専門獣医師が解説するシマリスの雌雄鑑別と繁殖〔Ver.2〕季節変身動物です!
シマリスは季節によって変貌する動物!
シマリスは季節によって性格が変貌し、行動にも変化が見られます。冬眠前はエサを貯めこむ行動が増えて、発情すると性格が荒くなり、人をかんでくることもあります。どれが本当の姿なんでしょうか?
雌雄鑑別
オス
雌雄は生殖孔と肛門の距離で鑑別され、オスはメスと比較して長いです。
オスは発情期になると、精巣が降りて腫大するため、陰嚢が大きくなります。
メス
メスは生殖孔(外陰部)と肛門の距離が短いです。
発情したメスは外陰部が充血して赤く腫れてきます。
繁殖
シマリスは繁殖する季節が決まっている季節繁殖動物で、繁殖期は冬眠明けの春から秋まで続き、特に春に発情が強く現れます。ただし生息域が広いシマリスは地域差や冬眠の有無によっても、繁殖情報が大きく異なります。繁殖回数は生息域北部で年に1回、温暖な南部では2回行われます〔Vinokurov et al.2002〕。これは生息域の積雪期間〔Kawamichi et al.1993b〕とエサの確保〔Chapuis 2005,Marmet 2008〕による影響を受けます。チュウゴクシマリスやチョウセンシマリスにおいても暖かい地域にいる個体群は春に次いで秋に再び繁殖期が訪れ、春に繁殖したものを春仔、秋に繁殖したものを秋仔とも呼ばれています。発情は冬眠によって大きく影響するといわれ、冬眠させた方が発情しやすいともいわれていますが、よく分かっていません。
性成熟
11~13ヵ月齢で性的な成熟を迎え、オスは精子が作れるようになり、メスは子供を作れる体になります〔今道 1979〕。
発情
日本で飼育されている冬眠をしないペットのシマリスでは11月頃から発情が始まり、4月位まで続きます。発情期になると上述したような外部生殖器と性格の変化が見られます。発情期には特有の発情行動がみられます。頬を膨らませて「キィーキィー」や「ホロホロ」という声を繰り返し発したり、しゃっくりのようなヒクヒクした行動、一点を凝視するなどの特有の徴候がみられます。食欲が低下したり、毛の光沢がなくなることもあります。発情したオスは性格が狂暴になる傾向があり、人に噛みつくこともあります。メスは2~3週毎(14±2日〔Blake et al.1988〕)、1~3日間の発情が繰り返し起こり、外陰部が腫大します〔Kawamichi 1989a〕。
発情期の間はあまり構わずに静観します。下手に手を出すと、大怪我をするほど咬みつくので注意して下さい。
交配
交配はまずお見合いからです。基本的にオスとメス1頭ずつで行います。それぞれのケージを並べて、お互いの匂いをかがせて存在を意識させます。メスの2~3週毎に訪れる1~3日の発情期を確認し、発情したオスをあてがいます。相性が悪ければ、すぐにケンカが始まります。このような理由から、シマリスを繁殖させることはタイミング的に難しいです。
妊娠・出産
妊娠期間は30〜31日〔Telegin 1980,Kawamichi et al.1993b,Blake et al.1988〕、34~35日〔Hoogland 1995〕等と報告されています。妊娠診断は動物病院で、触診、X線検査や超音波検査で行います。
妊娠した子供の数によりますが、後半になるとお腹が大きくなってきますので、この時期に巣箱の用意をします。妊娠中のシマリスには栄養価の高いエサが必要になりますので、ペレットは高カロリーのものに変えるとよいでしょう。出産が近づくと、巣箱に床敷などを運んで、巣を作り始めます(営巣)。想像妊娠が起こることもあり、発情行動や営巣が頻繁に見られ、乳腺が腫って母乳が出てきます。産まれてくる子供の数は、2~10頭〔Johnson-Delaney 2002〕、2〜13(平均5.8)〔Vinokurov et al.2002〕、飼育下では4.4±1.6頭〔Blake et al.1988〕などと報告されています。野生のエゾシマリスでは4.8±0.3頭で〔Kawamichi et al.1993b〕、5~6月に出産します〔Kawamichi et al.1993b〕。
赤ちゃん・子育て
新生子は赤子で生まれ、目も耳も閉じた状態です。体重は3〜5gで、10日齢になると7〜10g、 24日齢で21~22gに成長します。上顎前歯は12日目に、上顎前歯は21日目に萌えて、少量ずつエサを自ら摂り始めますが、奥歯を含めた乳歯との完全な交換は2.5ヵ月齢までかかります〔Mezhenniy 1964〕。目は約28日齢で完全に開きます〔Mezhenniy1964〕。子育ては母親だけで行いますので、安心して子育てできるような環境やエサの管理を行って下さい。出産後は神経質になるため、ケージ内は暗くして静かにしましょう。掃除も毎日やると母親にストレスを与えるので、出産前にきちんとして、しばらくは最低限の掃除にします。絶対に赤ちゃんには触れないで下さい。触ると人の匂いがついて、母親が育児放棄をすることがあります。
授乳期間は、40〜45日間〔Telegin 1980〕、5週間〔Blake et al.1988〕、6〜8週間〔Kawamichi et al.1993b〕等の報告があります。消化機能が完全に発達するのは約5週齢以降で、完全な離乳は6週齢以降が理想です。子供は体重が約50 gに達すると、巣穴を離れ〔Marmet2008〕、成体の体重に3〜3.5ヵ月齢で到達します。
