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専門獣医師が解説する両生類の総論

 2019/02/16 1 イモリ・サンショウウオとは この記事は約 14 分で読めます。 942 Views

両生類とは

両生類は魚類と爬虫類との中間に位置する変温動物で、南極および海洋を除く世界各地に広く分布し、あらゆる場所に適応放散しています。分類的に、四肢を欠いて細長い胴体の無足目(アシナシイモリ類)、長い尾を持ち短い四肢のある有尾目(サンショウウオなど)、尾を欠いて体幹が短く後肢の発達した無尾目(カエル類)の3群に分けられています。基本的に両生類は夜行性で、昼間は休んで夜に活動します。

分類

無足目

無足目(Gymnophiona(裸の蛇の意)または Apoda(足無しの意))は、両生類中最も原始的なグループです。四肢と肢帯を欠き、体型はミミズに類似して細長く、多数の環状溝が見られ、尾が極めて短いです。眼は退化していますが、眼と鼻孔の間に伸縮自在の触手があり、ヤコブソン器官(鋤鼻器)に匂いを運んでいます。基本的には耕地の地中や沼地の泥中に生息し、全種で体内受精を行います。オスの総排泄腔の後部が反転して陰茎状の交接器を持ち、25%の種類が卵生、75%の種類が卵胎生です。アジア、アフリカ、アメリカの熱帯地方に分布しています。

https://www.infoescola.com/animais/cobra-cega/

有尾目
有尾目(Caudata(尾を持つもの意))は、以下の10科約670種が属しています。ユーラシア大陸、北アメリカの冷涼で多湿な気候の地域に分布し、プレソドン科に属するミットサラマンダー属のみが、熱帯を越えて南アメリカ大陸まで棲息しています。外見は細長い胴と長い尾、前後とも同じ長さの短い四肢(サイレン科は前肢のみ)を持っています。有尾目の約90%が体内受精で行い、体外受精を行うのは原始的なサンショウウオ上科に属する種とサイレン上科の種類のみです。

表:有尾目の分類

サンショウウオ上科Cryptobranchoidea オオサンショウウオ科 Cryptobranchidae
サンショウウオ科 Hynobiidae 
サイレン上科 Sirenoidea サイレン科 Sirenidae 
イモリ上科 Salamandroidea トラフサンショウウオ科 Ambystomatidae
オオトラフサンショウウオ科 Dicamptodontidae
イモリ科 Salamandridae
ホライモリ科 Proteidae 
オリンピックサンショウウオ科 Rhyacotritonidae
アンフューマ科 Amphiumidae 
プレソドン科 Plethodontidae 

無尾目

無尾目(Anura)には25科約6500種が属し、両生類ではもっとも栄えているグループです。極地を除く世界の各大陸に分布し、平地から高地、海水を除く水中から砂漠地帯まで、あらゆる環境に適応放散しています。分類的には比較的原始的なグループ(ムカシガエル亜目)と、比較的新しいグループ(カエル亜目)に大別されています。カエル亜目にはヒキガエル、アカガエル、アオガエル類などよく知られた種類が含まれ、無尾目の大部分を占めています。成体の胴体は寸胴で、頭部は幅広く、頸部のくびれがなくて直接胴に接している。尾は存在せずに、発達した後肢で跳躍し、敵から逃げたり、餌を捕食します。眼は頭上に飛び出していますが、獲物を飲み込む際には、眼球を引っ込めて強制的に喉の奥へ押し込みます。通称のカエル(蛙)という名称は、無尾目構成種の総称で、英名は一般にはfrogですが、ヒキガエルのような外観のものをtoadと呼ばれます。多くの種で体外受精が行われます。

歴史

両生類は、約3億6000万年前に出現したと考えられており、脊椎動物の中では初めて陸上生活が可能となった事例だと考えられています。ただ陸上生活が可能とは言っても、その身体の構造、生活史、生理、生殖などにおいて、水への依存度が強いという特徴があり、基本的に皮膚呼吸に頼る面が多いです。卵が寒天に包まれており乾燥に弱く、繁殖はもちろん水辺などの湿った環境が生息域の中心であり、水に依存した生涯を送るために両生類と命名されました。特に幼生は、一般に水中生活をしているなど、基本的には水中環境が欠かせません。現生の種は、ほぼ全てが淡水域を生活の場としています。

