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コクシジウムとトルトラズリル

 2022/06/15 7 診察・治療   940 Views

コクシジウムとは

コクシジウム類は消化管などの細胞内に寄生する原虫です。昆虫をはじめ哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類などの大半の動物に寄生します。家畜の病原体としては鶏コクシジ ウムが腸炎を起こすことで有名で、他にもウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタなどが大きな被害を被っています。ペットでも、イヌやネコはもちろんのこと、ウサギ、フェレット、シマリス、フクロモモンガなどからも検出されています。しかしながら、馬ではコクシジ ウムの寄生がみられないことは不思議です。

アイメリアとイソスポラ

コクシジウムは分類的に晩生胞子虫亜綱(Telesporidia)‐グレガリナ目(Gregarinida)‐アイメリア亜目(Eimeriidea)‐アイメ リア科(Eimeriidae)‐に属します。単にコクシジウムという時には、アイメ リア科のイソスポラ属(Isospora)とアイメリア属(Eimeria)を指します。

ライフサイクル

ライフサイクルには無性生殖ステージのメロゴニー/シゾゴニー、一方で有性生殖のステージのガメトゴニーの2つからなります。感染が成立するとコクシジウムは無性生殖ステージで増殖し、その後に有性生殖ステージで雌雄の生殖体に分化して、それらが受精します。

無性生殖を行ううステージはメロゴニー(Merogony)/シゾゴニー(Schizogony)と呼ばれ、単に細胞数を増やす過程で、増殖した娘細胞をメロゾイト(Merozoite)/シゾント(Schizont)と言います。メロゾイト/シゾントは細胞膜を破っ て再び細胞外に遊出、再 び腸粘膜の細胞内に侵入して同様の無性生殖を繰り返 し、数日で 数 個 から数百個のメロゾイトが作られますが、大部分は有性生殖に移行します。有性生殖ステージはガメトゴニー(Gametogony)と呼ばれ、ガメトゴニーを行う細胞をガメトサイト(Gametocyte)、生じる配偶子がガメート(Gamete)です。コクシジウム類の場合は異型配偶で、大型の方をマクロガメート(Macrogamete:雌性生殖体)、小型の方をミクロガメメート(Microgamete:雄性生殖体)と呼ばれます。宿主の体内の腸粘膜細胞内のメスのマクロガメートとオスのミクロガメーロが 接合して受精が完了し、やがて オーシス(Oocyst:接合子嚢) になり、腸粘膜から脱落して糞中に排泄されます。

排泄された糞中のオーシストは野外で起こる細胞形成過程を経て、感染性を備え成熟オーシストと呼ばれます。このステージをスポロゴニー(Sporogony)と呼ばれます。オーシスト内のスポロゾイト(Sporocyst:胞子)が感染細胞で、体外に出たばかりの オーシストは未成熟で感染力を備えていませんが、適当な水分、酸素、温度の存在下で数日のうちに成熟オーシスト、つまりスポロゾイトが形成されることで感染力を持つようなるのです〔角田 1969〕。

オーシストの内部には、数個のスポロゾイトを含む複数のスポロシスト(Sporocyst:胞子)が含まれています。オーシスト中のスポロシストの数、およびスポロシスト中のスポロゾイトの数はコクシジウムによって様々です。イソスポラはオーシスト内のスポロシストは2つでスポロシスト内のスポロゾイトは4つあります。

 

アイメリアはオーシスト内のスポロシスト4つでスポロシスト内のスポロゾイト2つになります〔猪木 1991〕。

 

コクシジウムの種類

イヌやネコはイソスポラが多く、ウサギはアイメリアです。鳥類はアイメリア属が多いですが、ブンチョウやナリアはイソスポラです。コクシジウムは宿主を厳密に選ぶため、例えば鶏のコクシジウムは鶏 の品種,系 統を問わず一様に感染しますが、近縁種のキジ、ウズラ、七面鳥などには感
染はしません。また1種の動物には大抵数種類の コクシジウムの寄生がみられるのも珍しくはありません。

