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カエルツボカビ症~カエルの新興感染症

 2021/12/19 3 カエルの病気 この記事は約 12 分で読めます。 1,773 Views

両生類がやばい

地球上に生息する両生類において、100種以上が1980年以降に絶滅したと推測され、現存する約6000種の32%の種類が絶滅の恐れがあるといわれています〔Stuart et al.2004〕。減少や絶滅を引き起こしている要因として、過度の採集や生息環境の悪化等が指摘されていますが、その一方で、カエルツボカビ症ラナウイルス感染症などの新興感染症が注目され、世界レベルで監視が必要とされています。北米では、2006年 野生個体の死因鑑定で 110 例の両生類で、43%がラナウイルス、16%がカエルツボカビで、国際獣疫事務局(OIE Office International des Epizooties )では発生を報告を義務付ける感染症に指定し、2008年に注意を呼びかけています。なお、どちらも人に感染することはありません。

カエルツボカビとは?

カエルツボカビ症の原因は真菌類ツボカビ門ツボカビ科のカエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis)で、1999年に分類された微生物です〔Longcore et al. 1999〕。その後 2013 年に記載された イモリツボカビ(B.salamandrivorans)とともに両生類にツボカビ症を引き起こす真菌とされています 〔Martel et al. 2013〕。

カエルツボカビ症は皮膚の角質の肥厚を特徴とした皮膚感染症を引き起こします。パナマとオ−ストラリアの熱帯雨林に生息するカエルで初めて発見され、北米、中南米、ヨ−ロッパの野生および飼育下個体でも確認され 、 200 種以上の両生類が減少または絶滅させたパンデミックな感染症です〔Berger et al. 1998〕。イモリツボカビ症は北西部ヨーロッパのファイアーサラマンダの個体群を減少させ、カエルツボカビ症の主症状である皮膚角化亢進に対して、多巣性潰瘍性病変が特徴です。

水中に生息している

ツボカビは水中に棲息している真菌で、球形あるいは長球形で、筒状の放出管 を有しています(遊走子嚢)。遊走子嚢は両生類の角質層に埋没するように形成され、放出管は体表面に開口しており、フジツボのような形状に見えます。球形の細胞が成熟すると、多数の遊泳細胞(遊走子)が形成されて、放出管から水中に放出します。運動性の鞭毛を使って水中を遊泳して新しい場所に泳ぎつき、鞭毛を捨てて次第にに膨らみ、遊走子嚢の姿に戻ります。カエルツボカビの発育の至適温度は 17~25℃で、23℃が最も適しています。28℃で発育が止まり、32℃では 96時間、37℃では 4 時間で死滅します。

カエルでの感染は水を介した水平感染で、水中を遊走する遊走子が両生類の皮膚に到達し、皮膚に到達した遊走子は、タンパク質である角質(ケラチン)を栄養源として利用され、遊走子嚢を形成します。遊走子嚢は皮膚の表層の角質層 (ケラチン層) に感染することで角質層が肥厚します〔Berger 1998〕。オタマジャクシでは口の周囲(口器)にのみケラチンが存在し、変態と共にケラチンの分布が体全体に増えて、それに伴いカエルツボカビも増えて症状が発現します。

症状は?

感染する種類によって症状は一様ではありません。元々の宿主と考えられているアフリカツメガエルは無症状で、アメリカウシガエルでは抵抗性があるといわれています。カエルツボカビが皮膚に寄生して繁殖すると、表皮が肥厚して発疹が見られ、腹部や四肢の紅斑、後肢の腫脹などが起こり、脱皮頻度が亢進します。両生類の皮膚は水透過性があり、皮膚で水分代謝や電解質の調節を行っていますので〔Deyrup 1964〕、感染が起こることで電解質の輸送を阻害し、体内のナトリウムとカリウムの血中濃度が低下します〔Voyles et al.2009〕。一般状態も食欲不振や沈鬱などの非特異的な症状で、重篤になると筋協調不能や神経症状などが見られますが、全てのカエルで同じ症状や進行ではありません〔宇根2007〕。つまり感染初期での症状だけでは判断することは非常に困難です。なお,オタマジャクシではケラチンが分布する口器にのみカエルツボカビが感染して、症状は明確でなく、キャリアーになります。発病するカエルの種類では致死率が高いことから、恐れられています。

全世界で蔓延した理由は?

