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専門獣医師が解説するヘビの肺炎~口の開け放っしに注意

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ヘビの肺炎

呼吸器症状

ヘビの呼吸器症状は特徴的です。健康なヘビは口を閉じて呼吸をしていますが、肺炎になると開口呼吸が見られます。多くの飼い主はこの症状が見られてから、異常と気づくことが多いようです。

ヘビ肺炎

しかし、一般的な呼吸器感染症の初期症状は、透明、泡沫状、粘液状または粘液膿性物質の口腔からの分泌物、口腔内の粘膜あるいは声門の充血または炎症(口内炎)がみられ、続いて呼吸促拍や開口呼吸などの呼吸困難症状、発咳、異常呼吸音および喘鳴(いびきのような音、「ヒューヒュー」や「ブシュー」といった異常音)、食欲不振、痩削ならびに体重減少が起こります。口からの分泌は鼻腔からも分泌が見られることもあります。

ヘビ肺炎

樹上性のヘビでは樹木にとまるのが難しくなることもあり、呼吸困難なヘビは頭と鼻先を上に30~45度くらいに傾けた状態になります(この姿勢が呼吸しやすいです)。体調不良の結果、脱皮不全やアイキャップ遺残なども起こり、場合によっては突然死することもあります〔Bodewes et al.2014,Stenglein et al.2014,Uccellini et al.2014,Dervas et al.2017〕。ヘビの肺炎は一般的に起こりやすく珍しい病気ではありませんが、特にボールパイソンやボアコンストリクターに多いです。

どんなヘビに起こるの?

全てのヘビで肺炎が起こりますが、特にボールパイソンやボアコンストリクターに好発します。

原因は?

細菌、真菌(カビ)、ウィルスや寄生虫などの感染が主な原因で、それぞれ単独と言うより、複合して感染していることが多いです。不適切な湿度や温度、煙や刺激臭、さらには脱皮不全による古い皮が鼻の穴を塞ぐことが発生要因になります。低温飼育によって免疫が低下して感染を助長しやすくさせます。木製チップやタバコの煙などに含まれる化学性の刺激物、不潔なケージのアンモニア臭などが呼吸器粘膜に対して刺激を与えます。

細菌

Aeromonas spp.(エロモナス感染症)や Pseudomonas spp.などが原因で細菌性肺炎を起こします。低温での飼育、不十分な換気、不衛生な環境などや、他の病気になっていたり、栄養のバランスとれていない(ビタミンA欠乏症)などの理由で免疫が低下していると、感染が容易に起ります。敗血症と言って、肺炎から血液中に細菌が入り込み、重篤な全身症状を引き起こすこともあります。

真菌

真菌性肺炎はカビによる感染です。特に換気が悪い(不十分な換気)飼育ケージで起こりやすいです。

ウイルス

原因は細菌とウィルスが複雑に併発して感染していることが多いです。ヘビの肺炎では、パラミキソウイルスアデノウイルスオルトレオウイルスニドウイルスアレナウイルスなど多くのウイルスが関与します。爬虫類のパラミキソウイルスは、ヘビに肺炎を起こす主な原因の一つと昔から言われていますが、野生のヘビに好発する傾向にあります。アデノウイルスは、肝炎、胃腸炎、肺炎、神経症状に関連して、オルトレオウイルスは、神経症状、胃腸炎、皮膚病変、肺炎、そして突然死に関連して検出され、特異的な症状が見られると言うより、全身に蔓延して、その結果肺炎時にも分離されます。近年はニドウイルスによる肺炎が注目されており〔Eva et al.2017〕、特にボールパイソンに多く見られるボールパイソンニドウイルス(Ball python nidovirus)という特異的なウイルスも発見されました〔Blahak et al.2020a,Mark et al.2014〕。

ヘビのニドウイルスの詳細はコチラ!

