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専門獣医師が解説するハムスターのう蝕(虫歯)〔獣医師向け〕

 2023/11/25 3 ハムスターの病気 この記事は約 12 分で読めます。 789 Views

ハムスターのう蝕

ペットのハムスターの臼歯において、時に歯冠が腐食していたり、あるいは抜け落ちていることがあり、人におけるう蝕と思われる状態に遭遇します。

人のう蝕の実験動物

動物のう蝕を発生 させる実験では、ラ ッ トやハ ムスターなどの動物が使われています〔大西 1970,Navia 1979〕。ハムスターは平滑面 に歯垢が付着 し、その下の歯質の崩壊が起 こりますが、ラットでは歯垢の付着量とう蝕による歯質の崩壊において、ハ ムスターのよ うな強 い相関は認められず、このように動 物の種 の違いによ りう蝕 の発生にも相違があり、ハムスターは平滑面う蝕の観察に適する動物であると言われ ています〔半田 1992〕。特にハムスターは、1942年のう蝕実験に用いて以来〔大西1976〕、う蝕の発生形式以外にも、その繁殖力の大きさ、歯牙や歯列などの特異性からラットより利点が多く有用とされています〔Keyes1965〕。

う蝕菌

う蝕誘発菌として種々記載されていますが、代表的な菌はStreptococcus mutansストレプトコッカス・ミュータンスになります〔Clark 1924〕。S.mutansは多くの血清型に分類され、現在までa~gの7タ イプが確認 され〔Rogers 1969,Coykendall 1971,Bratthall 1972,Perch et al.1974,Shklair et al.1974,Coykendall 1974〕、 血清型によっても、う蝕の発生および進行状態に違いがあることも明らかにされてきました〔浜田 1981,Edwardsson 1970,Krasse et al.1970,Fitzgerald et al,1968,Guggenheim et al.1965,Guggenheim 1968,Zinner et al.1965〕。人だけでなく、ハ ムスターやラットの実験動物においてもS.mutansがう蝕 を発生 させます〔Krasse 1966,Krasse et al.1966,Zinner et al.1968,Edwardsson 1968,Zinner et al.1969,Bowen 1970〕。これらの事実から実験動物に発生す るう蝕は、ヒトのう蝕と極 めて類似す るものと考えられ、積極的に研究が行われているのです〔大西 1970〕。S.mutansは最初からヒトの口腔内に存在しているのではなく、口移しや食器の共有などによって、感染者の唾液が口に入ることによって感染します。なお、同属にStreptococcus sobrinus(ストレプトコッカス・ソブリヌス)などもあり、それら全てがS.mutansはと考えられていましたが、DNAによる同定法などが確立され、それらが別の菌であることが分かりましした。

 

ハムのう蝕の作り方

さまざまなヒトの血清型のS.mutansをハムスターへ移植し、う蝕誘発効果が研究されています〔Krasse et al.1970,Krasse 1966〕。ただし、細菌を摂取させて定着させるだけでなく、う蝕誘発食 を用 いることによって極めて高率に実験的う蝕を発生させうることが明 らかにされています〔Fitzgerald et al.1960,Keyes et al.1963,Konig et al.1965〕。

甘いものが原因

実験動物のハムスターにおいてのう蝕になりやすい条件は、S.mutansをの感染を含めて、以下のような餌や条件に大きな要因があるとされています〔和田 1983,Keyes 1965〕。

①歯が生えて何ヵ月も経つと、う蝕虫歯になりにくくなるので、歯が生え始めた、生後21日頃から実験を開始する

離乳期ハムスターの口腔内にS.mutansを接種し、う蝕誘発食を用いて、う蝕発生および進行に影響を与える食餌因子について研究されています〔Reidar et al.1956〕。

②研究用のハムスターにはう蝕菌がいないので、人間のS.mutansを接種する

③最もう蝕になりやすい糖類を餌に多く混ぜる

う蝕の進行には糖類ではショ糖が強く関与し〔Reidar F et al.1956〕、その他にショ糖の摂取量、摂取頻度および摂取食餌の物理的性状も強く関与しています。

④餌の形状と一日中餌を食べることができる「ダラダラ食い」状態にする

ショ糖の粒度およびショ糖を含む食餌の形状、粘性および口腔内停滞性などでう蝕の発生に深く関与し、これらがう蝕進行 に関与する重要因子と考えられています。粉末のう蝕誘発食中のショ糖粒度の小さい方が、う蝕発生率が高いことを報告しています〔Stralfors 1966〕。そして、水分が少なく固形成型した餌は口腔内停滞性の高いほどう蝕罹患率が高い結果になりました〔Harris et al.1958,Gustafson et al.1955,Anderson et al.1947〕。ダラダラ食いは口腔内に餌が長時間停滞することで、う蝕が発生しやすいということになります。

 食物繊維が予防?

食物繊維は腸管内では、粘性や保水性などの作用があり、消化吸収 に関する生理作用に影響を与えると言われ ていますが、口腔内においても細菌による分解などにより、歯垢の付着やう蝕の発生に何らかの影響を与えていることが考えられています。ハムスターやラットの実験動物ではセルロースがう蝕予防に効果的であると数多くの報告があります。特にセルロースを多く含む餌で飼育した場合には、セル ロースの清掃作用によりう蝕を減少 させる効果が期待できるといわれています。ラッ トを用いた研究では、食物繊維としてセルロースとペクチン(植物の細胞壁などに含まれる多糖類で食物繊維の一つ)を14%混入した餌を与え、セルロースにはう蝕抑制効果があったことを報告しています。その作用機序は、セルロースが非水溶性 であるために、口腔内で清掃作用 を持つからと言われていますが、水 溶性食物繊維 であるペクチンについては特にう蝕の抑制作用はみられなかったと記載されています〔垣本 1984〕。ハ ムス ターを用 いた研究では、齲蝕誘発性飼料にセルロースを7%添加したところ、う蝕抑制効果があり。一方で水溶性食物繊維で あるペクチンはショ糖 の存在下で、う蝕誘発性を高める可能性が示唆されています〔兼平1986〕。また、ショ糖の存在では高粘度の水溶性食物繊維は低粘度の水溶性食物繊 維に比べ、う蝕誘発性が高い可能性が示唆 された〔高嶋 1993〕。いわゆるリンゴのように繊維質の食物は歯面 に停滞 した食物残渣を機械的にこすつて清掃する働 きをもつことも考えられていますが〔Bowen 1970〕。細かい粉末状のセルロースを用いた場合には、ハムスターの歯の平滑面に付着した歯垢を除去するほどの清掃効果は得られないのではないかと考えます〔高嶋 1993〕。参考文献
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