食性

幼生は雑食性ですが、変態後の成体は基本的に動物食です(例外は植物質を食べるサイレン類)。生きた小型の昆虫、クモ、ミミズなどの無脊椎動物を餌とし、大型のカエルは小型のげっ歯類、爬虫類や両生類を捕られ、大型のサンショウウオ類は甲殻類や魚を捕食します。

形態と生理

現存する無尾目(アシナシイモリ)、有尾目(イモリ・サンショウウオ)、無足目(カエル)の3目はいずれもかなり生態に差異があり、同じ目内でも形態ならびに生理も例外が多いです。

形状

大半の種類が体長5~20cmほどの小型ですが、オオサンショウウオ属のように約1.6mの大型種もいます。成体は原則的には指のある四肢を持ち、陸上生活が可能になっているものが多いです。跳躍するカエルは発達した後肢を支える特殊な骨格をしています。一方で四肢を様々な程度に退化させたものもおり、アシナシイモリは完全に四肢を喪失し、有尾目のサイレン科は前肢しかありません。

変態

両生類の幼生から成体へと成長する過程で、陸上に対応するために四肢が伸び(アシナシイモリやサイレン科は例外)、他にも脳・神経系、消化器系、呼吸器系など全身の器官が変化し、これは変態と呼ばれる生理現象です。カエルの幼生は変態により尾は体内に吸収されますが、イモリ・サンショウウオでは発達した尾が残ります。多くの両生類では、幼生は水生で藻類などの植物性の餌や死んだ魚などの動物質を削りとって食べる雑食なのに対し、成体は陸生の餌を食べる動物食へと変わります。幼生は鰓呼吸を行っていますが、変態によって鰓が消失し、成体では肺呼吸に変わり、陸上生活に適応します。しかし、一部では肺を欠いたり外鰓を失わないものもいます。

両生類の変態の詳細な解説はコチラ!

皮膚

両生類の皮膚は、爬虫類のように体表の多くの場所を覆うような鱗は持っておらず、粘液線と顆粒腺(毒腺)が体表一面を覆って湿った状態になって滑らかになっています。また、体表のほとんどは角質化しておらず、皮膚呼吸をしていることも特徴です。それゆえ乾燥に弱いという弱点にもなっています。粘液腺は皮膚に湿り気を与えて皮膚呼吸に関与し、抗菌性の粘液(抗菌ペプチド)も分泌します。顆粒腺は他の 動物に対して有毒な毒液を分泌して外敵から 身を守っています。ヤドクガエル類など一部のものは顆粒腺が特に発達し、イモリやヒキガエルでは眼の後方に多数が集まって、隆起した耳腺となっています。

両生類の抗菌ペプチドの詳細な解説はコチラ!

呼吸

成体では肺を生じて空気呼吸を行い、他にも皮膚呼吸および口腔や咽頭での粘膜呼吸が行えます。しかし、一部のイモリ・サンショウウは肺を欠き、また変態後も鰓を失喪しないものもいます。両生類の呼吸の特徴は、全種、幼体・成体を問わず皮膚呼吸が発達しており、特にサンショウウオでは皮膚呼吸のみで肺呼吸をしない種類(ハコネサンショウウオ属とアメリカサンショウウオ科)がいたり、幼生時から肺呼吸をするメキシコサンショウウオもおり、多様性が強いです〔Burggren1984,田中1992〕。一般的に有尾目の肺は左肺の方が右肺よりも小さいですが、サイレン科のみ左右の肺が同じ大きさで、四肢動物進化史上、肺の消失が頻繁に起こった唯一の目です。流れの速い川で、体が浮上して流されてしまわないようにするための適応と言われています。一方でカエルは孵化時から機能はせずとも肺があり、幼生期から肺呼吸が可能ですが、例外的にヒキガエルの仲間は変態完了まで肺が機能しません〔倉本 1996〕 。

循環

心臓は2心房1心室で、心室中隔を欠き、動脈血と静脈血が心室で混じり合って体全体および呼吸器の双方に送られます。肺循環のルートはありますが、純粋な動脈血を全身に送ることはできないことから、両生類は肺呼吸だけではなく、皮膚ならびに粘膜呼吸も可能にしていると言われています。ただし大動脈と肺皮動脈(哺乳類で言う肺動脈)の付け根にらせん弁があり、心室の収縮時に入った時の位置関係から動脈血はらせん弁で隠された肺皮動脈にはほぼ入らず、逆に静脈血は大半が肺皮動脈に流れるようになっていると言われています〔松井1996〕。

