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専門獣医師が解説するレボリューションによるエキゾチックアニマルの治療〔獣医師向け〕

 2021/12/05 7 診察・治療   12,422 Views

セラメクチン製剤

セラメクチンは節足動物および線虫のグルタミン酸受容体の塩素イオンチャネルに結合し、細胞内への塩素イオンの透過性を亢進することにより神経活動を抑制し、動物の駆虫薬として使用されています。セラメクチン製剤は動物の体に滴下投与するスポットオン製剤で、外部寄生虫を駆除できます。滴下した薬剤が体内に吸収して作用する仕組みで、主に犬猫用に商品化されています。このセラメクチンのスポットオン製剤は、犬猫はもちろんエキゾチックアニマルと呼ばれる小型哺乳動物、鳥類、爬虫類にも適応外使用され(オフラベルユース)、高い評価を受けています。Fisherら(2007)は、フェレット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ラット、マウス、ジャービル、ハリネズミ、鳥類に適応外使用することを推奨しています。従来の注射であるイベルメクチンとスポットオン製剤であるセラメクチンを比較した研究もあります。モルモットセンコウヒゼンダニ症のモルモット17頭に対して、セラメクチンを15mg/㎏で滴下投与し、一方でイベルメクチンを0.4㎎/㎏の皮下投与を行ない、治療効果に有意な差は認められなかったと言います。Eshar ら(2012)は使いやすさの観点からセラメクチンのスポットオン製剤を推奨しています。

フェレット

ノミ

フェレットに寄生するノミは、ネコノミ(Ctenocephalides felis)で、症状は猫や犬で見られるものと類似しています〔Wall et al.2001, Moorman-Roest 2005〕。フェレットでは4ヵ月間の期間、6または18 mg / kg体重のセラメクチンの滴下投与で治療され、3日後ではノミが確認されましたが、どちらの用量も、治療後7〜21日間は100%駆虫できました〔Moorman-Roest 2005〕。体重に関係なく、フェレットあたり15mgのセラメクチンを毎月投与することで、フェレットのノミの蔓延をうまく制御できました。

耳ダニ

フェレットの耳ダニは、ミミヒゼンダニ(Otodectes cynotis)です。症状は、外耳炎が起こり、頭を振る、耳を掻くなどで、重篤になると、二次的な細菌感染を生じ、耳の血腫および斜頸に発展することもあります〔Wall et al.2001,Moorman-Roest 2005〕。フェレットの耳道は解剖的特徴のために狭く、従来の耳道の洗浄等の治療では限られた効果しかありません。 15mg/頭のセラメクチンの単回投与が有効と報告されています〔Moorman-Roest 2005,  Beck 2003,Kramer et al.2002〕。

犬糸状虫

犬糸状虫であるDirofilaria immitisは、イヌやネコ、フェレットなどの哺乳類に感染する線虫です。媒介となる蚊が血液を摂取するときに感染性の幼虫を新しい宿主に移すことで伝伝搬します。主に肺動脈に寄生する成体によって、心不全ならびに肺高血圧症を起こします〔Ferasin 2004〕。症状は、呼吸困難や発咳などで、倦怠感や食欲不振、浮腫、腹水症、肺うっ血が見られることがあります。未治療の場合、死に至る可能性があります〔Fox 1998,Göbel 2001〕。 フェレットの心臓は小さいために、わずか5匹のフィラリアの成虫がフェレットにとって致命的となる可能性があります〔Bowman 1995〕。予防は感染していない個体に行うべきであり、心臓に向かって移動し始める前の第3および第4段階の幼虫(ミクロフィラリア)を排除する手段をとります。感染した個体に駆虫薬を投与すると、肺血栓塞栓症を引き起こす可能性があります〔Ferasin 2004〕。臨床実験では、フェレットに犬糸状虫の幼虫を接種した10頭のフェレットを4ヵ月の期間セラメクチンを滴下投与しました(6または18mg/kg)。セラメクチンは、6mg/kgの用量でフィラリア感染の予防に99.5%有効で、18mg/kgの用量で100%有効でした〔Kramer et al.2002〕。

