸治訳.動物大百科.12 両生・爬虫類.深田祝監修 T.R.ハリディ、K.アドラー編,平凡社.東京:p100-121.1986
■Avichai L,Keter-Katz H,Katzir G.Threat perception in the chameleon (Chamaeleo chameleon) evidence for lateralized eye use.Animal Cognition15:609–621.2012
■Foy S.The grand design: Form and colour in animals. Prentice-Hall.1983
■Frank G,Miguel VA.Field Guide to Amphibians and Reptiles of Mad.1994
■Glaw F et al.Extreme miniaturization of a new amniote vertebrate and insights into the evolution of genital size in chameleons.Nature.Scientific Reports11(1).2021
■Harkness L.Chameleons use accommodation clues to judge distance.Nature267:346–349.1977
■HerrelA,MeyersJJ,AertsP,Nishikawa KC.Functionalimplicationsofsupercontractingmuscleinthechameleontongueretractors.JExpBiol204:3621-3627.2001
■Herrel_A et al.The mechanics of prey prehension in chameleons.Journal of Experimental Biology203 (Pt 21):3255–3263.2000
■Higham TE,Anderson CV.Function and adaptation of chameleons.In The Biology of Chameleons.Berkeley CA.University of California Press.Tolley KA,Herrel A.eds:p63–83.2014
■John et al.Convergence of specialised behaviour, eye movements and visual optics in the sandlance (Teleostei) and the chameleon (Reptilia). Current Biology25.2002
■Ott M,Frank S.A negatively powered lens in the chameleon.Nature373:692–694.1995
■Ott M,Schaeffel F,Kirmse W.Binocular vision and accommodation in prey-catching chamaeleons.Journal of Comparative Physiology A(3):319–330.1998
■千石正一.カメレオンの分類 第1回.クリーパー8.クリーパー社:p32-33.2001