専門獣医師が解説するインコ/オウムの腫瘍〔Ver.2〕〔獣医師向け〕
目次
鳥にも腫瘍ができるんだ?
鳥にも腫瘍が発生しますが、腫瘍の発生状況やその動向などの文献はまだ少なく、治療などの詳細もよく分かっていません。腫瘍は身体あらゆる場所に発生し、もちろん悪性と良性がありますが、その判断は見た目でなく、病理検査で診断します。下記の表は鳥の腫瘍発生統計で、発生場所と数、良性と悪性の割合を示したしたものです。
表:鳥の腫瘍統計
腫瘍 | 数 | 良性 | 悪性 |
皮膚 | 120 | 92 | 28 |
消化管 | 67 | 32 | 35 |
生殖器系 | 64 | 59 | 5 |
肝臓 | 54 | 45 | 9 |
腎臓 | 28 | 17 | 11 |
呼吸器系 | 20 | 20 | 0 |
体腔内 | 17 | 16 | 1 |
膵臓 | 13 | 12 | 1 |
内分泌系 | 13 | 6 | 7 |
尾脂腺 | 8 | 7 | 1 |
筋肉骨格系 | 7 | 7 | 0 |
胸腺 | 5 | 4 | 1 |
結膜 | 5 | 2 | 3 |
中神経系 | 3 | 3 | 0 |
脾臓 | 2 | 1 | 1 |
心臓 | 2 | 2 | 0 |
■Garner MM.Overview of Tumors.Section II: A Retrospective Study of Case Submissions to a Specialty Diagnostic Service In Clinical Avian Medicine.Harrison GJ,Lightfoot T.Spix Publishing Inc.2009
腫瘍に見えるけど腫瘍っぽくないしこり?
鳥に好発する黄色腫や脂肪腫などは腫瘍性増殖をしますが、本来の腫瘍とは別に考えてもよい新生物です。
黄色腫
黄色腫は、黄色をしており脂肪のように見える腫瘤です。翼角と腹部によく見られますが、体全体に発生します、真皮に脂質と貪食細胞、少量のマクロファージが集合しているため、肉芽腫様病変です。黄色腫の原因は不明ですが、ビタミンA欠乏、高脂血症などがあげられています。軽傷あるいは進行度の低い場合は食事療法や高脂血症の治療で治癒します。
セキセイインコの卵巣卵管の病気に由来したヘルニアで腹部の皮膚が黄色腫を示していることが多く見られます。黄色腫は非常に血管が多く、外科的切開などの処置には十分に注意を払わなければなりません。
脂肪腫
脂肪種はセキセイインコで最も頻繁に発生し、通常は竜骨または胸部に発生します〔Latimer 1999,Reece 1997〕。初期の脂肪腫は、食事療法に反応して小さくなります。臨床症状を引き起こすことは稀ですが、生活の質を落とすような大きい増殖を示す場合は外科的に切除をします。悪性脂肪肉腫はオインコやウムではまれです〔Tully 1994〕。
色々な腫瘍の紹介
線維肉腫
線維肉腫は皮下組織下から発生し、結節性増殖を示します。翼角や脚に好発しますが、体のどこにでも発生する可能性があります。
悪性腫瘍であるため局所的に侵襲的に増殖し、外科的切除を行っても再発しやすく、転移率は5〜15%の範囲です〔Lamberski et al.2002〕。
扁平上皮癌
扁平上皮癌は皮膚の悪性腫瘍で、局所的に浸潤する傾向があり、完全切除が難しいです。
血管腫
血管由来の良性腫瘍ですが、血管肉腫よりも一般的に発生し、身体内の各臓器に見られます。血管腫は一般的に赤紫色の平らな硬い病変として現れます。良性ですが、完全な外科的切除が難しいです。
肉腫
肉腫では腫瘍の減容手術、あるいは広範囲の外科的切除または断脚や断翼手術が行われていますが、浸潤と転移率が高いです。
尾腺腺の腫瘍
尻に位置する腺脂腺にも腫瘍が発生しすいですが、尾羽に隠れて発見しにくいです。セキセイインコに好発し、増殖して大きくなって初めて発見されることも珍しくはありません。可能であれば小さい時に外科的に切除します。
乳頭腫、尾脂腺腫/腺癌、羽毛上皮腫、扁平上皮癌などが見られます。 なお、ボウシインコには尾脂腺がありません。
内臓の腫瘍
身体内の腫瘍も一般的に報告されており、卵巣腫瘍や精巣腫瘍、腎臓腫瘍、肝臓腫瘍、脾臓および胃の腫瘍、甲状腺腫瘍、胸腺腫、リンパ腫などが発生します。
肝臓腫瘍/膵臓腫瘍
肝臓ならびに胆管、膵臓腫瘍は大型インコの乳頭腫症との関連も示唆されています。膵臓腫瘍において、乳頭腫症とは関係のない原発性膵臓腫瘍のまれな報告があります〔Rae 1995〕。
腎臓腫瘍
セキセイインコの腫瘍発生は3~6歳ですが、腎臓腫瘍は5歳以内で発生するため、遺伝的素因もあるとも考えられています。腎臓癌および腎芽腫の報告があります〔Neumann 1983〕。
呼吸器系腫瘍
原発性の呼吸器腫瘍はインコやオウムではまれです〔Jones et al.2001〕。
リンパ腫
オウム、特にヨウムの眼球突出に関する多数の報告が球後リンパ腫と診断されています。鑑別診断は、下垂体腺腫またはハーダー腺の腫瘍になります。リンパ腫は他の動物と同じように、多くの症状を示します。リンパ腫とレトロウイルスとの関連性はよく分かっていません。