ウサギ

ノミ

飼育下のウサギは、ネコノミ(Ctenocephalides felis)、野生のウサギと接触するとウサギノミ(Spilopsyllus cuniculi) 〔Jacobs et al.2001,Hughes 2004〕、およびヒトノミ(Pulex irritans)、ニワトリフトノミ(Echidnophaga gallinacean)またはヨーロッパネズミノミ(Nosopsyllus fsciatus)が寄生する可能性があります〔Wall et al.2001〕。ただし、寄生しても無症状であるか、ノミの咬傷に対する過敏反応として、わずかな掻痒性丘疹性皮膚炎を引き起こします〔Timm 1988〕。セラメクチンにょる治療は、18mg/kgの用量で単回の滴下投与で、必要に応じて30日後に繰り返し治療することが推奨されています〔Van Praag 2003〕。

耳ダニ

ウサギキュウセンヒゼンダニ(Psoroptes cuniculi)はウサギに、外耳炎を起こします。症状はは、耳道の炎症ならびに滲出液、痂皮形成、耳介の搔痒などで、重篤になると耳道の擦過、頭の振り、二次感染を起こして内耳炎・中耳炎を起こすこともあります〔Wall et al. 2001,Beck 2000,Göbel 2001,Campbell 1990〕。さらに、ダニは宿主の体にまで蔓延し、頭や顔、頸部、腹部、尿生殖領域まで掻痒性の痂皮性皮膚炎を引き起こします〔Wall et al. 2001,  Hughes 2004〕。セラメクチンによる治療は、滴下投与を18mg / kg体重の用量で、28日間隔で1回または2回を行い、投与後7日目からダニは検出されませんでした〔Kelleher 2001,McTier et al. 2003〕。他にも投与量は15mg〔Beck 2001〕、15または30mg〔Beck 2003〕などど報告されています。

ツメダニ

ツメダニはウサギに多くみられ、片利共生であると考えられています。Cheyletiella parasitovoraxはウサギに関連する種ですが、Cheyletiella属のダニは宿主特異的とは見なされません〔Chailleux et al.2002〕。ツメダニは、よく「歩くフケ」と比喩され、大量の寄生が見られると、皮膚の鱗屑の中でダニの動きが目視されることもあり〔Urquart et al.1996〕、発症すると頸背部の脱毛が特徴です〔Beck 2003,Hoh et al.2005〕。直接感染で伝搬し、人獣共通感染症でもあります〔Urquart et al.1996〕。人には感染したペットとの密接な接触で感染し、一般的に前腕に丘疹性の掻痒性発疹が見られます〔Wall et al.2001,Hughes 2004,Beck 2005〕。 セラメクチンによる治療は15または30mg/kgの用量で滴下投与〔11〕、体重2.3kg未満では15mg/kg、体重2.3 kg以上で45mg/kgで、1ヵ月後に再投与します。しかし、パスツレラによる細菌感染と併発した5ヵ月齢では2回の投与を、6mg/kgの用量で治療され、症状の減少は治療後1週間以内に観察され、1ヵ月後には大幅に改善されました。しかし、2回目の投与22日後に原因不明で突然死しました〔Hoh et al. 2005〕。

被毛ダニ

被毛ダニと呼ばれるウサギズツキダニ(Leporacarus gibbus)はウサギは高率で蔓延し片利共生と考えられているため健常体からも検出されます〔Kirwan et al. 1998〕。しかし、重度の感染症や根本的な病気があると、脱毛、湿性皮膚炎、軽度の搔痒が発生する可能性があります。セラメクチンによる治療は、体重2.3kg未満では15mg、体重2.3kg以上では45mgの用量で滴下投与されます〔Hughes 2004〕。

モルモット

シラミ

モルモットに寄生するシラミは、カビアハジラミ(Gliricola porcelli)とカビアマルハジラミ(Gyropus ovalis)ですが〔Wall et al.2001〕、まれに Trimenopon hispidum〔Beck 2003〕、およびTrimenopon jenningsi〔White et al.2003〕も検出されます。通常は無症状ですが、重度の寄生では、掻痒、鱗屑および脱毛、紅斑が見られ〔Timm 1988,Beck 2004〕、特に耳の周りの丘疹が見られます〔White et al.2003〕。重篤になると食欲不振、さらにはてんかん様発作を引き起こします〔Beck 2003〕。セラメクチンによる治療は体重800g未満では15mg、体重800g以上では30mgの用量を滴下して駆虫します〔Beck 2004〕。

