フェレットの下痢が治りません・・・・専門獣医師が解説する慢性下痢
目次
本当に多いですね!下痢
フェレットはよく下痢をします。糞が柔らかい軟便が時に見られる位なら、ストレスを初め軽い原因が多く、まだ安心してよいです。水のような水溶性の下痢や血液を含んだ血便などは何か原因がありますので、動物病院でしっかりと検査を受けて下さい。なかなか治らない慢性の下痢がフェレットでは大きな問題になっています。なお、フェレットは胃腸が単純な構造をしており、餌が胃腸を通過するのは、2~3時間と短いです。
胃腸にトラブルが起こると、食べたエサが消化せずに緩い状態で排泄され、軟便や下痢になります。
原因は?
原因が下記のようにとても多く考えれますので、一つ一つ原因を探っていくしかありません。もちろん原因が一つでなく、複数ある可能性もあります。
- ストレス
- 不適切な餌
- 胃炎・胃潰瘍
- 異物
- コクシジウム(寄生虫性腸炎)
- 細菌性腸炎
- ウイルス性腸炎
- 内臓の病気(肝不全・膵炎など)
- 腫瘍
- アレルギー
- 免疫性腸疾患
ストレス
フェレットにとって、ストレスとは騒音や温度変化、長距離の移動などが考えられます。
不適切な餌
フェレットは繊維質の消化が苦手なため、野菜を多く与えると消化不良や軟便になります。乳糖も分解できないため、ミルクなどが配合されたものも与えないで下さい。急に餌を変えることでも軟便や下痢を起こします。
胃炎・胃潰瘍
ヘリコバクター菌(Hericobacter mustelae)の感染で嘔吐や食欲不振が見られ、胃炎・胃潰瘍が起こります。胃から出血すると黒色の軟便(メレナ:黒色のタール状の軟便)をします。
異物
胃腸に異物があると便に異常が見られます。幼体は部屋落ちている物(異物)を、口にして飲み込んでしまう傾向があります。異物が胃腸につまって便の異常が起こります。成体では毛づくろいをしてなめとった毛が胃に停滞する毛球症が多いです。
便に異物が混じって出ていることがあります。
異物の小片や小さい毛球は腸に閉塞を起こし、突然腹痛が見られ、ぐったりとします。緊急の外科手術で摘出手術をしなければなりません。
X線にうつらない異物(金属や石以外)はバリウム検査やCT検査をして確認します。
コクシジウム
コクシジウムは肉眼では見えない位の小さな原虫(寄生虫)です。腸の粘膜に寄生して、腸に障害が起こり、軟便になります。糞便検査で、便を顕微鏡で確認して診断します。
主に幼体に症状が見られますが、それほどひどい下痢になることはなく、軟便が多いです。成体になると免疫力でコクシジウムの増殖をおさえるため、無症状のこともあります。
細菌性腸炎
カンピロバクター(Campylobacter spp.),クロストリジウム(Clostridiumu botulinum),サルモネラ(Salmonella spp.),マイコバクテリウム(Mycobacterium spp.)などの細菌感染によって下痢を起こします。腸炎が起こり、水溶性下痢や血便が見られ、食欲不振や脱水を二次的に起こします。糞便検査で腸内細菌叢が崩れているのが確認されますが、崩れていないこともあります。
原因となる特定の細菌を便から培養検査で検出したり、遺伝子(PCR)検査で診断します。腸の細胞から細菌を染色して診断することもあります。
ウイルス性腸炎
フェレットではロタウイルス〔Torres-medina 1987〕とコロナウイルス〔Williams 2000〕が有名です。特に問題となっているのがコロナウイルスです。コロナウイルスは軽い下痢しか起こさない腸コロナウイルスと体の中にしこりを作る全身性コロナウイルスがあります。腸コロナウイルスは明るい緑色の下痢が特徴といわれていますが、実際は色々な下痢を起こします。下痢は数日で落ち着くことが普通ですが、長く続くことも珍しくないです。下痢と同時に嘔吐が起こり、嘔吐が治まってもその後に食欲不振になります〔Wege et al.1982,Williams et al.2000〕。潜伏期間は1~2日と短く、感染力は強いので同居のフェレットには要注意です。