鳴き声

カエルは良く鳴くことで有名です。水田が多い地方などでは、夜にたくさんのカエルが一斉に鳴き出し、「蛙の大合唱」と言われています。鳴き声は気管の一部である声帯(鳴門)と呼ばれる器官を使って発生し、鳴嚢を膨らませて、音を共鳴させています。鳴嚢は喉の前にある種類と、両側の頬にある種類とがあります。鳴き声は個々の種類によって異なり、大きさやリズム、音程などが異なり、オスが特に鳴き声を上げることが多く、メスに対してのアピールに用いられます。

カエルの鳴声の詳細な解説はコチラ!

消化器

食道は短く、胃はカエルではよく発達していますが、イモリ・サンショウウオではほとんど分化しないものもいます。陸上で採食するもカエルは、舌を伸ばし、昆虫をくっつけて口に引っ張り込んで採食します。胃は広くて柔らかいため、異物などを飲み込んだ際は、胃を吐き出しそれを洗う行動をします。両生類は爬虫類や鳥類と同様に、輸尿管、消化管末端および生殖輸管はともに総排出腔に開いています。

イモリ・サンショウウオでは上下顎骨には小さな歯が並んでいますが、カエルは下顎の歯を欠き、上顎のみに生えています(例外的にヒキガエル類やコモリガエルは、上顎にも歯を持たない)。イモリ・サンショウウオおよびカエルでは口蓋にも鋤骨歯がという歯があり、餌をくわえるのに役立たせていますちます。鋤骨歯は頭蓋骨を構成する皮骨性由来の骨で、特にサンショウウオでの鋤骨歯の歯列は、種毎に異なる特徴を持つことが多く、識別の一つとして利用されています。顎の辺縁に生える本当の歯を顎歯、口蓋に生じる歯を鋤骨歯、あるいは蓋骨歯蓋歯、鋤口蓋歯などと呼ばれています。幼生では上唇と下唇に、角質歯と呼ばれる歯が生えています。この角質歯は上皮が角質化したもので、厳密な意味の歯ではないため、口器とも呼ばれています。角質歯は変態時には脱落して、新たに口蓋に石灰化した歯が形成されます。

排泄

両生類の窒素の代謝産物は、幼生および水性種の成体(ツメガエル類など)はアンモニア〔Brown et al.1959〕、水性以外の成体は尿素になります〔Balinsky et al.1967,Shoemaker et al.1980〕。アンモニアは毒性が高いため、水に速やかに溶けて拡散するので、水中に生息する種類に特化しており、幼生では鰓から排泄されます。陸生に適応するために、アンモニアを代謝して、毒性の少ない尿素に転換して排泄されます。尿素による体液浸透圧の維持は、体表からの不感蒸散を抑えるとともに皮膚からの浸透圧勾配による水吸収の増加、尿量の減少などに機能して、陸生適応に重要と考えられています〔内山ら2009〕。

体液調節

両生類の体液調節器官は、皮膚、腎臓、膀胱、消化管と多様で、特にカエルでは腹側皮膚と膀胱は器官レベルでの膜輸送モデルとして、多くの生理・薬理学的研究に使用されています。両生類は口から水を飲まずに、水分は皮膚から容易に吸収されます。カエルの多くの半水生および陸生種は、体内への水の拡散を促進するために、後肢腹側~体後部腹側の皮膚領域に血管分布が増加した特殊なペルビックパッチ(Pelvic patch)あるいはドリンクパッチ(Drink patch)と呼ばれる領域を備え、水分を積極的に吸収し、ナトリウムと塩化物のバランスを担っています。そして、両生類の膀胱は単なる蓄尿器官では無く、水・電解質代謝に腎臓̶膀胱複合体として機能します。哺乳類と異なり腎臓の腎髄質対向流系が欠如し ているため、腎臓での尿の濃縮はできません。したがって、水の供給がない乾燥環境下では、膀胱内の水がナトリウムとともに再吸収して利用されます〔Konno et al.2007,Uchiyama et al.2006〕。

カエルのペルビックパッチの詳細な解説はコチラ!