表:コクシジウムの動物種毎の種類

動物種 コクシジウム
イヌ Isospora canis,I.obioensis
ネコ Isospora felis,I.revolta
ウシ Eimeria zurnii,E.bovis,E.ellipsoidalis,E.auburnensis
ウサギ E.coecicola, E.elongata, E.exigua, E.intestinalis, E.irresidua, E.magna,E.matsubayashii, E.media, E.nagpurensis, E.neoleporis, E.perforans, E.piriformis, E.stiedae
ブタ Eimeria属10種,Isospora属3種
ニワトリ Eimeria tenella,E.necatrix,E.maxima,E.acervulina 
フトアゴヒゲトカゲ Isospora amphiboluri,Choleoeimeria spp.

フトアゴヒゲトカゲのコクシジウムの解説ははコチラ!

症状

コクシジヴムは一部の例外を除いて、消化管の粘膜細胞に寄生 しています。感染後のライフサイクル上で宿主の組織に最も影響を与えるのは、多くの場合無 性生殖ステージです。無症状のこともありますが、発症すると腸炎を起こして、軟便や下痢が見られます。

感染

伝搬は基本的に経口感染で、オーシストが含まれた糞を摂取することです。ただし、糞に排泄されたオーシストは感染能力を備えておらず、種類によって異なりますが、数日で感染能力を備えます(成熟おオーシスト)。感染オーシストは強い環境耐性を持ちます。糞で汚れた床敷やエサ入れなどからも感染します。

療薬

アイメリアもイソスプラの両者間に駆虫薬の相違がある訳ではなく、無症状で検出されでも駆虫剤の投与を行うことを推奨します。例え感染しても、潜伏期のうちに駆虫あるいはその活力を弱めておくことで動物が発病することを防ぎます。これまでコクシジウム類の駆虫剤はサルファ剤が主でしたが、2017年からトルトラズリルがが認可され、駆虫の中心になってきました。

サルファ剤

昔はサルファ剤が 唯一の有効な駆虫薬で、研究ではスルファジメトキシンが最も優れた効力を示 していました〔Mitrovic et al.1967〕。この薬剤にはビタミンB群に含まれる葉酸合成阻害する作用があり、葉酸はDNA複製に必要となる物質です。葉酸合成阻害によりDNA複製ができずに、その結果増殖できなくなります。サルフ ァ剤はシゾントに有効ですが、スポロゾイトやガメートサイトにはやや有効という程度なため〔角田 1969〕、長期服用が必要となります。さらに、サ ルファ剤では予防薬を含めてが多数の種類が乱用されるようになると、耐性株ができます〔Mitrovic et al.1967〕。サルファ剤にさらにトリメトプリムという成分が加わったのがST合剤です。トリメトプリムも葉酸合成阻害を備え、サルファ剤単体よりも効果が大きいとれています。

トルトラズリル

トルトラズリルはトリアジントリオン誘導体に属する化合物で、原虫に対してエネルギー代謝系の選択的阻害により殺滅効果を示します。コクシジウムのシゾゴニーやガメトゴニーといった宿主細胞内寄生ステージ全般に対して、極めて広く作用を及ぼし、オーシスト時期以外のすべてのステージに効果があります。効果のある範囲が広いために投与は基本的に1回でよいというメリットもありますが、下記の表のように再投与が必要な報告例もあります。

表:各動物のトルトラズリルの薬用量

動物種 薬用量 参考文献
ウサギ  10mg/kg PO Hu et al.2010
2.5-5 mg/kg PO Redrobe et al. 2010
2.5-5.0mg/kg PO 5日間隔 2回 EI-Ghoneimy et al.2017
げっ歯類 10-20 mg/kg PO q24h 5日間隔で2-3回 Brown et al. 2012
バンディクー(有袋類) 2.5 mg/kg PO 1回投与 Lynch 2008
オポッサム、フクロモモンガ 25 mg/kg PO q24h 3回(エンロフロキサシン5mg/kg IM SID) Johnson et al.2008
ウオンバット 25 mg/kg PO q24h. Do not use in common wombats. Bryant et al.2008
ハリモグラ(単孔類) 20 mg/kg PO q24h 2日 Middleton  2008
鳥類 5-20 mg/kg q24h Wellehan 2016
鳥類(猛禽類) 10 mg/kg PO q48h 3回 Samour 2000
フトアゴヒゲトカゲ 5-15 mg/kg PO q24h 3回 Kramer 2006
リクガメ 15 mg/kg PO q48h Praschag et al.2010

