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専門獣医師が解説する鳥の糖尿病

4 オカメインコのQ&A この記事は約 11 分で読めます。 5,038 Views

本当に糖尿病なのか?

糖尿病とは血液中の糖(グルコース)が上昇する病気です。グルコースは体内の主要なエネルギー源ですが、鳥は哺乳動物に比べて3~5倍と血糖値が高く、哺乳類の血糖値は100~150mg/dLに対して、鳥は250~500mg/dLで、594mg/dL以下が正常とも言われています〔Hochleithner 1994〕。鳥は高血糖を示しても何も異常を示さないのは、血糖値を下げるインスリンの感受性が低い、血糖を高く維持しなければならない特殊なシステムを備えていること、血管系の神経支配が哺乳類と全く異なってることなどがあげられます〔Braun et al.2008〕。鳥の糖尿病は哺乳類とは病態も異なることを頭において下さい。

なぜ高血糖なの?

鳥は、食物制限や絶食での生命維持、長距離移動での動力のために、より高い血糖値を維持していると思われ、その結果高い基礎代謝率と高体温を備えています〔Polakof et al.2011,Scanes  et al.1999,Klandorf et al.1999, Clarke et al.2010,Clarke et al.2008〕。

病態

血糖値の調整は、膵臓のα細胞から分泌されるグルカゴンとβ細胞から分泌されるインスリンのバランスによって行われています。哺乳類はβ細胞が優位でインスリンが血糖値を主に調整しています。それに対して鳥では、インコやオウムなどの穀食鳥はα細胞が優位でグルカゴンが血糖値を主に調整し、ワシやタカなどの肉食の猛禽類はβ細胞からのインスリンが優位で、鳥の種類によっても異なりますので、解釈が複雑です〔Lumeij 2008,Hazelwood 1986〕。しかし、オウムにおいてインスリン依存性の糖尿病が報告されていることから、必ずしもグルカゴンが主な調整とは限らず、鳥の糖尿病の原因や病態生理については不明な点が多いようです。

原因

鳥の糖尿病の具体的な原因は分かっていませんが、肥満、糖質または炭水化物が多い餌、遺伝、膵臓疾患、薬剤などが関与しているようです〔Lumeij 2008〕。

  • 肥満
  • 糖質または炭水化物が多いエサ
  • 遺伝
  • 膵臓疾患
  • 薬剤

肥満はホルモンの不均衡を引き起こす可能性があります。高糖質または炭水化物のエサは、血糖値の上昇を引き起こします。膵臓腫瘍または膵炎(細菌やウイルス感染、卵黄性腹膜炎)は、インスリンやグルカゴンを増減させ、血糖値を上昇増させる可能性があります。遺伝的な素因を持っていると、他の鳥よりも糖尿病にかかりやすくなります。

どんな鳥で起こるの?

セキセイインコ、オカメインコ、ラブバード、コンゴウインコ、ボウシインコ、ヨウム、オオハシ、ニワトリ、ハトなどのいくつかの種で報告されています。また、野鳥での報告もあります〔Wallner-Pendleton et al.1993〕。

症状

糖尿病の鳥は、以下の症状が起こります。

  • 多飲多尿
  • 過食
  • 肥満/削痩
  • 沈鬱/無気力
水を飲む量が増えて、尿の量が増えます。水入れの水をほとんど飲みきって、床は水浸しになります。発症当初は肥満だった鳥も次第に痩せていきます。血糖値の上昇を促進する一環として、グルカゴンは脂肪分解を強力に促進するためです。糖尿病が進行することで、沈鬱あるいは無気力になってきます。

診断

多飲多尿の時はまず、尿検査で尿糖を調べます。尿糖が出ている時は、血液検査で血糖値(グルコース)を調べます。

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糖尿病疑いの鳥は動物病院でも尿検査を行って下さい。の尿検査でケトン尿症(※)にもなっていることが多く〔Hochleithner 1994〕、ケトーシス(※)は肝不全または胃腸疾患が併発している鳥で容易に発生します〔Ganez et al.2007, Desmarchelier et al.2008〕。ケトン尿の場合は大量が急変する恐れがあります。

※ケトン体は脂肪が変化して作られる物質で、エネルギー源として利用されます。健康体でも少量のケトン体は存在しますが、糖尿病によってインスリンの作用が低下すると、糖分からエネルギーを作れないため、替わりに脂肪が利用される比率が増え、ケトン体も多く発生します。ケトン体が多くなっている状態をケトーシスと言います。ケトン体は酸性なので、その量が増えると血液が酸性になり、血液が酸性になっている状態がアシドーシスで、その原因がケトーシスであれば、ケトアシドーシスといいます。ケトアシドーシスでは、一般状態が悪くなり、深くて早い呼吸などが見らて、意識障害や昏睡に陥ったり、生命に危険が生じることもあります。