疥癬

モルモットセンコウヒゼンダニ(Trixacarus caviae)によって、激しい掻痒を引き起こし、慢性的な寄生では紅斑、丘疹および角質増殖、脱毛、苔癬化の病変が見られます〔Beck 2004,White et al.2003,Thoday et al.1977〕。重篤になるとケイレン様の発作を起こし〔Beck 2004,Beck 2005〕、食欲不振で死亡する可能性があります〔Wall et al.2001〕。一部の動物は無症状で経過することもあります〔Wall et al.2001,White et al.2003〕。セラメクチンよる治療は、体重800 g未満では15mg、体重800g以上では30mgの用量で滴下投与します〔Beck 2004〕。

被毛ダニ

モルモットによく見られる被毛ダニはモルモットズツキダニ(Chirodiscoides caviae)です。通常は無症状ですが、重度の寄生は搔痒、紅斑性皮膚炎、および自咬および潰瘍性皮膚炎が見られますルーミング活動の増加を伴うスケーリングにつながる可能性があります。 モルモットセンコウヒゼンダニ〔Wall et al.2001〕またはシラミ〔White et al.2003〕と併発することもあります。セラメクチンよる治療は2週間の間隔で12mg/kgの用量で2回滴下投与をします。600gの個体で30mgの単回投与で治療され、症状は投与後1週間以内に改善し、 掻痒は数日以内に止まり、副作用は見られなかった報告もあります〔Beck 2002〕。セラメクチンよる治療は、体重800 g未満では15mg、体重800g以上では30mgの用量で滴下投与します〔Beck 2004〕。

ハムスターとスナネズミ

イエダニ

イエダニ(Ornithonyssus bacoti)は世界的に分布しており〔Wall et al.2001〕、人獣共通感染症でもあります〔Beck 2005,Beck 2002, Beck 2004b〕。寄生しても無症状ですが〔Fox et al.2004〕、重度の寄生になると掻痒、興奮、および異常な身づくろい行動を示し、重篤になると貧血も引き起こします〔Beck 2002b〕。セラメクチンよる治療は15mgピペットからの1滴の滴下投与を行います。治療7日後にはダニは検出されなくなり、副作用は見られませんでした〔Beck 2002b〕。

ニキビダニ

ハムスターとスナネズミ〔Wall et al.2001〕の種特異的な毛包虫による寄生は一般的です。寄生しても通常は無症状ですが、免疫低下によって脱毛見られます。 セラメクチンによる治療は、ハムスターでは、6〜18mg/kgの用量で、ピペットから毎週1滴を滴下投与します〔Beck 2004, Beck 2003〕。

ラットとマウス

シラミ

吸血性のシラミであるハツカネズミジラミ(Polyplax serrata)はラットとマウスの両方に寄生しますが、イエネズミジラミ(Polyplax spinulosa)はラットにのみ寄生します〔Wall et al.2001〕。 症状は、掻痒と自咬症による脱毛で〔Wall et al.2001〕、重度の寄生になると貧血を起こします〔Bowman1995〕。セラメクチンによる治療は15mgのピペットから1滴の滴下投与をします〔Beck 2004, Beck 2003〕。

ダニ

ネズミケクイダニ(Myocoptes musculinus)、ハツカネズミケモチダニ(Myobia musculi)、およびハツカネズミラドフォードケモチダニ(Radfordia affinis)は、マウスの一般的な被毛ダニで〔Timm 1988〕、イエネズミラドフォードケモチダニ(Radfordia ensifera)はラットに寄生します〔Wall et al.2001〕。これらのダニは寄生しても、通常は通症状ですが、免疫低下により、鱗屑、搔痒、自咬、および脱毛を引き起こします。イエダニ(Ornithonyssus bacoti)もラットとマウスに寄生します〔Pizzi et al.2004〕。セラメクチンによる治療は、ネズミケクイダニとハツカネズミケモチダニの寄生したマウスでは、30日間隔で2回、12または24 mg/kgの用量で滴下投与をします。最初の治療から30日後、有効性は12 mg / kg群で98.8%、24 mg / kg群で89.9%でした。 両ダニの治療で、40日目までに100%効果的でした〔Beck 2003〕。

