切れても生えてくる?専門獣医師が解説すイモリの四肢の再生
えっ?切った四肢がまた生える?
両生類有尾類であるイモリやサンショウウオは組織の再生能力が高く、四肢や尾の一部を切り取っても、完璧に同じ状態に戻ります。四肢や尾以外にも、目(水晶体や網膜)、脳や心臓の一部を破壊されても再生できるという驚異的な能力です。しかも、再生は1度きりではなく、くり返し再生が行われます。
もっとも両生類では水性期(オタマジャクシ)は多かれ少なかれ、同様の再生能力を備えており、再生能力は通常は変態後の陸に上がった時期になると減退していきますが、有尾目であるイモリ・サンショウウオは例外的に成体になても何度でもくり返し再生できる特徴があります。つまり、両生類の無尾目であるカエルはオタマジャクシの時は再生能力が備わっていますが、カエルの状態になると再生はしません。イモリ・サンショウウオは成長してもその能力を維持し続けることも特長のひとつです。
再生する理由は?
オタマジャクシの再生では、幹細胞と呼ばれる特殊な細胞があちこちに存在し、さらに幹細胞にはいくつか種類があり、それぞれ筋肉や骨など決まった種類の細胞になります。これらの幹細胞が傷口付近に集まって筋肉や骨などの細胞に変化し、四肢が再生します。成体のイモリやサンショウウオの再生は上記のオタマジャクシとは異なります。切断された部分の細胞の脱分化が行われて再生します〔千葉親文 2018〕。再生には新奇遺伝子 Newtic1 (両生類有尾類のイモリ〔Newt〕で発見されたためNewtic1と名付されました)が関与しています。
イモリの四肢を切断すると、周囲から表皮が移動してきて約1日で切断面が覆われます。
次に再生芽と呼ばれる細胞の塊を作り再生が始まります。
Newtic1は一部の赤血球から発現され、この赤血球は白血球の一つである単球とともに特殊な集合体を形成しながら全身を循環し、タンパク質を合成・分泌するのに必要な細胞内小器官を備えて、再生芽の形成に必須とされる因子が含まれています。傷口の毛細血管の中で集合体は再生を行い、再生芽も成長するに伴って血管も伸長していきますので、その先端部に集合体もさらに集積して再生を施します〔Casco-Robles et al.2008〕。
目の水晶体(レンズ)も取り除くと、全く別の組織である虹彩からレンズを再生します。虹彩はメラニン色素を多く含んでいるため黒色な組織ですが、この細胞が脱分化し、透明なレンズの細胞を再生します〔斎藤ら 2003 〕。
人医への応用
イモリやサンショウウオの再生は、種々の遺伝子の発現調節で行われています。この遺伝子をさらに特定し、人の組織の再生への足がかりとなるかもしれません。今後の再生医療研究への貢献が期待されます。
参考文献
■Casco-Robles RM,Watanabe A,Eto K,Takeshima K,Obata S,Kinoshita T,Ariizumi T,Nakatani K,Nakada T,Tsonis PA,Casco-Robles MM,Sakurai K,Yahata K,Maruo F,Toyama F,Chiba C.Novel erythrocyte clumps revealed by an orphan gene Newtic1 in circulating blood and regenerating limbs of the adult newt.Sci Rep8(1):7455.2018
■斎藤建彦,千葉親文.神経眼科と再生医学:イモリ網膜再生のメカニズム(解説/特集)神経眼科(0289-7024)20(3):P281-289.2003
■千葉親文.筋の再生能力とその進化:イモリ研究が示唆すること.超高齢社会に挑む骨格筋のメディカルサイエンス.武田伸一編.実験医学36(7):82-88.2018