専門獣医師が解説するウサギの尿結石〔Ver.2〕石できたら手術!?

なぜ石ができるの?
ウサギにできる尿結石は基本的にカルシウムの結石です。詳しくい言うとシュウ酸カルシウムが最も多く、他にも炭酸カルシウムなどの石も見られます。色々な成分が混ざった石ができることもありますので、とても複雑です。カルシウムの結石は基本的に薬で溶かすことができないため、外科的に摘出するしかないのです。尿結石の発生要因は以下の3つが問題となっています
- 尿のカルシウム
- 飲水不足
- 運動不足
尿のカルシウム
ウサギの尿は特徴的です。健康でも尿色は赤色~薄黄色などの多彩な色をしており、さらにカルシウムの結晶を大量に含むために白濁しています。尿がザラザラしているのは、このカルシウムの結晶や砂のためです。
尿のカルシウムの結晶がトイレにこびりつき、尿石と呼ばれています。こびりつくと掃除はとても大変になるので、ウサギの飼い主の悩みの種の一つです。
尿にカルシウムの結晶が含まれている理由は、ウサギでは体内のカルシウムの排泄の約47%が尿からで、他の動物と比べて多いのです(他の哺乳類の尿中排泄は2%以下です)〔Brewer et al.1994,Buss et al.1984〕。したがって、健康のウサギの尿からもカルシウムの結晶が見られ、これをカルシウム尿と呼ばれています。
下のウサギのX線写真を見て下さい。膀胱に尿が貯まっていますが、カルシウム尿のために骨と同じように白くうつっています。
ウサギの体内でのカルシウム代謝も特徴的です。エサに含まれたカルシウムが多いと、血液中のカルシウムの量も増えます〔Chapin et al.1967〕。したがって、血液検査でのカルシウムの値が他の哺乳類と比べて30~50%ほど高いです〔Buss et al.1984〕。カルシウムが高くなる詳しい理由は分かっていませんが、様々な見解がなされています。しかし、この現象は子ウサギでは起こらず、大人のウサギだけです〔Gilsanz et al.1991〕。
尿のカルシウムの結晶や砂は膀胱内で堆積すると泥状になり〔Itatani et al.1979〕、この堆積したものをスラッジ(Sludge)と呼ばれます。スラッジは膀胱などの尿路の組織に刺激を与えて炎症を起こし、そして、このスラッジが固まると尿結石の核になります
カルシウムの砂やスラッジは膀胱などの尿路の組織に刺激を与えて炎症を起こし、膀胱炎を起こします。そして、このスラッジが固まると尿結石の核になります。
「ウサギではカルシウムが少ないエサを与えるとよいのでは?」という考えが出てきます。しかし、カルシウムが少ないエサを与えると、骨が弱くなったり、低カルシウムによる痙攣がおきたという実験動物のデータが出ています〔Chapin et al.1967a,Bourdeau et al.1986〕
飲水不足
「ウサギは水を与えると下痢をしやすいため、水を飲ませてはいけない」と言れていましたが、実際の飲水量は他の動物と比べると多く、1日の水を飲む量は、50~100mL/kg〔Brewer et al.1994〕や120mL/kg〔Cheeke 1994〕と報告されています。水を飲む量が減ると尿量が減るだけでなく、尿が濃くなり、つまりスラッジができやすくなります。
運動不足
運動をしないと、膀胱内のカルシウムの結晶や砂が膀胱の底に貯まりやすくなりますので、スラッジができやすくなります。特に肥満のウサギは動かないで、長い時間同じ姿勢でいます。そのためにスラッジや尿結石ができやすいのです。
・尿結石の原因になるのはカルシウムのスラッジ
・水飲まないと濃いスラッジになる
・運動不足は膀胱内でスラッジが貯まりやすくなる
どこにできる?