消毒

感染源 であるオーシストを殺滅すれば本病は根絶することは明らかです。オ ーシス トは15~30μ くらいのものが大部分で、風やほこりとともに遠方にまで運ばれることもあるので、糞の破棄はしっかり行います。またオ ーシストは一般 の消毒剤に対しては極めて抵抗力が強く、クレゾール、ホルマリン、逆性石鹸 などでは死滅しません。クロム硫 酸などの強酸化剤や、苛性ソーダな どの強アルカリの中でも長く生存 でき、有機リン剤などにも全く影響されません。しかし、オーシストは熱に弱いことから、熱湯消毒などが唯一の方法とも言われています。また冷温にも比較的弱く、0℃ 以下 で30日以上保存すると、大部分のオーシ ストは死 滅します。オーシストは、好適な生存条件である8~28℃の水中において、約2年 間は生存できます 。現在、オーシストである程度有効な消毒は、オルソ剤です。1~2%乳剤の中では2~6時問 でオーシストはほとんど死滅します。

参考文献
■Brown C,Donnelly TM.Disease problems of small rodents.In Ferrets,Rabbits,and Rodents:Clinical Medicine and Surgery,3rd ed.Quesenberry KE,Carpenter JW,eds.Elsevier Saunders.St.Louis.MO:354-372.2012
■Bryant B,Reiss A.Wombats.In Medicine of Australian Mammals.Vogelnest L,Woods R eds.Collingwood, Victoria.Australia:Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation (CSIRO):329-358.2008
■EI-Ghoneimy et al .Evaluation of amprolium and toltrazuril efficacy in controlling natural intestinal rabbit coccidiosis.Iran J Vet Res18(3).164-169.2017
■Hu L,Liu C et al.Pharmacokinetics and improved bioavailability of toltrazuril after oral administration to rabbits.J Vet Pharmacol Therap33:503-506.2010
■Johnson R,Hemsley S.Gliders and possums.In Medicine of Australian Mammals.Vogelnest L,Woods R, eds.Collingwood,Victoria.Australia: Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation (CSIRO):395-437.20008
■Kramer M.Bearded dragon medicine.Proc Western Vet Conf.2006
■Lynch M.Bandicoots and bilbies.In Medicine of Australian Mammals.Vogelnest L,Woods R eds. Collingwood,Victoria,Australia:Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation (CSIRO):439-464.2008
■Middleton D.Echidnas.In Medicine of Australian Mammals.Vogelnest L,Woods R eds.Collingwood, Victoria,Australia:Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation (CSIRO):77-102.2008
■Praschag P,Gibbons P et al. An outbreak of intranuclear coccidiosis in Pyxis spp tortoises. Proc 8th Ann Symp Conserv Biol Freshwater Turtles:42-43.2010
■Mitrovic M,Bauernfeind JC.Sulfadimethoxine therapy of avian coccidiosis Poultry Science 46.p 402-411 A.1967
■Redrobe SP,Gakos G,et al.Comparison of toltrazuril and sulphadimethoxine in the treatment of intestinal coccidiosis in pet rabbits.Vet Rec167(8):287-290.2010
■Samour J.Pharmaceutics commonly used in avian medicine. In Samour J ed.Avian Medicine.Mosby.St.Louis.MO:388-418.2000
■Wellehan JFX. Coccidiosis. In: Speer BL, ed. Current Therapy in Avian Medicine and Surgery.Elsevier.St.Louis MO:73-78.2016
■猪木正三監修.原生動物図鑑.講談社.東京.1981
■角田清.コクシジウム症とその治療.科学と生物7巻.532‐538.1969

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