ハムスターのお尻がはげてきました・・・専門獣医師が解説するニキビダニ
お尻の毛が薄い?
ゴールデンハムスターのお尻の毛が薄くなる原因は沢山あります。外傷、ホルモン性、栄養性、そしてニキビダニと呼ばれる寄生虫が考えられます。ハムスターではニキビダニが原因であることが多いので〔Nutting et al.1961,Sarashina et al.1986,Timm 1988〕、動物病院で診察を受けて下さい。
ニキビダニとは?
ニキビダニとはニキビダニ属(Demodex)のダニで、哺乳類の皮膚の皮膚に寄生します。全ての種の哺乳類に、それぞれの種類に分化したニキビダニが寄生していると考えられ、普段は何も症状が見られません。ハムスターからは細長いDemodex aurati と短いD.criceti の2種類が検出されますが、細長いD .auratiの方が病原性があります〔Karaer et al.2009〕。
皮脂腺などの毛包部に寄生するため、毛包虫とも呼ばれています。人でも顔に寄生していることが一時有名になり、顔ダニと呼ばれていました。人の顔では皮脂腺が発達しているので、顔における寄生密度が高いのです。
発症要因
病状が発現するのは、多くがD.aurati によって引き起こされ、常に免疫系の低下に関連する根本的な問題に二次的に発生することから〔Nutting et al.1961,Sarashina et al.1986,Timm 1988〕、基礎疾患が潜在していることもあり得ます。ハムスターのニキビダニの根本的な発生要因には次のものがあります〔Miller et al.2013〕。
- 腫瘍
- 副腎皮質機能亢進症
- 内臓疾患(肝不全や腎不全)
- 栄養の不均衡
- ストレス
- 加齢による免疫力低下
Whiteらの回顧的な研究では、動物病院に来院するハムスターの皮膚疾患の罹患率は2つの施設で、54%および41%でD.auratiによるニキビダニ、膿瘍および新形成が最も一般的でした〔White et al.2019〕。しかし、ニキビダニの発症する正確な原因は、ほとんどが明確になっていません。
症状
ニキビダニの症状はそうようの無い斑状脱毛、鱗屑および痂皮形成です。皮疹は身体のどこにでも発生する可能性がありますが、初期段階では首と背部に発生する傾向があり、病気の経過の後期にはより広範囲に発生します〔Ellis et al.2001,Timm 1988〕。 脱毛を呈する初期の症例では、脇腹の臭腺が見えるようになることがあります。 二次感染が発生する可能性もあり、影響を受けたハムスターは根底にある全身的な問題により全身疾患を患っているかもしれません。
全身にまで広がって脱毛するハムスターもいます。
高齢のハムスターのニキビダニは難治性です。加齢とともに基礎疾患が増え、免疫低下も著しいと思われます。皮膚の装用や炎症が見られ、活動性や食欲の低下もあるハムスターであれば、生死を決定するような内臓疾患や腫瘍などの大きな基礎疾患が潜んでいる可能性が高いす〔Karaer et al.2009〕。
上記の症状はゴールデンハムスターのもので、ジャンガリアンハムスターでは、首から背中にかけて落屑と脱毛を起こす例が多いですが、症状が一定ではありません。
検査はどうするの?
毛を抜いたりして、顕微鏡でダニがいるか調べます。しかし、ダニの検出率は40~70%と幅広く、1回の検査ではダニが検出できないこともあります。
治療
ニキビダニに対して駆虫剤を使用しますが、虫を増殖させて発症させる基礎疾患の臨床的確認が不十分または欠如していることがよくありますので、その対応が不十分であると、皮疹の改善はしません。殺ダニ剤は局所のアミトラズやメタフルミゾン、過酸化ベンゾイルシャンプー、イベルメクチンの皮下投与および経口投与、ドラメクチンの皮下投与、スポット剤のセラメクチン、モキシデクチンを経口投与など、いくつかの薬剤が報告されていますが〔Janczak et al.2017,Miller et al.2012〕、その結果にはばらつきがありました。
アミトラズ
犬のニキビダニにおいて古典的な駆虫薬である外用薬のアミトラズで治療されますが、ハムスターでは十分に皮脂腺の深い箇所に寄生したダニには接しない可能性も示唆されながら〔Nutting et al.1961〕、症状が改善した報告もあります〔Timm 1988〕。一般的に週に1回100 ppm〔Paterson 2006〕~ 250ppm〔Miller et al. 2012〕の濃度での薬浴が行われています。
イベルメクチン
イベルメクチンは長い期間使用され、報告も数多いです。Taniらによるニキビダニによる皮疹がみられたゴールデンハムスター 56頭にイベルメクチン (0.3mg/kg) を毎日経口投与して治療した治療成績の報告が有名です。 33頭 (58.9%) が治癒し、6頭例 (10.7%) は臨床的に改善しましたが、治療を継続する必要がありました。 3 か月以内に再発し、イベルメクチンで再治療された 5頭 (8.9%) のうち、4 頭は治癒し、1 頭はさらなる治療が必要でした。 5 頭 (8.9%) は臨床的に改善しましたが、3 か月以内に死亡しました。7頭 (12.5%) は改善せず、3 か月以内に死亡しました。 全体で49 頭 (87.5%) のハムスターが臨床的に改善しました。 性別、品種、年齢、臨床的特徴による毛包虫症の予後における有意差は検出されませんでしたが、この結果は潜在疾患が治療成績に大きな影響を及ぼしていることが考えられました〔Tani et al.2001〕。
ドラメクチン
身体全体の脱毛とそう痒のある生後25ヵ月齢のゴールデンハムスターに40~60μg/頭のドラメクチンを週に1回、6週間皮下注射しました。 治療後、皮膚病変は劇的に改善され、皮膚の掻き取りではダニは検出されませんでした。しかし、28ヵ月齢に腹部に皮疹が再発し、D.criceti が検出され、ドラメクチン60 μg/頭を週1回、8週間皮下注射したところ皮疹は再び消失しましたが、その8ヵ月後に再びダニが検出されました〔Sato 2009〕。本ハムスターは高齢での発症のために、薬剤の反応が効果的でなかったと思われます。
