鳥の気嚢って?専門獣医師が解説する鳥の呼吸システム
飛んでなんぼ!
鳥は飛翔するために動物の中でも最も効率的な呼吸器系を備え、飛翔では多くの酸素を必要としながら、鳥によっては酸素濃度の薄い高い上空を飛ぶものもいます。鳥類の呼吸器は、外鼻孔、副鼻腔、喉頭、気管・気管支、肺、肺から構成され、呼吸器系の身体に対する容積の割合は、哺乳類と比べて3~5倍大きいことが特徴です〔Maina 1989,Bech et al.1980〕。しかしながら、肺の占める体積は小さいことから、気嚢など発達していると思われます〔Lasiewski et al.1971〕。
鼻孔・副鼻腔
外鼻孔は上嘴基部の左右に位置し、オウム目では蓋弁を備え、異物が鼻腔内に入り込まないようにしています。
外鼻孔からの空気は、まず副鼻腔に流入しますが、副鼻腔には複数の襞があり、空気と接する面積を増やします。流入した空気は副鼻腔で湿潤・保温され、上顎の口蓋にある後鼻孔を介して喉頭へ入ります〔Mckibben et al.1986,Whittow 2000〕。なお、鳥の副鼻腔は眼窩下洞を含んでおり、上嘴から顔面、頭部内に複雑に入り込んで迷路状になっています。下のCTスキャン画像を見てください。まるで迷路のようですね。ここに炎症が起きると長期の治療が必要になったり、慢性化することも多いです。
オウム目の左右の眼窩下洞はつながっていますが、スズメ目では左右が独立しています〔Mckibben et al.1986〕。外鼻孔で吸った空気は副鼻腔を介し、最終的に後鼻腔を通り、咽頭・喉頭を通り気道に入ります。
後鼻孔は鳥が開口して咽頭の上壁に縦長のスリット状の裂け目として確認されます。スリットの両脇には毛状乳頭があり、大きい異物の侵入を阻止しています。
呼吸
肺の前後、気道につながった気嚢が、鳥の効率的な呼吸系を可能にしています。鳥類は横隔膜を欠き、肺も十分に動かすこともできないため、代わりに呼吸筋によって体内での空気の移 動を行います。吸気時は烏口骨を支点として、肋間筋が胸骨を前腹方向に動かすことで胸郭を拡張させ、呼気時は胸骨を背中側に引き寄せることで、胸郭を縮小させます。
気管・肺・気囊
1本の気管は分枝した左右の気管支(一次気管支)に分かれ、肺に至ります。なお、鳥は声帯を欠き、喉頭は発声機能を持たず、気管支の間には鳴管という器管が発声に関与します。甲状腺は胸郭内の入口から鳴管の近くに、気管を挟んだ位置に存在します〔Rae 2000〕。鳥類の肺は葉区分を欠き、肺の表面は背側に張り付くよう に周囲に付着し、ほとんど収縮しません〔Jones et al.1985,McLelland 1990〕。
肺につながった複数の袋状器官である気囊に空気を貯めたり、収縮させることで、肺に空気を流して呼吸をします。つまり、気囊は鞴のような動きをするため鞴呼吸とも呼ばれ、空気を含有した機能は、内臓間や体腔内に複雑に収納されています。一般的に前方気囊群(頸気囊〔Cervical air sac〕、鎖骨間気囊〔Clavicular air sac〕、前胸気囊〔Cranial thoracic air sac〕)と、後方気囊群(後胸気囊〔Caudal thoracic air sac〕、腹気囊〔Abdominal air sac〕)から構成されます〔McLelland 1990〕。鎖骨間気囊以外は一対であるため、気囊の数は全部で9つですが、スズメ目では鎖骨間気囊が前胸気囊と融合しているため、全部で7つです〔Brown et al.1997,El‐Sayed, Ahmed et al.2019.Bejdić et al.2021〕。鳥類の呼吸は前方気嚢群、後方気嚢群、肺の3つの連携によって行われています。
気管支から流入した空気は肺の二 次気管支を通り、三次気管支(小気管支)まで送り込まれます。なお、肺内の気管支の端は、一部後方気嚢とも連絡しています。鳥類の肺には肺胞がなく、複数の三次気管支がつながって緻密な回路系を形成し、気管支の壁内に毛細血管が張り巡らされています。この三次気管支を通る空気と毛細血管を流れる血液の方向は逆向きに流れ、さらに直角に走行し、その結果、管状の気管支の円周を取り巻くように血管が位置するため、ガス交換において非常に有利な構造になっています〔Brown et al.1997〕。呼吸数は身体の大きさや活動性によって異なり、飛翔時は12~25 倍に増加します〔Gill 2007〕。
呼吸時の肺・気嚢の空気の流れ
空気は、副鼻腔・気管を介して半分は直接後方気嚢群に入り、残りの半分は肺を介して前方気嚢群に流れます〔Maina 2005〕。 呼気の際に、後方気嚢群に入っている空気は肺に送られ、ガス交換が行われます。つまり、吸気では後部気嚢と前部気嚢の両方が拡張しますが〔Ritchson 2009,Macklem, et al.1979〕、後方気嚢群は吸入した新鮮な空気で満たされ、前方気嚢群は肺を通過したばかりの酸素の少ない空気で満たされます。呼気の際には前方気嚢群も収縮し、その中の空気は外へと送り出されます。なお、鳥類では飛翔のために、呼吸器と連絡した骨髄に空気を満たした骨があり、これを含気骨と呼ばれます。鳥類にもより異なるが、椎骨、肋骨、上腕骨、烏口骨、胸骨、腸骨、坐骨、恥骨などが含気骨です〔O’Connor 2004〕。セキセイインコやオカメメインコの頸気囊は眼窩下洞と連絡しています〔Mckibben et al.1986〕。
体温調整
気嚢は呼吸時のポンプとしての役割や体重の軽量化に役立ち、さらに体温調整も行います。羽毛で覆われ、汗腺も欠く鳥は放熱の効率が悪く、気嚢に空気が通る際に、湿った気嚢壁に空気が流れ込むことでその水分が蒸発し、熱が発散します〔Sverdlova et al.2012〕。
参考文献
■Bech C,Johansen K.Ventilation and gas exchange in the mute swan.Cygnus olor.Respir.Physiol39:285–295.1980
■Bejdić P,Hadžimusić N,Šerić-Haračić S,Maksimović A,Lutvikadić I,Hrković-Porobija A.Morphology of the Air Sacs in Crimson Rosella (Platycercus elegans) Parrots. Advances in Animal and Veterinary Sciences9(11).2021
■Brown RE,Brain JD,Wang N.The avian respiratory system: a unique model for studies of respiratory toxicosis and for monitoring air quality. Environmental Health Perspectives105 (2):188–200.1997
■Carlson HC,Beggs EC. Ultrastructure of the abdominal air sac of the fowl.Res.Vet.Sci14: 148–150.1973
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■Ritchson G.BIO 554/754 – Ornithology:Avian respiration.Department of Biological Sciences, Eastern Kentucky University. Retrieved.2009
■Rae M. Avian endcrine disorders. Avian laboratory medicine.In Laboratory medicine. Avian and exotic pets. Fudge AM ed. WB Saunders.Phiadelphia.2000
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■Whittow G. Causey. Sturkie’s Avian Physiology.Academic Press.San Diego.California:p233–241.2000