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モルモットって食用なのですか? 専門獣医師が解説する食用歴史

 2022/07/24 4 モルモットのQ&A この記事は約 7 分で読めます。 5,499 Views

えっ?モルモットって食用だったの?

ペットや実験動物として知らているモルモットは、実は食用として家畜化された歴史を持っていました。モルモットを含むテンジクネズミの骨は、南米のアンデス山脈や西インド諸島の広い範囲で発見され、西インド諸島では古代の貝塚の中に貝殻に混じってモルモットの骨が見つかることも多いです〔Sandweiss et al.1997〕。昔から食用にしていたことが推測されています〔Kimura BK et al.2016〕。モルモットが生息していない西インド諸島でモルモットの骨が見つかるのは、最近の遺伝子解析研究により、それは西洋人の出現以前にモルモットが西インド諸島へ運ばれていたことを示しています。
実際に野生種のモルモットは紀元前6000年前から3000年前の間にアンデス山脈、コロンビアの高地で家畜化されたと考えられています〔Sachser 1998,Kunzl et al.1999〕。その主な目的は食料にするためで、現在も南米の一部地域ではモルモットを「クイ(Cuy)」「クイェ(cuye)」「クリ(curí)」と呼び、食しています〔Morales 1994,Rosenfeld 2008〕。また、スペインに征服される前まで、モルモットはアンデス文明の宗教的な儀式で神への捧げものとして犠牲にされることもあったようです〔Sandweiss et al.1997〕。そして、モルモットはウシやブタに比べても、家庭で簡単に飼育できる大きさなために飼いやすく、メスは3ヵ月で繁殖が可能になり、一度に最大で5頭以上の子を生むように生産性も低くはないです。ペルーでは野菜くずなどを与えて台所の周りなどで複数を簡単に飼育されています。現代になってからも、南アメリカのアンデスの貧困が問題となってきた1960年代から日常的にも食べられるようになってきました。エクアドルなどの地域の小さな山岳農場では、豚肉や牛肉よりも高い価格で売買されています〔NRC 1991〕。なお、現在南米だけでなく、アジア、アフリカの多くの地域で今でも食べられています〔Meredith2010,Morales 1995,NRC 1991〕。しかし、牛や羊、鶏など旧世界の家畜が南米にも導入され、先住民もそうした肉を食べるようになり、モルモットは先住民でも特に裕福な階層では次第にあまり食べられなくなっていっています〔Lord et al2020〕。しかしながら、ペルーだけでも約2,000万頭の食用モルモットが飼育され、年間約17,000トンの肉が提供され、羊肉の生産量よりもわずか4,000トン少ない量になります〔NRC 1991〕。

モル肉の味と栄養は?

モルモットの肉の味はウサギや鶏のもも肉に似ているといわれ、調理法は主に揚げ物や焼き物、ローストなどで食べます。肉などの他の代替品と比較して、タンパク質が比較的高くて脂肪含有量が少ない特徴があります〔Numbela et al.2003〕。

南米から全世界へ

モルモットがヨーロッパで最初に紹介されたのは1554年にスイスが最初と記録され、これはインカ帝国の滅亡よりも早い時期でした〔Pigiere et al.2012,Kusukawa 2010〕。明確な記録ではないが、イギリスでも1574年頃、モルモットが飼育されていた痕跡があり、16世紀の終わりから17世紀はじめ頃、ベルギーの裕福な商人の家でモルモットがペットとして飼育されていたという報告もあります。ヨーロッパでは食肉として使用されることはほぼなかったようです。19世紀にはロンドンの病院で、解剖された遺体や実験動物と同じ場所でモルモットの骨が発見され、医学研究や教育にモルモットが用いられていた可能性が示唆されています。日本へは江戸自体の1843年にオランダによって長崎へ持ち込まれたと考えられています。オスメス2匹が持ち込まれたがメスが長崎で死に、オスだけ幕府の買い上げで江戸へ向かったといわれています。このオスは三毛で珍重されたため、その後も需要があってモルモットが国内へ持ち込まれることにと言われています〔磯野 2007〕。明治期に入ると日本でもモルモットは実験動物として多用されるようになりました〔今泉 1957〕。

参考文献
■Kimura BK et al.Origin of pre-Columbian guinea pigs from Caribbean archeological sites revealed through genetic analysis” Journal of Arcaeological Science: Reports5:442-452.2016
■Kusukawa S.The sources of Gessner’s pictures .or the Historia animalium.Annals of Science67(3):303-328.2010
■Kunzl C,Sachser N.The Behavioral Endocrinology of Domestication: A Comparison between the Domestic Guinea Pig (Cavia apereaf.porcellus) and Its Wild Ancestor, the Cavy (Cavia aperea).Hormones and Behavior35(1):28-37.1999
■Lord E et al.Ancient DNA of Guinea Pigs(Cavia spp.) Indicates a Probable New Center of Domestication and Pathways of Global Distribution.Scientific Reports10:8901.2020
■Meredith A,Redrobe S.BSAVA manual of exotic pets.British Small Animal Veterinary Association.UK.2010
■Morales E.The guinea pig:healing, food, and ritual in the Andes.USA:University of Arizona Press.1995
■Morales E.The Guinea Pig in the Andean Economy: From Household Animal to Market Commodity.Latin American Research Review29(3):129-142.1994
■NRC.National research council:microlivestock: little-known small animals with a promising economic future.USA:John Wiley & Sons.1991
■Numbela ER,Valencia CR.Guinea pig management manual.USA:Benson Agriculture and Food Institute.2003
■Pigiere F et al.New archaeozoological evidence for the introduction of the guinea pig to Europe.Journal of Archaeological Science39:1020-1024.2012
■Sandweiss DH,Wing ES,Ritual Rodents:The Guinea Pigs of Chincha, Peru. Journal of Field Archaeology24(1):47-58.1997
■Sachser N.Of Domestic and Wild Guinea Pigs:Studies in Sociophysiology, Domestication,and Social Evolution.Naturwissenschaften85:307-317.1998
■Rosenfeld SA.Delicious guinea pigs: Seasonality studies and the use of fat in the pre-Columbian Andean diet.Quaternary International180:127-134.2008
■磯野直秀.明治前動物渡来年表.慶應義塾大学日吉紀要.2007
■今泉清.日本の実験動物の変遷雑感─疾病を中心にして─.実験動物6(2).1957

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