大型インコの総排泄腔乳頭腫
総排泄腔に発生する乳頭腫はコンゴウインコとボウシインコに好発し、総排泄腔腺腫性ポリープと診断されることもあります。バタンやヨウム、ハシブトインコ、イワインコにも発生します〔Graham 1991, Sundberg et al.1986〕。一般的に良生ですが、悪性化した例もあります〔Sundberg et al.1986〕。乳頭腫は口腔、前胃、後鼻孔などにも発生し、膵臓や胆管での乳頭腫の発生にも関連しています〔Graham 1991, Sundberg et al.1986, Witter 1997〕。総排出腔乳頭腫はヘルペスウイルスが関与していると言われています〔Johne et al.2002, Styles et al.2002〕。
下垂体腺腫
下垂体腺腫は複数の鳥類で報告されていますが、セキセイインコやオカメインコに多発します。急性の神経症状(発作/弓なり緊張)を呈する可能性があります。また下垂体ホルモンに関連する症状として、多飲多尿も見られ、時に球後腫瘤とそれに続く眼球突出も起こり得ます〔Romagnano et al.1995〕。
甲状腺腫
ヨウ素不足による甲状腺の腫大がセキセイインコに好発し、声の変化や呼吸異常を引き起こすことがよくあります。腫大でなく甲状腺腫瘍は一般的ではありませんが、発生の報告はあります。甲状腺腺癌は、いくつかのオウムで報告されています。甲状腺腫瘍は外科的切除が主要な治療になります。
精巣腫瘍
9~10歳の高齢のセキセインコとハトに好発し、精細胞腫とセルトリー細胞腫が発生し、呼吸促拍、脚弱、蝋膜変色などが見られます。
インコオウムの腫瘍発生率
ある鳥の種類別の腫瘍発生報告では、オウム目の鳥、3545症中220例が腫瘍性疾患で、有病率は 6.2%でした。これは他の鳥と比べてわずかに高かい程度でした。
鳥の種類によって、特異的に好発する腫瘍があります。
表 鳥の種類別特発する腫瘍
種類 | 特発する腫瘍 |
ボウシインコ | 扁平上皮癌、総排泄腔乳頭腫、胆道腺癌 |
コンゴウインコ | 総排泄腔腺腫性ポリープ、総排泄腔乳頭腫、胆管腺癌 |
バタン | 軟部組織肉腫、総排泄腔乳頭腫 |
ヨウムとナナクサインコ | 扁平上皮癌 |
オカメイン | 軟部組織肉腫、扁平上皮癌、卵巣/卵管腺癌、線維肉腫、セミノーマ |
ラブバード | 軟部肉腫、線維肉腫、リンパ腫 |
セキセイインコ | 軟部組織肉腫、扁平上皮癌、線維肉腫、腎腺腫瘍、肝臓腫瘍、性腺腫瘍 |
治療はどうするの?
鳥の腫瘍の治療は基本的には外科的切除になりますが、大型種と比べて小型種では手術に限界もあり、麻酔に耐えられないこともあります。しかし化学療法に効果があるリンパ腫でも、薬剤の薬用量やプロトコルも確立していません。放射線療法も同様に、照射技術に多くの問題があり、一部成功した大型種のみの症例が報告されているに過ぎないです。なお卵巣や卵管腫瘍ではホルモン治療も行われています。過去に化学療法や放射線療法について断片的な治療結果や意見が述べられています。
リンパ腫では、孤立性リンパ腫の症例では外科手術と放射線療法が行われています〔Coleman 1995〕。
扁平上皮癌に対して放射線療法はある程度の成功を収めて試みられました。しかし、扁平上皮癌は非常に放射線耐性のある腫瘍であるようで、長期的な制御はまれです。放射線抵抗性は哺乳類よりも鳥の方がさらに大きい可能性があります〔Manucy et al.1998〕。
放射線療法による血管肉腫の治療が1例報告されています〔Freeman 1999〕。
胆管癌も1つの報告でカルボプラチンでうまく治療されています〔Zantop 2000〕。肝臓癌や膵臓癌においてもカルボプラチンはいくつかの症例で使用されており、あいまいな結果が出ていますが、明らかな毒性はありませんでした〔Degernes 1998, Zantop 2000〕。
シスプラチンは、人での胸腺腫および胸腺癌の化学療法プロトコルで使用されていますが、オウムはシスプラチンによって誘発される一般的な副作用に耐性がある可能性があり、この薬剤はこれらの腫瘍物の治療に役立つ可能性があることが示されています。
ドキソルビシン(アドリアマイシン)は人および犬イヌの癌腫の治療において使用され、副作用は骨髄抑制と心臓毒性が含まれます。鳥におけるドキソルビシンの毒性と有効性の両方に関する事例報告は現在決定的ではありません〔Watson et al.2002〕。
タモキシフェンの投与は、鳥の卵巣癌の場合の有効性について評価されていませんが、抗エストロゲン作用が見られが、副作用も最小限でした〔Lupu 2000〕。
GnRHアゴニストであるリュープロライドは卵巣や卵管疾患に臨床的に有効(200~800µg/kg)ですが、腫瘍の診断前に投与されるケースが多く、実際に効果的であるのか詳細な追跡がなされていません〔Lightfoot 2000〕。
参考文献
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