ハリネズミ

ノミ

ハリネズミノミ(Archaeopsylla erinaceid)、ニワトリノミ(Ceratophyllus gallinae)、およびネコノミ(Ctenocephalides felis)の寄生報告あります〔Visser et al. 2001〕。重篤な寄生は、搔痒意外にも、衰弱や貧血が見られます。セラメクチンによる治療は、30mgの単回の滴下投与が行われます 〔Beck 2003〕。

ダニ

ハリネズミニキビダニ(Demodex erinaceid)はハリネズミでは稀です。ハリネズミニキビダニとTrichophyton属の真菌の複合感染の報告があり、症状は重度の頭部の脱毛でした〔Beck 2003b〕。症例は45mgの用量の抗真菌剤およびセラメクチンで治療された。 治療の7日後、ハリネズミの状態は大幅に改善し、ダニは観察されませんでした。 治療の4週間後、動物は完全に回復しました。

線虫

肺虫であるCapillaria aerophilaCrenosoma striatum、および腸寄生のCapillaria spp.に対して、6または15 mg / kgの用量でセラメクチンの滴下投与で駆虫ができなかった報告があります〔Schmäschke et al.2004〕。

シラミ

羽毛をかじるハジラミは野鳥によく見られ〔Beck 2002c〕、家禽の重要な外部寄生虫であり、多くの種類が知られています〔Wall et al.2001〕。ハジラミ宿主によって食べられるという絶え間ない危険にさらされているので、激増することはありません。家禽に見られる種類は、ハバビロナガハジラミ(Cuclotogaster hetergraphus)、ニワトリオオハジラミ(Menacanthus stramineus)、ニワトリナガハジラミ(Lipeurus caponis)、カクアゴジラミ(Goniodes dissimilis)、Goniodes gigas、およびニワトリハジラミ(Goniocotes gallinae)です。ハジラミはライフサイクル全体に、羽毛や皮膚のフケを食べてることに費やしています〔Wall et al.2001〕。ノスリのハジラミのセラメクチンによる治療では15mgの単回の滴下投与で、3日以内に全ての寄生虫が消失した報告があります〔Beck 2002c〕。

まとめ

エキゾチックペットの外部寄生虫の治療に駆虫薬の多くは通常、複数回の投与を伴うこと、また保定しての注射や強制的な経口投与など動物に侵襲を与えます。駆虫薬のためにスポットオン製剤としてセラメクチンの使用は、 最小限のストレスで治療できます。しかしながら、小型種が多いエキゾチックアニマルでは必要な用量に応じて、治療にはピペットの内容をマイクロピペットなどを使用して計測して投与しなければならないという面倒があります。過剰投与をした場合の安全性は明確ではないのも現状です。スポットオン製剤による滴下投与は、全身吸収後における薬物の薬物動態プロファイルおよび有効性は、皮膚の透過性に依存します。セラメクチンの吸収における種間変動が認識されていることは僅かで、ネコのセラメクチンの最大濃度はイヌよりもはるかに高く、これはおそらく犬よりも猫の方が浸透率が高いためです。 ラットの比較データは、最大濃度に到達するのがネコよりも遅いが、イヌよりも速いことを示しています〔Anonymus. EMEA Stronghold™ scientific discussion. 2002〕。 他の大半の哺乳類と鳥類のデータは分かっていません。

セラメクチンはこれまでの文献においても比較的安全性が高く、イベルメクチン感受性のコリーを含むイヌやネコの忍容性は良好です〔Bishop et al.2000〕。毒性試験においてもマウス・ラット、ウサギにおいても、多くは毒性は示されず、一部で軽微な刺激性しか見られませんでした。しかし、臨床例では、投与 22日後のウサギで死亡した例が1例が報告されているが〔Hoh et al. 2005〕、この症例は治療と死亡の間の時間間隔を考えると、治療が死因である可能性が高いとは考えていません。

エキゾチックペットの広範囲の外部寄生虫は、セラメクチンによる治療で上手く駆虫されています。 外部寄生虫の駆虫だけでなく、一部の内部寄生虫にも有効という証拠も増えてきました。複数の外部寄生虫に対して、そして小型哺乳類や鳥類の適応外使用(オフラベルユース)においても安全で非常に効果的であると思われます〔Fsher et al.2007〕。

参考文献
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