専門獣医師が解説するハムスターの不正咬合〔Ver.2〕エサが上手く食べれない・・・
目次
切歯が伸び続ける
野生のハムスターは種子や植物を餌としてかじるために、切歯が発達しています。かじっても歯が磨り減らないように、生涯にわたって伸び続ける常生歯(じょうせいし)です。なお、臼歯は常生歯ではありません。そして、切歯の表面のエナメル質にはミネラルが沈着しているために黄色を帯びていますが、これは異常ではありません。下顎切歯は上顎切歯より長く、上の3~4倍ほどです。
餌を食べる際に上下の切歯が当たることで削れていくため、ペレットなどの適度の硬さの餌を与えていれば、切歯が伸びすぎることはありません。歯根の歯根には歯を伸ばす特集な細胞が密集しており、それらの細胞が失活すると歯が伸びなくなります。
なんでなるの?
原因は、ずばり以下の4つです。
- 柔らかいエサ
- ケージの金網をかじる
飼育下では柔らかい餌を食べることが多くなると、長く伸びることがあります。切歯が長く伸びた状態を過長歯(かちょうし)と呼ばれます。ハムスターを初めとするげっ歯類の切歯は歯の構造的に、骨に緩く結合しています。そのために、上下の切歯がケージの金網をかむことで、異常な方向に矯正されます。その結果、上下の歯のかみ合わせが悪くなることで、不正咬合(ふせいこうごう)を生じます。
歯の病気って?
過長歯/不正咬合
不正咬合になると切歯が変な方向にはえて、上下が上手くかみ合わないために、適度な長さになりません。歯が伸びると口が上手く閉じなくなります。特に上顎の切歯は湾曲が強く、円を描きながら伸びることがあります。湾曲して口の中の方向に伸びた前歯は、口を傷つけたり、刺さることもあります。
過長歯は折れやすくなり、またケージの金網をかじった時に引っかけて折れたり、骨折を伴うような事故も起こります。折れた前歯が伸びなくなったり、歯根に感染を起こすこともあります。
歯牙腫
歯根の特殊な細胞は、ケージをかじるなどの不荷を受けると、細胞が石灰化を伴いながら丸く増殖していきます。X線写真で歯根に白色に丸いしこりのように確認されます。このしこりを歯牙腫(しがしゅ)と言います。
根尖膿瘍
歯根が感染により、蓄膿する状態が根尖膿瘍(こんせんのうよう)です。歯根の周囲の骨も溶けることも珍しくありません。下顎の切歯に根尖膿瘍が起こると、下顎が蓄膿で膨らんで、黄白色の膿が排膿します。
上顎の切歯の根尖膿瘍だと、眼球が突出して目から排膿します。
う蝕(虫歯)
ハムスターはう蝕(虫歯)ができやすい動物で、甘いおやつや果物の多給が原因です。切前よりも臼歯に好発し、歯が溶けたり、抜けて臼歯がなくなることが多いです。下のX線写真では、下顎の臼歯が一部が抜けて隙間になっているのが分かります。
初期症状は?
過長歯や不正咬合になると採食が上手くできずに、削痩します。重篤な過長歯は歯が口腔から飛び出して確認されます。元気だけど、あまり餌が減らないという状態が初期症状ですね。
治療は?
多くの過長歯や不正咬合は完治できないことが多いです。切歯が伸びたら定期的にカットするしかありません。ハムスターの歯には神経が通っており、飼い主が自宅でカットすることは推奨できませんので、動物病院で処置を受けて下さい。歯のカットの頻度やタイミングは状態により、短いと2週間、長いと2ヵ月位が目安になります。歯のカットは麻酔をかけないで行う方法と麻酔下で行う方法の2つがあり、それぞれ一長一短です。麻酔をかけないでカットすると、ハムスターは暴れて怪我をしたり、歯が縦割れすることもあります。間違えて歯ではなくて舌を切ってしまうこともあります。麻酔下の処置では、一番に麻酔のリスクがあげられます。しかし、きちんと正しく短く歯がカットできますので、歯のカットの処置の間隔が長くなります。
切歯が使えないため、餌をかみきるとができません。ペレットであれば割って小さな小片にするか、ふやかして与えて下さい。種子であれば、ヒマワリは殻をむいて中身を小さく切るか、小鳥用の餌の種子である、アワやキビなどの小さい粒のものが適しています。小さくすることで、臼歯だけを使って食べられます。野菜も細かくカットしてから与えて下さい。ハムスターによって好みもあり、食べられる餌の大きさも異なりますので、色々と試して一番に食べるものを探してあげましょう。
まずは自分で歯を見て!
ハムスターの臼歯が伸びているのか確認しましょう。普段から切歯の長さを観察して正常な状態を把握しておくことが大切です。確認するには、ハムスターの首の後ろの皮膚を人差し指と親指でしっかりと挟んで持ち上げて下さい。身動きがとれなくなり、切歯が確認できるはずです。
予防は?
普通に飼育してれば、ハムスターの切歯が伸びすぎることはなく、定期的にカットすることも不要です。歯が伸びないようにする対策は以下の通りです
- ケージから金網をなくす
- かじり癖対策をする
- ケージ内のレイアウトを変える
- 硬い餌を多くする
ケージから金網をなくす
ケージの金網部分をかじっている時は要注意です。周囲が金網である金網ケージならば、アクリルやガラス製の水槽タイプのケージに変えて下さい。
ケージの天井だけが金網になっている時は、ハムスターが天井に届かないようなレイアウトを考えます。
かじり癖対策をする
ハムスターはかじる習性がありますので、全くかじらせないのではなく、かじってもよいかじり木を与えます。ハムスターの好みで、好みのかじり木が異なるので、いろいろな製品を与えて下さい。かじり木以外にも、木製の小屋やトンネルなども隠れる以外にかじることができます。ケージ内でかじる物をめ増やしておくことが理想です。ハムスターによっては、特にかじることに執着する性格の個体おり、その原因としては、ストレスが考えられます。運動量をふやしたり、玩具を与えるなどの策もとりましょう。
ケージ内のレイアウトを変える
レイアウトを変えて、天井の金網をかまないようにしたり、大きなケージに変える、または回し車などで運動量を増やしたりなどして下さい。どうしてもケージの金網に執着する時は水槽に変更します。
固い餌を多くする
ハードタイプのペレット、ヒマワリの種子、クルミなどの硬い餌は切歯をよく使って食べるので、過長を予防します。しかし、ペレット以外はカロリーが高いので与えすぎには注意して下さい。