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専門獣医師が解説するエキゾチックアニマルへのアリジン投与〔獣医師向け〕子宮蓄膿症の救世主!

 2022/07/06 7 診察・治療   3,709 Views

New抗黄体ホルモン製剤

アグレプリストン(商品名:アリジン)というプロゲステロン受容体拮抗薬は、犬や猫の避妊ならびに堕胎、また子宮蓄膿症(主に開放性だが閉鎖性も対象)に使用する薬剤が使用されはじめています。プロゲステロンに拮抗し、子宮内膜が黄体期から脱して堕胎させ、細菌の増殖を抑制し、プロゲステロン支配下の子宮頸管を弛緩させて子宮蓄膿症を治療します。なお、妊娠を停止させる場合は胎齢45日までが対応で、妊娠中期までに2回注射すると方法でかなりの高率で中絶できる、比較的副作用も少ない薬剤です。

これまで使用されていたのPG製剤は?

プロスタグランジン製剤を使った内科療法は以前から行われていましたが、嘔吐や下痢などの副作用が強く、また子宮蓄膿症のタイプが閉鎖型だと使用できないいなど様々な問題がありました。

アリジンの副作用

副作用は食欲不振、興奮、鬱状態および下痢なりますが、発生率は低く、それほど重篤にはなりません。

エキゾへの応用

現段階では一部の使用報告ですが、今後多くの症例報告があると思います。

子宮蓄膿症のハムスター治療

超音波検査で子宮蓄膿症と診断されたゴールデンハムスターにアリジン20mg/kg(SC)を治療1日目、2日目、8日目、15日目に計4回投与し、抗生物質療法(マルボフロキサシン2mg/kg PO SID 10日間)も併用して治療を行いました。翌日、2回目のアリジン投与時には、わずかな食欲不振と活動の低下を除いて顕著な異常はありませんでした。2回目の投与の翌日にハムスターが通常の食欲に回復し、回し車で遊ぶことへの関心がでてきました。外陰部の膿の排出は認められませんでしたが、体重は15gの減少を示しました。2回目の投与後7日目には健康状態が著しく改善し、超音波検査において子宮内腔の液体が消失していました。しかし、子宮壁に嚢胞所見が超音波で観察されていたために、投与は継続されました。14日目には、ハムスターは健康で超音波検査での子宮壁の嚢胞所見も減少していましたが、補足的な4回目の投与を15日目に行いました。

最後の治療から2ヵ月後、ハムスターの健康状態は最適になり、体重は安定し、再び定期的に発情行動が観察されました〔Pisu et al.2012〕。

ウサギの堕胎

生後10〜12ヵ月齢のニュージーランドホワイトを13頭自然交配させ、交配後6日目の超音波検査によって妊娠を確認しました。アリジン10 mg/kg(SC)を、交配後6と7日目に24時間間隔で2回投与されました。副作用は全く観察されませんでした。血清プロゲステロン濃度はコントロール群と比べて有意差はありませんでしたが、結果的に妊娠を防ぐことができました〔Ozalp et al.2010〕。

子宮炎/子宮蓄膿症のモルモットの治療

X線検査で子宮炎/子宮蓄膿症と診断された体重1.3kgの4歳のメスのモルモットにアリジン10mg/kg(SC)を、エンロフロキサシンの抗生物質療法と併用した治療を、治療1日目、2日目および8日目に投与を行いました。注射の2時間後、2〜3mLの外陰部の分泌物が排泄されました。翌日からモルモットの全身状態は明らかに改善し、正常な行動でした。3日目に大量の液体が外陰部から排出されました。8日目には画像的に全ての異常所見が改善されました〔Von Engelhardt 2006〕。

まとめ

アグレプリストーンは、犬猫以外の動物種で妊娠を阻止する効果的な手段である可能性が高く、その後の出生力に明らかな悪影響を及ぼしません。また、子宮蓄膿症を治療するための安全で比較的効果的な手段でもあります。他のプロゲステロン依存性疾患でのアリジンの使用はまだ完全に評価されていませんが、特にインスリン抵抗性糖尿病、先端巨大症の治療、および雌犬の膣腫瘍の治療価値がある可能性が高いです〔Gogny et al.2016〕。

参考文献

■Gogny A,Fiéni F.Aglepristone: A review on its clinical use in animals.Theriogenology85(4).555ー566.2016
■Ozalp GR et al.Effects of the progesterone receptor antagonist aglepristone on implantation administered on days 6 and 7 after mating in rabbits.Reprod Domest Anim45(3):505-508.2010
■Pisu MC,Andolfatto A,Veronesi MC.Pyometra in a six-month-old nulliparous golden hamster (Mesocricetus auratus) treated with aglepristone.Veterinary Quarterly32(3-4).2012
■Von Engelhardt AB.Treatment of the metritis/pyometra complex with aglepristone in a guinea pig.Der Praktische Tierarzt 87(1):14-17.2006

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