カルシウムの砂やスラッジが結石の核をつくり、核の周りにさらにカルシウムの砂やスラッジがくっついて、ミルフィーユのように層を作りながら結石ができてきます。
膀胱結石以外にも、結石が発生する部位によって、腎臓結石、尿管結石、尿道結石がみられます。尿結石は小さいと無症状ですが、尿検査では血液反応が見られたり、わずかな血尿が観察されるくらいです。いずれの尿結石も大きくなると痛みを生じ、結石ができている場所によっては尿が出なくなることがあります。具体的には水を飲んでいるのにもか関わらず尿がいつもより少ない、トイレに座っている時間が長い、あるいは全く尿が出ていない等の様子が見られたら、尿結石が疑われます。尿結石がつまると、激痛が起こります。尿結石は痛みの王様といわれる位の激しい痛みを伴います。
膀胱結石
膀胱結石は膀胱内のカルシムの砂やスラッジが核になり、次第に固まってつくられます(下記のX線写真を見て下さい)。
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硬い結石になる前にX線検査で発見した場合は、点滴や水を飲ませて溶かすことが可能です。このようなケースは健康診断で偶然に見つかることが多いです。膀胱内で小さい結石は常に転がっているので、結石は球状になります。
膀胱結石が大きくなると、排尿回数が増えて、血尿が顕著に見られます。最も怖いのが膀胱の出口に結石がつまることです。尿がでなくなり、ウサギはりきんで排尿しようとします。この時点で結石が発見されることも珍しくはありません。尿が出ないでいると、尿毒症といって、尿中の毒素が体中に回って腎不全になり、取り返しのつかないことになります。
結石が大きくなっても、運よく結石がつまらずに、数ヵ月にわたり、無症状のこともあります。しかし、結石により膀胱が炎症をおこして、多くが慢性的な膀胱炎になっています。
尿道結石
膀胱結石が尿道に移動して、発見されることもあります。尿道に石がつまると、多くが尿がでなくなるので、ウサギはりきんで、かなりの痛みを感じます。運よく、つまった結石の脇から尿が排尿されることもあります。メスは尿道が狭くて太いので、ウサギがりきんで石が出ることもありえますが、オスはペニスがあり尿道が狭くて長いので、石が出る可能性は低いです。
腎臓結石
腎臓には腎盂(じんう)と呼ばれる尿が集まる部屋があり、ここにも膀胱と同じようにカルシウムの結晶や砂が貯まります。
下のウサギのレントゲン写真を見て下さい。楕円形の腎臓の中心部に白くうつっているのがカルシウムの成分です。
腎盂にカルシウムの砂が集積してくると、部屋が狭いので、尿結石ができやすくなります。
腎臓結石が大きくなると痛みが見られ、同時に炎症も起こしで腎炎になります(腎不全)。下のレントゲンの左右の1対の腎臓に見える楕円形の白いものが腎臓結石です。
小さい結石であれば、点滴や水を飲ませて尿量を増やすことで、腎臓から結石を流出します。
尿管結石
腎臓から膀胱へ連絡する尿管に、腎臓結石が排泄された結石が発見されます。運悪く結石が膀胱に移動せずに、尿管につまったままでいることがあります。そうなると腎臓で作られた尿が膀胱に貯まらずに、行き場がなくなった尿が腎臓に貯まり、次第に腎臓が拡張します。この状態を水腎症といいます。
尿が尿管結石を押し出して膀胱に移動すると、一時的には痛みはおさまります。
・オシッコの量が少ない!トイレの時間が長い!結石が怪しい・・・
・結石が硬くなる前に発見できたら排泄するかも
・尿毒症になると最悪、死ぬかも
予防と対策は?
尿結石の発生要因に対して予防策をとれば良いのです。
- 餌のカルシウムを減らす
- 水を飲ませる
- カルシウムの少ない水にする
- 運動させる
餌のカルシウムを減らす
尿のカルシウムを減らすには、カルシウムの低いエサを多く与えます。牧草にはマメ科(アルファルファなど)とイネ科(チモシーなど)がありますが、カルシウムが少ないイネ科の牧草を与えて下さい。
ペレットもチモシーが主原料となっているペレットを与えましょう。しかし、カルシウムを制限したエサのみでも、完全に結石を予防することは難しいです。与える野菜もカルシウムが少ない種類にし、可能であれば水分も摂らせるために葉野菜にした方が良いでしょう。
表:野菜のカルシムの量(mg/可食部100g)
種類 | カルシウム |
パセリ | 290 |
モロヘイヤ | 260 |
大根の葉 | 260 |
ケール | 220 |
水菜 | 210 |
ヨモギ | 180 |
小松菜 | 170 |
春菊 | 120 |
クレソン | 110 |
チンゲンサイ | 100 |
人参の葉 | 92 |
タイサイ | 79 |
明日葉 | 65 |
リーフレタス | 58 |
サラダ菜 | 56 |
カイワレ大根 | 54 |
ホウレンソウ | 49 |
白菜 | 43 |
セロリ | 39 |
ブロッコリー | 38 |
サヤエンドウ | 35 |
スナップエンドウ | 32 |
人参 | 28 |
キュウリ | 28 |
レタス | 19 |
一概に尿結石を作らせない野菜のカルシウムの量の基準は決まっていません。100mg以上の野菜は避けるべきです。Dr.ツルはレタス、キュウリ、ニンジンなどはカルシウムが少なく、水分が多いのでお勧めしています。
カルシウムは悪いものではなく、むしろ健康を維持するためには必要不可欠な成分です。ウサギが正常な成長を保つためのペレットのカルシウムの最低値は0.22%、骨の石灰化のためには0.44%が必要とも言われています。現在の多くのペレットには0.9~1.6%である商品が多く、尿路結石を予防することを考えて、成体には0.6~1.0%のカルシウムが含まれているペレットが理想とされています〔Chapin et al. 1967,Buss et al.1984,Lowe 1988〕。尿結石を予防するために、カルシウムは0.22~0.44%まで下げても問題ないと思われますが、これらのデータは古いので、断言ができません。反対に0.6~1.0%のカルシウムが必要量とも言われています〔Norris et al.2001〕。下記のペレットはカルシウムが少ないということで取り上げてみました。