内臓の病気
肝不全や胆石、膵炎などの内臓の病気でも、軟便や下痢を起こします。主に血液検査で診断をしますが、胆石はレントゲン検査などで診断します。
腫瘍
胃腸や肝臓にリンパ腫などの腫瘍ができて下痢をすることもあります。腫瘍の診断は、レントゲン検査、エコー検査、CT検査などで判断し、最終的には細胞を採取して診断をします。
アレルギー
食物などが抗原となって腸にアレルギー反応がおこり、慢性下痢を起こします。好酸球というアレルギーに関与する細胞が集まり、好酸球性腸炎とも呼ばれます〔Burgess et al.2002〕。腸のアレルギーの確定診断は、原因食物の負荷試験による症状の有無を確認をしますが、なかなか診断をするのが難しいです。
免疫性腸疾患
自己免疫機序によって腸に障害が起こり、慢性下痢が見られます。特に炎症性腸疾患が、自己免疫性疾患として有名です〔Burgess et al.2002〕。炎症性腸疾患の確定診断のためには、全身麻酔で開腹手術を行い、腸の細胞を採取します。
症状
下痢と同時に出現しやすい症状は、腹痛や発熱、嘔吐などで、もちろん食欲も低下して、脱水も起こります。
下痢は症状が続く期間で2つに分けられます。発症から約1週間以内に症状が落ち着くものを急性下痢、1ヵ月以上続くものを慢性下痢としています。慢性下痢になると、痩せてきて、体力がなくなって衰弱死の恐れがあります。フェレットではもともと排便の回数が多いので、下痢によって脱肛と言って、肛門の粘膜が外に反転することがあります。フェッレットは違和感により、お尻を擦ったり、痛みもあります。
検査の流れ
①エサの内容を見直し、ストレスがないか確認します。
②糞便検査:消化不良になっていないか?腸内細菌叢が崩れていないか?コクシジウムがいないか?
③X線検査:腸にガスが溜まっていないか?異物がないか?
④血液検査:内臓の病気がないか?
⑤超音波検査:内臓の状態や腫瘍がないか?
⑥糞からの遺伝子(PCR)検査:特有の感染症がないか?
===ここまでは麻酔をかけないフェレットに対してストレスがない検査です===
⑦全身麻酔でCT検査:レントゲン検査やエコー検査で分からなかった内臓の状態や腫瘍の有無?
===以上の検査でも結果が出ない時は====
⑧全身麻酔で開腹手術を行い、腸の細胞を採取して病理検査を行います。
下痢の時の対応
治療以外に腸に優しいエサに変えたり、サプリメントを投与します。腸に優しいエサは、流動食を与えるか、腸に刺激が少ないペレットに変える2つの方法があります。
流動食
国内で販売されている優れた流動食は下記の表の3商品になります。フェレットに流動食を与えると、糞の量が減少しますが、流動食が弱った腸で高率に消化される為です。
表:フェレットの流動食
商品 | イースター・テクニケアー | イースター・肉食小動物 クランブル |
イースター・小動物用チキンペースト |
性状 | クランブル | クランブル | ペースト (水分81%) |
粗タンパク質 | 37%以上 | 38%以上 | 14%以上 |
脂質 | 21%以上 | 18%以上 | 4.5%以上 |
粗繊維 | 2.0%以下 | 2.5%以下 | 0.1%以下 |
エネルギー(100g中) | 400kcal以上 | 503kcal以上 | 122kcal以上 |
材料 | ポークミール 牛脂 米粉 |
肉類 小麦粉 コーングルテン |
肉類 |
サプリメント | アガリクス ヌクレオチド DHA・EPA 乳酸菌 |
ヌクレオチド DHA・EPA 乳酸菌 |
中鎖脂肪酸 DHA・EPA 乳酸菌 タウリン |
イースター社のテクニケアーと肉食小動物クランブルは、粉・顆粒状なのでお湯でふやかしてから与えるか、シリンジを使って食べさせて下さい。両商品は乳酸菌などのサプリメントが豊富に配合されています。嗜好性で選んでもよいし、グルテンフリーの方が腸に優しいので、下痢がひどい時は、小麦の代わりに米粉を使用しているテクニケアーをお勧めします。
お薦め流動食はコチラ!