表:繁殖知識
性成熟 | 11-13ヵ月齢〔今道 1979〕 |
繁殖形式 | 季節繁殖(冬眠明けの春から秋)/発情周期 2~3週間 |
妊娠期間 | 30‐31日〔Telegin 1980,Kawamichi et al.1993b,Blake et al.1988〕 34‐35日〔Hoogland 1995〕 |
産子数 | 2‐10頭〔Johnson-Delaney 2002〕 2‐13(平均5.8)〔Vinokurov et al.2002〕 飼育下では4.4±1.6〔Blake et al.1988〕 野生のエゾシマリスでは4.8±0.3頭で〔Kawamichi et al.1993b〕 |
離乳 | 約6週齢 |
・発情期は生殖器が大きくなり性格も狂暴になる
・狂暴化したシマリスはタイガーと呼ばれる
・発情したオスは噛みつくので触らない
・繁殖は難しい
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参考文献
■Blake BH.Estrous calls in captive Asian chipmunks, Tamias sibiricus. J. Mamm, 73:597-603.1992
■Blake BH,Gillett KE.Estrous cycle and related aspects of reproduction in captive Asian chipmunks, Tamias sibiricus. Journal of Mammalogy69.598-603.1988
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■Kawamichi M,Kawamichi T.Factors affecting hibernation commencement and spring emergence in Siberian chipmunks (Eutamias sibiricus).In Life in the Cold.Ecological,Physiological,and Molecular Mechanisms.Carey C, Florant GL,Wunder BA,Horwitz B.eds.Westview Press.Boulder.p81-89.1993a
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■Kawamichi M.Nest structure dynamics and seasonal use of nests by Siberian chipmunks (Eutamias sibiricus).J Mamm70.p44-57.1989
■Kawamichi T,Kawamichi M.Gestation period and litter size of Siberian chipmunk Eutamias sibiricus lineatus in Hokkaido,northern Japan.J Mamm Soc Japan18.p105-109.1993
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■Marmet J.Traits d’histoire de vie du Tamia de Sibérie Tamias sibiricus, espèce exotique naturalisée dans la forêt de Sénart (Essonne) : démographie, biologie de la reproduction,occupation de l’espace et dispersion.MNHN.Paris.France.p171.2008
■Mezhenniy AA, 1964. The method of age determination and analysis of age composition of chipmunk’s population in Olekma river basin. In: Vertebrates of Yakutia (materials for ecology and abundance).Yakutsk, USSR:YaF SO AN SSSR, 43-50.1964
■Telegin VI.Chipmunks in Western Siberia.Akademia Nauka USSR.Novosibirsk.Rus.p111.1980
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■今道友則監.実験動物の飼育管理と手技.ソフトサイエンス社.東京.1979
■川道道枝子.シマリス.冬眠する哺乳類.川道武雄他編.東京大学出版会.東京.p143-186.2000
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■西原悦男.北東アジア陸生哺乳類誌.朝鮮半島・中国東北篇.鳥海書房.東京.1995