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ドクのあるトカゲ?専門獣医師が解説するドクトカゲ

4 フトアゴヒゲトカゲのQ&A この記事は約 6 分で読めます。 60 Views

ドクトカゲ属

多くのトカゲは無毒ですが、一部に有毒種がいます。実際に毒をもつのは2種のドクトカゲ属で、メキシコ北部に棲息するメキシコドクトカゲとテキサス南部に棲息するアメリカドクトカゲがいます。ドクトカゲは動きが比較的遅く、毒液はヘビの毒液と異なり、かむことでゆっくりと相手に注入されるため、それほど危険ではありません。毒腺は毒ヘビのように上顎に位置するのではなく、下顎の端にあり、変形した唾液腺で毒液を産生します。毒腺は3〜4葉に分かれ、下顎歯の根元まで導管が配列し、毛細管力によって歯溝に入り、排出されます〔Beck 2005〕。ドクトカゲは自分の身を守る時には、頭を左右にすばやく動かし、相手に向かっていきますが、通常は獰猛性はありません。しかし、一度かみついたら、しばらく外敵を放さない性格をしており、強くかみ続けることで毒液を浸透させます。かみついたドクトカゲを引き剥がすのは容易ではなく、トカゲを完全に水に沈めたり、ナイフや棒で顎をこじ開けたり、トカゲを物理的に引き抜こうと直接引っ張ることでの鋭い歯による重度の裂傷のリスクも高まります。ドクトカゲのピンクや橙色の地色に暗褐色の横帯が入る模様は、捕食者に対して有毒を示す警告色かもしれません。これらの毒液は狩猟用ではなく、おもに防御用に進化したと考えられています〔Beck 1990〕。ドクトカゲの毒液はマムシと類似した神経毒で、咬傷を受けると、かみ傷周辺の疼痛や腫脹などが見られます。脱力、発汗、口渇、頭痛、耳鳴りが生じることもありますが、血圧が下がるなどの重症にいたることは稀です。以前に記録された死亡例は、アルコールに酩酊した人、または咬傷の治療を誤った場合に発生したのみで〔Strimple et al.1997〕、通常はかまれても死に至ることはありません〔Hammerson et al.2007〕。アメリカドクトカゲの唾液に含まれる毒液は、ヘロデルミン、ヘロスペクチン、エキセンディン-3、エキセンディン-4などの生理活性ペプチドです〔Ballance et al.2003〕。エキセンディン-4はグルカゴン様ペプチド-1アゴニストとして知られ、2型糖尿病の治療薬であるGLP-1受容体作動薬(エキセナチド)として、2005年にアメリカ食品医薬品局に承認されました〔Bond, 2006,Chen et al.2006〕。

コモドドラゴン

トカゲ最大種であるインドネシア棲息のコモドオオトカゲ(コモドドラゴン)については、従来、かまれると歯に大量に付着している腐敗菌の感染で敗血症を引き起こし、やがて弱って死ぬ獲物を食べると考えられてきました。コモドオオトカゲは全長2〜3m、体重も約70kgまで発育し、外貌は恐竜のようです。主にイノシシやシカ、野生化したスイギュウ、ヤギなどの大型哺乳類を補食します。性格は大人しいのですが、人の成人を捕食する事故もあります。しかし、近年、獲物の血液の凝固を阻害し、失血によるショック状態を引き起こすヘモトキシン毒を持っていることが報告されました〔Fray  et al.2009〕。毒液は、ノコギリ状の歯でかみ付いて引っ張るような動作により、歯間にある複数の毒管から流し込まれます。これは、毒液の注入に特化した一方で、牙としての強度や殺傷力が弱まってしまった毒ヘビなどと異なり、歯自体の強度と殺傷能力を保ったまま毒の注入を可能とする構造を備えています。しかし、実際にコモドオオトカゲの持っている歯の腐敗菌による脅威は他の捕食者と比べても変わらないことが示され、そして、毒腺の詳細な解剖も完全に解明されておらず、毒液自身の獲物に対する殺傷能力も疑問視されています〔Vidal et al.2012〕。

法的飼育不可

現在、ドクトカゲとコモドオオトカゲは、ハナブトオオトカゲとともに、日本では動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)の規定に基づき、人の生命や身体に害を加える恐れがある特定動物の指定を受け、2019年の法改正により、愛玩目的での飼育は禁止となりました。愛玩目的以外で特定動物の飼養または保管を行おうとする動物園などは、あらかじめ都道府県知事または政令指定都市の長の許可を受けなければなりません。

参考文献
■Ballance A,Morris Rod.South Sea Islands:A natural history.Hove:Firefly Books Ltd.2003
■Beck DD.Biology of Gila monsters and beaded lizards.Vol. 9.University of California Press.2005
■Beck DD.Ecology and Behavior of the Gila Monster in Southwestern Utah.Journal of Herpetology24(1):54–68.1990
■Bond A.Exenatide (Byetta) as a novel treatment option for type 2 diabetes mellitus.Baylor University Medical Center Proceedings19(3):281–284.2006
■ChenTHK,Kwok C,Ivanyi CS.Isolation and cloning of exendin precursor cDNAs from single samples of venom from the Mexican beaded lizard (Heloderma horridum) and the Gila monster (Heloderma suspectum).Toxicon47–3(3):288–295.2006
■Fray BG et al.A central role for venom in predation by Varanus komodoensis(Komodo Dragon) and the extinct giant Varanus (Megalania) priscus,PNAS106 (22) 8969-8974.2009
■Hammerson GA,Frost DR,Gadsden H.Heloderma suspectum. IUCN Red List of Threatened Species.2007
■Strimple PD,Tomassoni AJ,Otten EJ,Bahner D.Report on envenomation by a Gila monster (Heloderma suspectum) with a discussion of venom apparatus, clinical findings, and treatment. Wilderness & Environmental Medicine8(2):111–116.1997
■Vidal N,Marin J,Sassi J,Battistuzzi FU,Donnellan S,Fitch AJ et al.Molecular evidence for an Asian origin of monitor lizards followed by Tertiary dispersals to Africa and Australasia.Biology Letters8(5):853–855.2012

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