オーストラリアのニシキヘビからは、呼吸器症状と神経症状を引き起こす新ウイルスであるサンシャインウイルス(Sunshine virus)も発見されました(当初はパラミクソウイルス科と見なされていましたが、2016年にモノネガウイルス目内の独自のサンウイルス科に分類れました)〔Marschang et al.2013〕。ボアやニシキヘビでは封入体疾患(IBD)により慢性的な肺炎が起こり得ます(原因はレトロウイルス〔Wozniak et al.2000〕あるいはアレナウイルス〔Simard J et al.2020〕とされています)。

その他の原因も・・・

細菌やウイルス以外では、クラミジア〔Jacobson et al.2002〕やマイコプラズマ〔Penner et al.1997, Schmidt et al.2013〕も肺炎のヘビから検出されますが、病原性などは不明です。ヘビ(爬虫類)の声門は口底に位置するため、マウスロット(細菌性口内炎)や副鼻腔炎、または眼の感染症にかかったヘビは、肺炎を併発しやすくなります。そして、爬虫類では寄生虫による肺炎を起こすことがあり、特にヘビのWC個体では線虫である肺虫(Rhabdias spp.)と鉤虫(Kalicephalus spp.)〔Matt et al.2020,Hallinger et al.2020〕、また舌虫(Raillietiella orientalis)〔Walden HD et al.2020〕、肺ダニ(Entonyssus spp.)〔Fain et al.2009〕などが肺に寄生するか、発育ステージの一環で肺を移動することで、肺に損傷を与える可能性があります。リクガメの回虫も発育ステージの一環で肺を移動することもあります。

爬虫類の寄生虫の詳細はコチラ!

複合感染が多い・・・

肺炎の原因が細菌とウイルス、それに加えて寄生虫など複合していることは、爬虫類では珍しくありません〔Jacobson 2007〕。複数のウイルス感染もあり得るため、本来病原性が高くないオルソレオウイルス 〔Hoon-Hanks et al.2020〕、あるいは呼吸器に特異的でない レトロウイルス 〔Dervas et al.2017,Blahak et al.2020〕などがニドウイルスと一緒に混合感染している例などが多く報告されています。パラミキソウイルス、アデノウイルス、オルトレオウイルスの3種のウイルスが同時に検出されたコーンスネークもいました〔Abbas et al.2011〕。ウイルス単独の感染だけでなく、二次的な細菌感染や成体の免疫などが肺炎の重症度と症状の進行に寄与する可能性があります〔Hoon-Hanks et al.2019〕。

診断は?

肺炎はX線検査で確認されるものでが、ヘビは肺炎の影が分かりにくいです。特徴的な症状および開口させて声門の炎症などを確認して暫定的に診断します。

ヘビ肺炎 ヘビ肺炎

声門からの分泌物を顕微鏡で観察すると(細胞診検査)、細菌や炎症細胞などが検出されます。細菌や真菌の診断はつきますが、残念ながらウイルスの診断は難しいです。海外ではPCR検査などでウイルスの診断を行いますが、現在、日本では利用できません。

ヘビ肺炎の細胞診

治療

治療は基本的に抗生物質を投与します。まだ食欲があり、食欲があるヘビでは餌のマウスに薬を入れて与えられます。食欲がない場合は注射をします。生理食塩水で希釈した抗生物質によるネブライザー(噴霧治療)で、治療をすることもあります。しかし、ヘビの肺炎は多数の微生物が原因として併発しているために、単に抗生物質の投与だけで治ることもあれば、ウイルスに対する特異的な治療薬はありませんので、治らずに病病状が進行するヘビもいるわけです。

ポイントはコレ!
・ヘビの肺炎は一般的
・ボールパイソンやボアコンストリクターに多い
・細菌や真菌、ウイルス感染による
・低温や高湿度、栄養のアンバランス、免疫力低下が発生要因
・抗生物質で治療

参考文献
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■Blahak S,Jenckel M,Höper D,Beer M,Hoffmann B,Schlottau K.Investigations into the presence of nidoviruses in pythons.Virology Journal17(6).2020
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■Hallinger et al.Occurrence of Kalicephalus,Strongyloides,and Rhabdias nematodes as most common gastrointestinal parasites in captive snakes of German households and zoological gardens.Parasitol Res119(3):947-956.2020
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