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お腹で水を飲む?専門獣医師が解説するカエルのペルビックパッチ

 2021/12/15 1 カエルの生態・特徴 この記事は約 5 分で読めます。 6,704 Views

カエルはお腹で水を飲む

両生類の浸透圧調節は、皮膚、泌尿器およびリンパ系が関与しており、他の脊椎動物と比較して、皮膚が浸透圧調節において積極的な役割を果たしているのが特殊です。両生類は口から水を飲まずに、水分は薄い皮膚から容易に吸収されます。カエルの多くの半水生および陸生種は、体内への水の拡散を促進するために、後肢腹側~体後部腹側の皮膚領域に血管分布が増加した特殊な、ペルビックパッチ(Pelvic patch)あるいはドリンクパッチ(Drink patch)と呼ばれる領域を備え、水分を積極的に吸収し、ナトリウムと塩化物のバランスを担っています。

カエルは水中から乾燥した陸上に生活の場を移して進化をし、経口的な水分摂取を行わずに腹部の皮膚からのみ水分を吸収します。つまり喉が渇いて水を飲むという行動が発現 していない状態で、陸上の乾燥環境に適応した結果です〔Jørgensen 1997〕。陸上で生活するために、カエルの皮膚は水分の蒸発を防ぐために粘液も分泌し、共に水分の摂取を行わなければならない機能も備えるようになったのです〔Hoff et al.1993〕。

脱水していると数倍の水を飲む

腹部の皮膚での水分摂取は、樹上で生活 している非繁殖期には通常30μL/cm2/100分ほどですが、カエルを数日間水分を摂取できない乾燥環境下にお くと、水分摂取能は5-7倍に上昇します〔上島1998〕。この水分摂取は、交感神経作動剤 (アドレナリンβ受容体刺激)や下垂体神経葉ホルモン(両生類の抗利尿ホルモンであるアルギニンバソトシン)の分泌によって活性化されています〔Kamishima et al.1995,Nakashima et al.1990〕。人は水維持は主として腎臓の集合管細胞に水チャネルであるアクアポリン(Aquaporin; AQP)と呼ばれる膜タンパク質が担っていますが、カエルでAQPが下腹部の皮膚(ペルビックパッチ)、膀胱と腎臓に存在し、カエルは膀胱に蓄えた尿から水分を再吸収するという機構も持ち〔Tanaka et al.2005〕、皮膚では分泌腺である粘液腺と顆粒腺に特異的に発現するAQPが関与して水分吸収を行います〔Hillyard et al.2011〕。カエルは哺乳類と異なり腎臓の腎髄質対向流系が欠如しているので,腎臓での尿の濃縮ができない特徴のために、このような水分吸収作用を備えたと思われます〔Bentley 2002〕。ペルビックパッチの領域や機能はカエルの種類いわゆる棲息環境によっても異なります。皮膚の水透過性やAVTに対する応答の違いは、それぞれのカエル皮膚に発現するAQPに由来します〔佐藤ら 2013〕。

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参考文献
■Bentley PJ.Endocrines and Osmoregulation.A Comparative Account in Vertebrates.In: The Amphibia,edited by Bentley P.Springer,New York:155-186.2002
■Hoff KVS,Hillyard SD.Angiotensin II Stimulates Cutaneous Drinking in the Toad Bufo punctatus.Physiol.Zool66:89-98.1993
■Jørgensen CB.200years of amphibian water economy:from Robert Townson to the present.Biol.Rev72:153-237.1997
■Hillyard SD,Willumsen NJ .Chemosensory function of amphibian skin: integrating epithelial transport,capillary blood flow and behaviour.Acta Physiol202:533-54.2011
■KamishimaY,MoriT.Dual water absorption systems in ventral skin of Japanese treefrog (Hyla japonica). proc4.internat.Congr of Comp.Physiol.Biochem.1995
■Nakashima H,KamishinaY.Regulation of water per meability of the skin of the treefrog,Hyla arborea japonica.Zoo.Sci7:371-376.1990
■Tanaka S,Hasegawa T,Tanii H,Suzuki M.Immunocytochemical and phylogenetic distribution of aquaporins in the frog ventral skin and urinary bladder. Ann N Y
Acad Sci 1040:483-485.2005
■上島孝.両生類の経度的水分摂取機構と陸上適応.岡山実験動物研究会.8-10.1999
■佐藤恵,酒井秀嗣.無尾両生類の水調節機構.日本大学歯学部紀要41.97-101.2013

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