糖尿病の確定診断は血液検査になります。しかし、鳥は採血による保定でストレスによる高血糖を示すのが欠点です。ストレスがどれだけかかったかにもよりますが、糖尿病の診断を下すために、落ち着かせて採血することが理想です。糖尿病の診断として、792mg/dLまたは990mg/dL以上の血糖値が目安とされていますが〔Fudge 2000, Pilny 2008〕、その具体的な数値も明確になっていません。哺乳類での高血糖は糖化ヘモグロビン値が上昇することが知られ、糖尿病の診断に用いられていますが、鳥は哺乳類と比較して低レベルの糖化ヘモグロビンを持っており〔Szwergold et al.2011〕、診断に使用できるか不明です。

治療

鳥の糖尿病の治療も具体的には確立していません。インスリンの注射や血糖糖降下剤の経口投与など使用できる薬剤ならびに投与量も分かっておらず、食事療法や運動などで血糖値を安定させる方法をとるしかありません。

インスリン注射

インスリン注射で鳥を治療することは現実的でないと思います。鳥の血糖値が下がりすぎると、けいれん、昏睡、死などの深刻な合併症を引き起こす可能性がありますので、インスリンの注射では鳥の血糖値を毎日頻繁にチェックする必要があります。大型種では可能かもしれませんが、30g前後のセキセイインコなどの小型種ではとても負担になります。これらのことから、インスリンの投与は現在のところ積極的にはお薦めできません。一般的には鳥類は、インコやオウムはグルカゴン優位の血糖値の調整が行われ、反対にインスリン作用に比較的鈍感とも言われ〔Scanes et al.2008〕、インスリンによる血糖値の調整の有用性に関して疑問が残りますが、ヨウムでインスリン治療に反応した報告があります〔Candeletta et al.1993〕。その事実の解明も今後に期待しましょう。

血糖降下剤の経口投与

ビグアナイド薬(メトホルミン)やスルホニル尿素薬(グリベンクラミド)などが検討され、これらはインスリン注射よりもはるかに安全で、調節が簡単です。しかし、種類の選択や投与量も分かっていないので、経験的に使用されています。良好な結果が得られる場合もあれば、改善がないケースもあり、鳥類の糖尿病に対する病態生理が不明な点からも治療法の確立には至っていないというのが現状です。

食餌法と減量

糖質と炭水化物の量を少なくし、糖尿病の予防を行います。もちろん毎日部屋の中で飛ばして肥満も防ぎます。下記のようなダイエット用のペレットも有効です。しかし、ペレットに変更するのも大変ですし、簡単にできることは糖質の吸収を抑えるデキストリン配合のサプリメントなどが人気で、多くの方が使用しています。

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参考文献
■Braun EJ,Sweazea KL.Glucose regulation in birds. Comp Biochem PhysiolB.151.1-9.2008
■Candeletta SC,Homer BL,Garner MM,Isaza R.Diabetes mellitus associated with chronic lymphocytic pancreatitis in an African grey parrot (Psittacus erithacus erithacus).J Assoc Avian Vet7(1).39–43.1993
■Clarke A,Portner HO.Temperature,metabolic power and the evolution of endothermy. Biol Rev85.703-727.2010
■Clarke A,Rothery P.Scaling of body temperature in mammals and birds.Funct Ecol22.58-67.2008
■Fudge AM.Avian metabolic disorders.In Fudge AM ed.Laboratory Medicine Avian and Exotic Pets.W.B. Saunders Company.Philadelphia.p56‐60.2000
■Desmarchelier M,Langlois I.Diabetes mellitus in a nanday conure.Journal of Avian Medicine and   Surgery3.246‐254.2008
■Ganez AY,Wellehan JFX,Boulette J et al.Diabetes mellitus concurrent with hepatic haemosiderosis in two macaws(Ara severa,Ara militaris).Avian Pathology36.331‐333.2007
■Hazelwood RL.Carbohydrate metabolism.In Sturkie PD.ed.Avian Physiology 4th ed.Springer‐Verlag.New York.p303‐325.1986
■Hochleithner M.Biochemistries.In Ritchie BW,Harrison GJ,Harrison LR.Avian Medicine.Principles and Application. Wingers Publishing.Florida.p223‐245.1994
■Klandorf H,Probert IL,Iqbal M.In the defence against hyperglycaemia: an avian strategy World’s Poult Sci J. 1999; 55: 251-268.1999
■Lumeij JT.Avian Clinical Biochemistry.InClinical Biochemistry of Domestic Animals.6th ed. Kaneko JJ, Harvey JW and Bruss ML eds.p839-872.2008
■Pilny AA.The avian pancreas and health and disease. Veterinary Clinics of North America: Exotic Animal Practice11.25‐34.2008
■Polakof S,Mommsen TP,Soengas JL.Glucosensing and glucose homeostasis: From fish to mammals. Comp Biochem Physiol B160.123-149.2011
■Scanes CG,Braun E.Avian metabolism: its control and evolution. Front Biol8.134-159.2013
■Szwergold BS,Miller CB.Potential of birds to serve as pathology-free models of type 2 diabetes, part 2: do high levels of carbonyl-scavenging amino acids (e.g., taurine) and low concentrations of methylglyoxal limit the production of advanced glycation end-products? Rejuvenation Res17.347-358.2011
■Wallner-Pendleton EA,Rogers D,Epple A.Diabetes mellitus in a red-tailed hawk (Buteo jamaicensis).Avian Pathol22(3):631-563.1993

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