体温

体温は周囲の気温とともに変化する外気温動物です。温帯から寒冷地に住む種は冬眠を行い、また乾季に繭をつくって地中に潜るものもいます。

感覚器

カエルの眼は大きくて突出し、視覚が発達していますので、小さな昆虫の飛翔などの小さな動きも敏感にとらえて、反射的に跳びつきます。眼の後方には露出した円形の大きな鼓膜があり、繁殖期における種間のコミュニケーションに大事な役割を果たします〔工藤 2004〕。イモリ・サンショウウオでは鼓膜と中耳を欠き、地面の振動は敏感に感知できます。アシナシイモリと洞穴性のイモリでは眼が退化し、アシナシイモリは代りに特有の触手をもっています。嗅覚はイモリ・サンショウウオで発達しています。水生脊椎動物(無顎類、魚類、両生類の幼生、ツメガエル類やアンヒューマ類など水生両生類)の体表には、水の振動を感知する側線器官(lateral-line organ)があります。特殊な機械受容器で、仲間、餌、敵などによって生じる水流や水圧、低周波の音、温度変化を受容します。

性質

両生類は一般に性質が温和で、昼間は物陰に隠れ夜間に行動するものが多いです。自衛手段として後肢が発達したカエルは跳躍による逃走をします。また巧みな保護色や擬態を備えたり、毒液という抵抗手段を持つ種類が多いです。カエルではかなり強い毒腺をもつヤドクガエル類、ユビナガヤドクガエル類などには鮮やかな警告色が見られます。イモリでは外敵に襲われた際には立ち止まって身をそらし(スズガエル反射:Unken reflex)、腹側の赤色(警告色)を見せて有毒であることをアピールする行動が見られます〔Mochida 2009〕。アカハライモリなどはフグと同じテトロドトキシンという毒を持っています。より積極的な防御行動として、皮膚から分泌物を出すものも多く、ファイアサラマンダーでは背中の正中部にある分泌腺から相手を狙って高速で毒液を撃ち出すことができます。

参考文献
■Balinsky JB,Choritz EL,Coe CG,van der Schans GS.Urea cycle enzymes and urea excretion during the development and metamorphosis of Xenopus laevis.Comp Biochem Physiol22:53-57.1
■Brown GW Jr,Cohen PP.Comparative biochemistry of urea synthesis.J Biol Chem, 234:1769-1774.1959
■Burggren WW.Transitionof respiratory processes during amphibian metamorphosis:from egg to adult.In Respiration and metabolism of embryonic vertebrates:p31–53.1984
■Burggren WW,West NH.Changing respiratory importance of gills, lungs and skin during metamorphosis in the bullfrog Rana catesbeiana.Respir Physiol47(2):151-64.1982
■Konno N,Hydo S,Yamada T, Matsuda K,Uchiyama M.Immunolocalization and mRNA expression of the epithelial Na channel α-subunit in the kidney and urinary bladder of the marine toad,Bufo marinus,under hyperosmotic conditions.Cell Tissue Res328:583-594.2007
■Mochida K.A parallel geographical mosaic of morphological and behavioural aposematic traits of the newt,Cynops pyrrhogaster (Urodela: Salamandridae).Biological journal of the Linnean Society97(3):613-622.2009
■Shoemaker VH,McClanahan LL.Nitrogen excretion and water balancein amphibians of Borneo.Copeia3:446-451.1980
■Uchiyama M,Konno N.Review;Hormonal regulation of ion and water transport in anuran amphibians.Gen Comp Endocrinol147:54-61.2006
■荒木忠雄.4-生命の保持.原色現代科学大事典 7-生命.株式会社学習研究社:P385.両生類のらせん弁.1969
■内山実, 今野紀文, 兵藤晋.尿素を利用する体液調節:その比較生物学,比較内分泌学.日本比較内分泌学会35(134):p175-189, 2009
■工藤基.解説:様々な動物の聴覚.日本音響学会誌60(10):p620−625.2004
■倉本 満.動物系統分類学9A1.脊椎動物(lla1)両生類 1.中山書店.東京.p265.1996
■田中邦明.両生類幼生の呼吸に関するミスコンセプション.オタマジャクシの肺呼吸と皮膚 呼吸について.理科教育学研究1.42(3).2002
■原條二ほか.センソ強心ステロイドの灌流心臓に対する強心作用特性と実験的虚血性心不全に対するCinobufaginの作用.日本本薬理学雑誌88:413-423.1986
■松井正文.両生類の進化.東京大学出版会.東京.1996

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