鳥の尾脂腺とは?

尾の油の分泌腺
尾脂腺は尾羽の付け根にある分泌腺です(尾端骨の浮腫筋に位置)。形と大きさは鳥の種類で大きく変化しています。名前の通りに脂を分泌するとされ、毛づくろいによって羽に腺の脂を塗って、羽を良い状態に保っています。英語ではプリーン腺(Preen gland)またはオイル腺(Oil gland)とも呼ばれています。鳥は通常、クチバシと頭を腺の開口部にこすりつけ、次に体と翼の羽、そして足と脚の皮膚に脂をこすりつけることによって、羽毛を整える間に脂を塗布します。セキセイインコなどの一部の種は、足を使って開口部周りの羽にも油を塗ることもあります。
構造
構造は二葉の皮脂腺で基本的に2つの開口部があり、開口部は乳頭状に突出し羽毛がついています〔Salibian et al.2009〕。鳥が分泌腺の羽毛を口にすると、分泌される仕組みになっています〔Evans 1982〕。鳥の種類によって形状は異なり、最大18個の開口部があるものもいます〔King 1984〕。
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季節変化、生息地、体重、性別などでも尾脂腺の大きさが変化する報告がありますが、一貫していません。なお多くの種類ではオスとメスの相対的な腺の大きさに有意差が見られます〔Salibian et al.2009〕。
ある種類と無い種類
鳥のほとんどの種類に存在しており、水生種では比較的大きいです。しかし理由は分かっていませんが、尾脂腺が無い種類もいます。ダチョウ、エミュー、レア、ヒクイドリ、キウイ、ノガン、ガマグチヨタカ、多くのハト、多くのキツツキ、スミレコンゴウインコ、コスミレコンゴウインコ、アオコンゴウインコ、ボウシインコなどのオウムも尾腺を持っていません〔Salibian et al.2009.Montalti et al.2000,Moyer et al.2009〕。これらの鳥は通常、羽の維持のために粉を生成したり、砂浴びをするなど、羽毛を清潔で乾燥した状態を保つための他の手段をとります。尾脂腺は卵の中では存在していますが、無い種類は発生の過程で痕跡器官になります。
役割
尾脂腺の役割は、羽毛の維持、防水、ビタミンD前駆体など、いくつかの機能を実行します。
羽毛の維持
脂性の分泌物は羽を綺麗に保ち、羽毛の柔軟性を維持したり、羽毛の小枝(羽枝)が折れるのを防ぎます〔Vincze et al.2013〕。羽毛だけでなく、角質のクチバシや脚のうろこ状の皮膚の維持にも役立っていると考えられています。
防水
尾脂腺はアヒル、ミズナギドリ、ペリカンなどの多くの水鳥で発達しています〔Vincze et al.2013,Montalti et al.2000〕。脂性の分泌物によって、水をはじくのに役立つバリアを形成します。
ビタミンD
一部の種類では、尾脂腺wにビタミンDの前駆体が含まれていると推測されています。日光の紫外線部分にさらされると、分泌物は活性型のビタミンD3に変換されます〔Coore et al.1994〕。
求愛
尾脂腺の分泌物は求愛ならびに個体識別に関与しているかは、よく分かっていません。分泌物の粘度の変化が求愛に必要な、鮮やかな羽毛に関連している可能性があります。昼行性の鳥では、角膜と水晶体は光学的に透明で、約350 nmまでの波長を透過するため、近紫外線が見えます〔King 1984〕。紫外線が見れる鳥は脂が塗られた羽毛の見え方に影響を及ぼしている可能性があります。
殺菌
ヤツガシラの尾脂腺には共生細菌が生息しており、その排泄物は羽毛を分解する細菌の活動を低下させ、羽毛の保護に役立ちます〔Martin-Vivaldi et al.2009〕。
駆虫
カワラバトの尾脂腺の分泌物がシラミに対して効果的であることが示唆されていますが、飼育下の鳥で研究された結果では駆虫効果はなかったそうです〔Moyer et al.2009〕。
美容
オオフラミンゴの尾腺の分泌物には、フラミンゴにピンク色を与える有機色素であるカロテノイドが含まれています。繁殖期には、フラミンゴが増えると尾腺分泌物が羽に広がる頻度が高まり、それによって色が増します〔Amat et al.2011〕。
尾脂腺の病気
腺の大きさと形状は種によって異なりますので、病気との鑑別に悩むことがあります。ヨウムの尾脂腺は隆起したハート型で、正常に見えません。
ビタミンA欠乏による過貯留
ビタミンA欠乏症により腺の化生と角質増殖を引き起こす可能性があります〔Bauck et al.1997〕。腺の開口部が腫大したり、分泌物の過剰の貯留や角質増殖性のプラグ形成などが見られます。対応は、エサのビタミンAを補充したり(ペレットや緑黄野菜)、湿った綿棒などで腺を優しくマッサージまたは排泄させます。
腫瘍
尾脂腺の腫瘍は、セキセイインコに好発します。腺腫、腺癌、扁平上皮癌、乳頭腫などが報告されています〔Cooper 1994,Bauck et al.1997〕。腫瘍は様々な外観を示し、片側性または両側性であり、表面的に潰瘍化する可能性があります。基本的に外科的に手術をするしかありません。
炎症
単なる炎症は少なく、ビタミンA欠乏症、Psittacine Beak and Feather Disease(PBFD)などによる免疫抑制疾患、または外傷に続発する可能性があります。
■Bauck L,Orosz S, Dorrestein GM.Avian dermatology.In Avian medicine and surgery.Altman RB,Clubb SL,Dorrestein GM,Quesenberry K eds.WB Saunders CO. Philadelphia.540-541.728-729.19997
■Cooper JE,Harrison GJ.Dermatology.In Avian Medicine: principles and application.Ritchie BW, Harrison GJ,Harrison LR eds.Wingers Publishing Inc.Lake Worth.FL.613-614.1994
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