カエルツボカビが世界へ拡散した機序としてアフリカツノガエルとウシガエルがあげられます。不顕性感染をするアフリカツメガエルを起源とする説が有名で、様々な実験動物として世界的に広く流通したことが原因と言われています〔Weldon et al.2004, Weldon et al.2007〕。食用のカエルとして世界各地で養殖されているウシガエルも高率で保菌していますが、不顕性感染であるため拡散に関わったと言われています〔Mazzoni et al. 2003〕 。また、オオヒキガエルは、カエルツボカビに不顕性感染していることが多く〔Berger et al.1998, Berger et al.1999〕、害虫防除のために世界中に人為的に拡散されたことも影響しているでしょう〔Daszak et al. 1999〕。

日本でのカエルツボカビ症

カエルツボカビは北中南米、アフリカ、オーストラリアやニュージーランド、ヨーロッパに分布しており、これまで確認されていないのはアジア地域のみとされてきましたが、2006年に日本で初めて、飼育下の外来個体でカエルでツボカビ症が確認され〔Une et al.2008〕、その後の検査により、日本各地で発見され、飼育下の両生類広く拡散しているものと考えられました〔宇根2007〕。そして、日本に生息する在来両生類でもカエルツボカビが、4.1% (87/2103頭) で不顕性感染している報告がなされましたが〔Goka et al. 2009〕、現在まで日本ならびにアジアの野生の両生類ではカエルツボカビ症による死亡例は報告されていないのにも関わらず、海外ではカエルツボカビ症による野生の両生類の大量死が報告されています。これは海外で発生しているカエルツボカビの遺伝子型と日本在来種の遺伝子型は異なるからだそうです。また、カエルツボカビの起源はアジアであり〔O’Hanlon et al.2018〕、特に朝鮮半島はカエルツボカビの遺伝的多様性が他の地域に比べて高く、日本でも同様なことが起きて古くからツボカビとカエルが共存してきたと考えられています。

診断と検査

ツボカビ症の診断は,皮膚の病理組織検査やPCR検査が行われます。簡易的に皮膚の掻爬検査で、遊走子嚢や遊走子を確認する方法があります。

治療あるの?

決定的な治療法は確立されていません。ホルマリン、マラカイトグリーンを用いた除菌の報告がありますが〔Parker et al.2002〕、これらの薬物は毒性が強く、催奇形性を有する問題が指摘されているます〔Sundarrajan et al. 2001〕。カエルツボカビ菌は高温ではあまり活動しないため〔Berger et al.2004〕、感染したカエルを高温に晒せば菌を殺せるとも言われていますが〔Woodhams et al.2003〕、この方法は高温飼育に適さないカエルへの適応は難しいです。カエルのケージは消毒でしっかりと掃除をすることも必要です。

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最後に

ウシガエル、オオヒキガエル、アフリカツメガエルの3種類は、カエルツボカビは世界的拡散の主要なキャリアとして考えられていますが、2005年に特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律 (外来生物法 ) によって、ウシガエルとオオヒキガエルの輸入や国内移動および取引は制限されました。国内で流通しているアフリカツメガエル は、国内の繁殖施設で生産された個体に制限されました。したがって、これらキャリアとして考えられている3種の両生類の輸入は、今後は極めて少ない状態と考えられています。その一方で、世界各地からペットとして輸入される外来の両生類は種類も流通量とも急増しているため、今後取り扱いには注意をしないといけません。

