ファンシーラットってどんな動物?専門獣医師が解説する知らないといけない生態と特徴(Ver.3)
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ラットは野生のドブネズミを改良してつくられた実験用のネズミです。野生のドブネズミとは違って、安全で衛生的な環境で繁殖しているため、病原菌などの心配もありません。ペットのラットは実験動物と区別するために、ファンシーラットという呼称で呼ばれています。
分類・生態
ファンシーラットの起源は古く、18~19世紀のヨーロッパでペット用として繁殖されたのが始まりです。現在は世界各国の繁殖家によって多様な毛色と毛質が存在しています。ペットのラットは野生種とは性格や身体特徴も異なる点が多く、本稿ではペット用のラット(ファンシーラット)について解説します。
分類
ネズミ目(げっ歯目)ネズミ科クマネズミ属
学名:Rattus norvegicus
英名:Fancy rat
別名:ドブネズミ、ラット
分布
野生種のドブネズミの起源はカスピ海周辺とされ、現在では世界中に分布していると考えられています。
身体
頭胴長:20~25cm
尾長:15~20cm
体重:オス300~800g メス200~500g
(品種により差があり、加齢に伴い体重が増加します。マウスと異なり、オスとメスとで体格の差があり、オスの方が大きいのが特徴です)
生態
行動
・夜行性で、昼は巣の中で休み、夕方頃から活動をはじめます。
・ドブネズミは湿った森林、河川、下水に好んで生息しています。
食性:雑食性で、植物の葉、茎、根、実や種子、昆虫、鳥の雛、小型爬虫類なども食べています。
寿命:2.5~3年
・ラットはドブネズミを改良、マウスはハツカネズミを改良
・ラットは尿臭がないが、マウスは尿臭が強い。
・ラットは下水や、沼地や河川に住んでいるドブネズミなので湿気に強く、乾燥に弱い。マウスは乾燥地帯に住んでいるハツカネズミなので乾燥に強く、湿気に弱い。
・ラットには闘争本能がほとんどなく、同じケージで攻撃しあうことはないが、マウスには闘争本能があり、マウス同士で攻撃しあうことがある。
・ラットはマウスよりも夜行性が強い
・ラットは飼育者を見分けて馴れるが、マウスは人の見分けができない。
性格・習性
かまない
基本的に穏やかで大人しい性格で〔John 2005〕、ドブネズミや実験用ラットと比べて、人の手をかむことは稀です。
知能が高い
知能が高く、学習能力にも長けています。
社交性
社交性のある動物で、仲間と行動を共にし、家族を愛し、面倒をみてくれる人を認識することもできます。人に馴れると、飼い主との信頼関係が築かれ、甘えてくるようになります。
人との関係
性格も温和で人に馴れやすいです。飼い主の手を犬のようにしきりに舐めたり、歯ぎしりや目を振動させ安心を表すバブリングをします。人間に登り肩の上に上ったり、そばにいることを好みます。
夜行性
マウスと比べて夜行性が強く、昼に起き出すことは少なく、ずっと寝ています。
特徴
ファンシー
野生種に比べてファンシーラットは体が小さく、反対に耳は丸くて大きく、尾は長いのが特徴です。そして、一般的に顔立ちがより鋭く、目も丸いです。ラットはマウスと比べて縄張り意識も強くなく、メスよりもオスの方が大人しい〔Orr et al.2005〕。
尾
尾は太くて大きく、尾の皮膚は鱗状をしています。体温調節とバランスをとるにに役立っています。
脊椎
脊椎の骨の数は、頚椎7個、胸椎13個、腰椎5~6個、仙椎4個、尾椎27~30個あります〔実験動物の技術と応用 実習編 2005〕。
指
前肢の第1指は退化しているため、前肢の指は4本、後肢の指は5本です。
常生歯
歯は前歯と奥歯があり、全部で16本で、特に前歯は大きくて鋭く、硬いものもかじります。前歯は常生歯で、生涯にわたり伸び続けますが、奥歯は伸びません。前歯の表面は黄褐色をしていますが、これは虫歯ではなく、体内のミネラル質が沈着しているからです。
暑さに弱い
汗腺が乏しく、口からの喘ぎで熱の放散も行わないため、高温音に弱いです〔O’Malley 2005〕。
赤い涙
目の周りに赤色あるいは黒色の排出物が付いていることがあります。これは目の奥にあるハ-ダー腺に含まれるポルフィリンが光に反応して赤色になっているので、ポルフィリンの涙、血の涙とも呼ばれていますが、血液ではありません。正常でも見られますが、病気やストレスによって多く出てきます。涙は鼻に排泄するので、鼻の周囲に色がついていることもあります〔石橋ら 1984〕。
食糞
ラットもウサギほどではありませんが、食糞をします。
胆嚢がない
ラットは胆嚢がありませんが、その理由はよく分かっていません。肝臓の一部が胆嚢の代替機能を果たしているそうです。
超音波
基本的にほとんど鳴くことはありません。夜行性の動物なので視力が弱く、そのかわり聴覚(超音波でコミュニケーションをとる)と嗅覚(体臭やフェロモンで個体識別や性的誘導を行う)が発達しています。特にラットの音声コミュニケーションは発達しており、人間には聞こえない超音波発声(Ultrasonic Vocalization:USVs)を使っています〔Panksepp et al.2000〕。
・ハツカネズミが和名で、実験動物ではラットと呼ばれ、ペットではファンシーラットと呼ばれている
・賢く賢く人に馴れるネズミ
・喧嘩することもなく、複数で飼育できる
・夜行性で、超音波でコミュニケーションをとる
・前歯も奥歯も伸びる常生歯
・正常でも赤い涙を流す
・胆嚢がない
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参考文献
■Baumans V.The Laboratory mouse.In The UFAW handbook on the care and management of laboratory and other research animals.Universities Federation for Animal Welfare.8th ed. Hubrecht R,Kirkwood J.eds.Wiler-Blackwell.Oxford.UK.2010
■O’Malley B.Clinical Anatomy and Physiology of exotic Species:structure and function of mammals, birds, reptiles, and amphibians.Elsevier Saunders.p209‐226.2005
■Orr EH,Girling JS.BSAVAエキゾチックペットマニュアル第四版.橋崎文隆、深瀬徹、山口剛士、和田新平訳.3.13‐17.学窓社.東京.2005
■Panksepp J,Burgdorf J.50-kHz chirping (laughter?) in response to conditioned and unconditioned tickle-induced reward in rats: Effects of social housing and genetic variables.Behavioural Brain Research115.25–38.2000
■John K.Animals in Person: Cultural Perspectives on Human-animal Intimacy.Berg Publishers.p131.2005
■石橋正彦,高橋寿太郎,菅原七郎,安田泰久編.実験動物学.ラット.講談社.東京.p66.1984
■実験動物の技術と応用 実践編.日本実験動物協会編.アドスリー.東京.p226‐267.2005