飛ぶための骨って・・・専門獣医師が解説する鳥の骨格
骨は飛翔適応
一般的に骨壁は薄く、中空を形成していますが、中空は多数の支柱が交差し、気圧に対する強度を保持する構造(トラス構造)が見られる〔Smith 2011,Wedel 2003〕。この構造は大型で滑空する鳥ほど多い傾向にあり、また中空に気嚢と連絡している含気骨もある。ペンギンやダチョウなど飛翔しない鳥は骨密度が高い。また、卵殻形成時に必要な大量のカル シウムを骨髄に貯蔵する役目も担っている。この飛翔のための中空構造に加え、かつ非常に軽量であり、骨を全てあわせても全体重の5%程度となっている。鳥の骨は繊維質を帯びており、外力に対してハガネのようにしなる性質がある。そのために、骨折の場合、骨折端がささくれによって、離断しない傾向にある。そして、手根骨や尾端骨などにおいて複数の骨が融合していることが多く、哺乳類に比べて鳥類は骨の総数が少ない。これは飛翔に特化したことと、やはり軽量化に有利となる。脊柱は脊椎から成り、頸椎、脊椎が融合して骨盤とも癒合した複合仙骨、尾骨の3つの部位に分けられる。
頸椎
鳥類の頸椎数は哺乳類よりも多く、多くの種類で13~25個の多くの骨から構成されるため、首の柔軟性が高まる。特にハトやニワトリ類などは首を振って歩いていますが、眼球運動が十分にできず、視軸が横を向いている鳥ために流れる背景の追従眼球運動の代わりをしている。つまりブレを調整しており、首の可動性は、飛行、着陸、離陸などの素早い動きの際の安定性を高める作用もあある〔Troje 2000, Frost 1978〕。
胸椎
鳥種によって数も形状も異なり、部分的に棘突起や横突起を含む椎骨が癒合して骨板状に結合し、癒合胸椎とも呼ばれている。一般的に胸椎数は6~12 個とも記載されているが、鳥種だけでなく、同じ種内でも変異が著しく大きい。脊椎自体の数や区分けも、実際には癒合しているので、数えることが難しい。
肋骨
肋骨は胸椎と胸骨とともに強固な胸郭を形成しており、呼吸のために軽度に拡張すること もできる〔鮫島ら 1984〕肋骨の脊椎と胸骨との間に蝶番があり、肋間筋の収縮を可能にし、鳥特有の呼吸様式である鞴呼吸を可能とする。また、鳥類のそれぞれの肋骨には鉤状突起がある。これらは鉤状に伸びた突起が、後ろの肋骨と重なることで胸郭のを支えて強化し〔Nakatsukasa 2004,Kardong 1988〕、呼吸の動きにも関与する〔Welty 1979〕。鉤状突起はカモ目のサケビドリ科などを除く、多くの鳥種に存在するが〔Fowler et al.2001〕、突起の形状は鳥種によって異なり、飛翔しない鳥では小さく、潜水種では長い〔Tickle et al.2007, Tickle et al.2009〕。
腰帯
腰椎は個々の椎骨として存在せず、数個の胸椎と全腰椎、全仙椎、数個の尾椎が癒合して複合仙骨を形成する。さらに寛骨が両側から加わって癒合したものを腰仙骨と呼ぶこともあり、寛骨は腸骨、恥骨、坐骨が 一体化している。恥骨は座骨と平行に後方に向かってお り、ダチョウを除き,左右の恥骨が結合せずに離れているのが特徴である〔Campbell et al.1985〕。鳥類においては左右の恥骨間距離が産卵のため、メスでオスより大きいことが知られており、恥骨間距離による雌雄鑑別が、特にオ ウムで行われています〔Stromberg 1977〕。尾椎の先端にはいくつか の尾椎が癒合した尾端骨が存在し、尾羽を支えて、可動するにも役立っている。
肩帯
発達した翼は前肢が変形したもので、上腕 と前腕(橈骨・尺骨)からなるが、鳥では尺骨は大きいことが特徴である。手根骨と中手骨は手と手首に相当する部位を形成しており、指骨は第1指、第2指、第3指の3指で、他の指は消失している。
鎖骨は左右が中央で癒合してアーチ型を呈し(癒合鎖骨)、強力なバネのように翼の羽ばたきに合わせ、翼が振り下ろされると広がり、翼が上に戻ると元の形に戻る〔Marshall 1960〕。 鎖骨は胸郭とつながっているため、その動きに応じて胸郭も拡大・縮小する。つまり、鎖骨の動きのために飛翔時に使う筋肉も呼吸に関与する。なお、 セ キセイインコ、コザクラインコ、ボタンインコの鎖骨は退化している〔Gill 2007〕。烏口骨と呼ばれる前肢帯の構成骨は翼の支柱となり、肩甲骨と胸骨をつないでいる〔Gill 2007〕。 胸骨は大きく、癒合して胸骨板を形成しており、胸骨の中央には、縦に竜骨突起と呼ば れる突起が存在し、中央に張り出して、胸骨には飛翔の動力として使用される胸筋(大胸筋・小胸筋)が左右に付いている〔Marshall 1960〕。なお、ダチョウ、レア類、キーウイなどの飛べない鳥は、飛ぶ鳥と比べて竜骨突起は発達していないため平胸類とも呼ばれている。一般的に胸筋は体重の約35%を占め、鳥の栄養状態は胸筋の厚さで評価される〔Gill 2007〕。胸骨は烏口骨や肋骨と関節を形成し、鞴呼吸の支柱的な役割を担う。
脚・趾
脚は大腿骨と脛腓骨からなり、膝の下のすねが跗蹠骨(足根中足骨)、つまさきが趾(あしゆび)である。鳥類の脚の骨は最も重いため、重心が低くなり、飛行に役立ち、また全体重を支えて二足歩行も可能にする。
参考文献
■Campbell B,Lack E.A Dictionary of Birds.T & A D Poyser Ltd.Calton.1985
■Fowler ME,Cubas ZS.Biology,medicine,and surgery of South American wild animals. Hoboken,NJ: Wiley-Blackwell.2001
■Gill FB.Ornithology 3rd ed.W.H.Freeman and Company.New York.2007
■Marshall AJ.Biology and Comparative Physiology of Birds: Volume I.Academic Press.Victoria.Australia:p245–251.1960
■Troje N,Frost B.Head-Bobbing in pigeons:How stable is the hold phase (PDF).The Journal of Experimental Biology203(Pt5):935–940.2000
■Frost BJ.The optokinetic basis of head-bobbing in the pigeon.Journal of Experimental Biology74:187-195.1978
■Kardong KV.Vertebrates:Comparative Anatomy,Function, Evolution.McGraw-Hill. New York.1988
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■Smith ND.Body mass and foraging ecology predict evolutionary patterns of skeletal pneumaticity in the diverse waterbird clade. Evolution66(4):1059–1078.2011
■Tickle PG,Codd JR.Ontogenetic development of the uncinate processes in the domestic turkey. (Meleagris gallopavo).Poultry Sci88:179–184.2009
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■Welty JC.The Life of Birds 2nd edtn.Saunders.Philadelphia.1979
■鮫島正道,大塚閏一.鳥類の胸椎数とNotarium の存否について.鳥33(1):p29-38.1984