参考文献

■Berger L,Speare R,Daszak P,Green DE, Andrew AC,Goggin L,Slocombe R,Mark RA,Hyatt AD,Keith RM,Hines HB,Lips KR, Marantelli G.Parkes H.Chytridiomycosis causes amphibian mortality associated with population declines in the rainforests of Australia and Central America.Proc Natl Acad Sci95:9031–9036.1998
■Berger L,Speare R et al. Effect of season and temperature on mortality in amphibians due to chytridiomycosis.Australian Veterinary Journal82:31-36.2004
■Daszak P,Berger L,Cunningham AA,Hyatt AD,Green DE,Speare R.Emerging infectious diseases and amphibian population declines.Emerg Infect Dis5:735-748.1999
■Deyrup JJ.Water balance and the kidney.In Physiology of the Amphibia.Moore JA ed.p251-328.Academic Press.New York.1964
■Goka K,Yokoyama J,Une Y,Kuroki T,Suzuki K,Nakahara M,Kobayashi A,Inaba S,Mizutani T,Hyatt AD.Amphibian chytridiomycosis in Japan:distribution,haplotypes,and possible route of entry into Japan.Mol Ecol18:4757-4774.2009
■Longcore JE,Pessier AP,Nichols DK.Batrachochytrium dendrobatidis gen et sp nov, a chytrid pathogenic to amphibians. Mycologia91:219-227.1999
■Martel A,Spitzen-van der Sluijs A,Blooi M,Bert W,Ducatelle R,Fisher MC,Pasmans F.Batrachochytrium salamandrivorans sp. nov. causes lethal chytridiomycosis in amphibians. Proc Natl Acad Sci110:15325-15329.2013
■Mazzoni R,Cunningham AA,Daszak P,Apolo A,Perdomo E,Speranza G.Emerging pathogen of wild amphibians in frogs (Rana catesbeiana) farmed for international trade.Emerg Infect Dis9:995–998.2003
■O’Hanlon SJ,Rieux A,Farrer RA,Rosa GM,Waldman B,Bataille A et al.Recent Asian origin of chytrid fungi causing global amphibian declines.Science360:621–627.2018
■Parker JM,Mikaelian I,Hahn N,Diggs HE.Clinical diagnosis and treatment of epidermal chytridiomycosis in African clawed frogs (Xenopus tropicalis).Comp Med52:265–268.2002
■Retallick RW,McCallum RH et al. Endemic Infection of the Amphibian Chytrid Fungus in a Frog Community Post-Decline.PLoS Biology2(11):e351.2004
■Stuart SN et al.Status and trends of amphibian declines and extinctions worldwide.Scinece3;306(5702):1783-1786.2004
■Sundarrajan M,Prabhudesai S,Krishnamurthy SC,Rao KV.Effect of metanil yellow and malachite green on DNA synthesis in N-nitrosodiethylamine induced preneoplastic rat livers. Indian J Exp Biol. 39:845-52.2001
■Une Y,Kadekaru S,Tamukai K,Goka K,Kuroki T.First report of spontaneous chytridiomycosis in frogs in Asia. Dis Aquat Org82:157-160.2008
■Voyles J,Young S,Berger L,Campbell C,Voyles WF,Dinudom A,Cook D,Webb R,Alford RA,Skerratt LF,Speare R.Pathogenesis of chytridiomycosis,a cause of catastrophic amphibian declines.Science 326 (5952):582-585.2009
■Weldon C,du Preez LH,Hyatt AD,Muller R, Spears R.Origin of the amphibian chytrid fungus.Emerg Infect Dis10: 2100-2105.2004
■Weldon C,De Villiers AL,Du Preez LH.Quantification of the trade in Xenopus laevis from South Africa, with implications for biodiversity conservation.Afr J Herpetol56:77-83.2007
■Woodhams DC,Alford RA et al.Emerging disease of amphibians cured by elevated body temperature.Diseases of aquatic organisms55:65-67.2003
■有美宇根.獣医師のためのツボカビ症 (Chytridiomycosis) .日本獣医師会雑誌60(4) p244-247.2007

 

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