ひどい下痢ならテクニケアー!
シリンジはコレを使って!
超便利っす!
イースター社の小動物用チキンペーストは2.5gの分包になっている生肉だけのチュールタイプの流動食です。流動食を作る手間もいらず、封を切ってそのまま与えることができます。配合されている中鎖脂肪酸はエネルギーに転換されますので、体力のないフェレットにぴったりです。上記の流動食に混ぜて使っている方も多いです。
チュールタイプの流動食
高エネルギーの不純物まったく無しのチュール!
イースター社のテクニケアーと肉食小動物クランブルは溶かして与えないといけません。水も一緒に飲むことができますが、電解質飲料であればなおさらよいですね。溶かす水代わりにしてもよいし、下痢の時の飲み水として与えて下さい。
電解質飲料はコチラ!
動物病院で処方されている。動物病院用!
安い電解質飲料ならコレ!
これ溶かして使って!ペット向けの電解質の粉で、エネルギーも摂取できる一石二鳥なんです。
お腹に優しいペレット
鶏肉不使用のペレットで、七面鳥・鹿肉・ラム肉等を使用したアレルギーを起こしにくいフードを与えてみて下さい。このペレットに切り替えてみて軟便や下痢が治まるか確認して下さい。
フェレット用低刺激ペレット
アレルギーや免疫性腸炎のフェレットに!
サプリメント
軟便や下痢のフェレットに与えるサプリメントは乳酸菌や整腸剤がベストです。ただし、胃酸で失活しない乳酸菌が条件となり、下記の乳酸菌は胃酸に接しても問題ない乳酸菌になります。
まずは強力なこの乳酸菌から使って!
ネコと同じ量でスタートして下さい。結構、評判良いです。動物病院用!
下痢止め!ディアバスター
上の乳酸菌でダメなら、これも併用しましょう! 動物病院用!
蔓延しないのか?
多くの飼い主はフェレットが下痢から回復していると安心しますが、ウイルス感染だと、改善後にも長期間に糞を介して、あるいは唾液からウイルスを他のフェレットにうつすことがあります。
・とりあえず餌だけ変えてみる?
・血液検査やX線検査で全身チェック
・CTスキャンはしこりの有無の確認?
・糞からのコロナウイルス遺伝子検査はするべき?
・お腹開けてまで調べるのか?
フェレットの病気の本ならコレ!
解剖や生理そして病気のことが分かりやすくまとまって書いてる本!
参考文献
■Burgess M,Garner M,Clinical Aspects of Inflammatory Bowel Disease. In Ferrets. Exotic DVM.Vol4(2). Zoological Education Network.FL.2002
■Torres-medina A.Isolation of an atypical rotavirus caused diarrhea in neonatal ferret.Lab Anim Sci37:167-171.1987
■Wege H,Siddell S,V.ter Meulen.The biology and pathogenesis of coronaviruses.Curr.Top. Microbiol.Immunol99:p165-200.1982
■Williams BH,Kiupel M,WestKH,Raymond JT,Grant CK,GlickmanLT.Coronavirus-associated epizootic catarrhal enteritis in ferrets.J.Am.Vet.Med.Assoc217 (4):p526-530.2000
■Williams BH,Ferret Microbiology and Virology.Section 3.Rabbit and Ferret Laboratory Medicine.In Am ed.Laboratory Medicine Avian and Exotic Pets.WB Saunders.Philadelphia.2000