セラメクチン
滴下式の殺ダニ剤です。D.auratiとD.cricetiが検出された、わずかなそうようと脱毛を患っていた生後7ヵ月ゴールデンハムスターに、セラメクチン局所溶液を、6 mg/kg の用量で、2つの肩甲骨の間の肩領域の皮膚に直接塗布しました。しかし、投与後14 日および30日では、皮膚の掻爬物には D.auratiのみが存在していましたので、 2回目のセラメクチンの投与は12mg/kgの用量で投与されました。その結果、 ダニは治療後14日目と30日目に検出されませんでした〔Güleğen et al.2010〕。
フルラナナー
フルララナーは経口または局所的に投与される全身性の殺ダニ剤です。新しい薬剤で米国食品医薬品局(FDA)は、2014年に犬のノミ治療薬としてBravecto の商品名で承認されました。ニキビダニと診断された生後16ヵ月齢のゴールデンハムスターに経口フルララナーを25mg/kgの用量で、60日目に再投与を行い、治療に成功しました。最初の投与後、皮膚病変は急速に改善し、30日目には皮膚擦過傷は消失しました〔Brosseau 2020〕。
参考文献
■Brosseau G.Oral fluralaner as a treatment for Demodex aurati and Demodex criceti in a golden (Syrian) hamster (Mesocricetus auratus).Can Vet J61(2):135-137.2020
■Ellis C,Mori M.Skin diseases of rodents and small exotic mammals.Veterinary Clinics of North America:Exotic Animal Practice 2001;4(2):493-542.2001
■Güleğen E,Çırak VY,Șenlİk B, Aydın L.Use of selamectin against Demodex aurati and Demodex criceti in a hamster.Yüzüncü yıl Üniversitesi Veteriner Fakültesi Dergisi21 No.1:p63-65 ref.15.2010
■Janczak D,Ruszczak A,Kaszak I,Golab E,Barszcz K.Clinical aspects of demodicosis in veterinary and human medicine.Medycyna Weterynaryjna73(5):265-271.2017
■Karaer Z,Kurtdede A,Ural K,Sari B,Cingi CC,Karakurum MC et al.Demodicosis in a Golden (Syrian)hamster (Mesocricetus auratus).Ankara Universitesi Veteriner Fakultesi Dergisi 2009;56:227-229.2009
■Miller WH,Griffin CE,Campbell KL.Muller and Kirk’s small animal dermatology.Edn 7,Elsevier.Missouri:1791-1793.2012
■Miller WG,Griffin CE,Campbell KL.Small Animal Dermatology 7th ed.Elsevier.St Louis.2013
■Mohanan L et al.Therapeutic management of demodicosis in golden hamsters:A review of 5 cases.Journal of Entomology and Zoology Studies9(4):343-34.2021
■Nutting WB,Rauch H.The effect of biotin deficiency in Mesocricetus auratus on parasites of the genus Demodex.J Parasitol47:319–322.1961
■Paterson S.Skin Diseases of Exotic Pets.Blackwell Science.Oxford.2006
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■Tani K,Iwanaga T,Sonoda K,Hayashiya S.Ivermectin Treatment of Demodicosis in 56 Hamsters.Journal of Veterinary Medical Science 63(11):1245-7.2001
■White SD,Bourdeau PJ,Brément T,Bruet V,Gimenez-Acosta C,Guzman DS,Paul-Murphy J,Hawkins MG.Companion hamsters with dermatological lesions; a retrospective study of 102 cases in university teaching hospitals (1985-2018). Veterinary Dermatology, [e-pub ahead of print, 22 Feb].2019
・皮膚の免疫低下することでダニ増えて脱毛
・ゴールデンハムスターはお尻の脱毛特徴
・皮膚に垂らす薬を3回やれば治る
・免疫を下げる基礎疾患が重症だと治らない