恵 メンテナンス・シニア(カルシウム0.3~0.5%)
ウサギの尿結石で最も多いのが、シュウ酸カルシウム結石です。シュウ酸を含む野菜も注意するべきと多くの書物に書かれていますが、シュウ酸はカルシウムと結合して糞から排泄するという考えもあり、適量が必要であるとも論議されています。ウサギの餌のカルシウムとシュウ酸については、まだ分かっていないことが多いので、これからの研究に期待しましょう。
水を飲ませる
毎日しっかりと十分な水を飲めば、尿も多くなり、カルシウムの砂も体から排泄されて、スラッジを作らないはずです。しかし、無理に沢山の水を飲ませて下痢をしないように注意して下さい。
給水器を変えただけで、水が飲みやすくなることもありますので、もう一度見直すのもよいでしょう。
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カルシウムの少ない水にする
ミネラルウオーターなどはカルシウムが多く含まれている可能性が高いので、できれば避けて下さい。飲み水のカルシウムをはじめとするミネラルを除去する給水器で、カルシウムを除去してくれるカートリッジが付いています。
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飲み水のミネラルを除去してくれるスティックもあります。健康に良い水素水を作るものですが、水道水のカルキを除去し、過分なミネラル分を除去してくれます。水にスティックを入れてカルシウムが少ないお水を与えましょう。
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水をあまり飲まないウサギには、水分か多い野菜を与えましょう。レタスやキュウリなどかおすすめです。これらの野菜はビタミン等が少ないのですが、尿量を増やす目的で、多くを与えるぶんには問題ありません。
運動をさせる
運動をさせることで、膀胱内のカルシウムの砂やスラッジの堆積を予防します。カルシウムの砂やスラッジは膀胱の底に沈殿しやすく、運動をすると膀胱内の砂が尿の中で舞って排泄されます。かえって白濁した尿が出ている方が安心かもしれません。肥満のウサギは積極的に動かないので、尿結石ができやすいと言えます。
おまけ
人では結石を溶かしたり、結石を出す作用があるといわれているウラジロガシと金銭草をドライリーフのおやつにした商品です。与えているペレットや牧草に混ぜて与えて下さい。
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・野菜はレタス、キュウリ、ニンジン
・低カルシウムペレットを選ぶ
・肥満を解消するために運動をさせる
・サプリメントもあり
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参考文献
■Bourdeau JE,Shwer-Dymerski DA,Stern PA,Langman CB.Calcium and phosphorous metabolism in chronically vitamin D-deficient laboratory rabbits.Mineral and Electrolyte Metabolism12.176-185.1986
■Brewer NR,Cruise LJ.Physiology.The Biology of the Laboratory Rabbit, Manning PJ, Ringler DH,Newcomer CE,eds.2nd ed.63-70.Academic Press.1994
■Buss SL,Bourdeau JE.Calcium balanace in laboratory rabbits.Mineral and Electrolyte Metabolism10(2).127-132.1984
■Chapin RE.Smith SE.Calcium requirement of growing rabbits.Journal of Animal Science26.67-71.1967
■Cheeke PR.Nutrition and nutritional disease.In Mannig PJ,Ringer DH,Newcomer CE,eds.The Biology of the Laboratory Rabbit,2nd ed.Academic Press.San Diego.CA. 321-333.1994
■Gilsanz V,Roe TF,Antunes J,Carlson M,Duarte MLand Goodman WG.Effect of dietary calcium on bone density in growing rabbits.American Journal of Physiology- Endocrinology and Metabolism 260.E471-E476.1991
■Itatani H,Itoh H,Yoshioka T,Namiki M,Koide T,Okuyama A,Sonoda T.Renal metabolic changes relating to calculogenesis in an experimental model of calcium containing renal stone formation in rabbits.Invest Urol19(2).119-122.1981
■Lowe JA.Pet rabbit feeding and nutrition.In The Nutrition of the Rabbit.de Blas C,Wiseman J.eds.CAB International.Wallingford.UK,CAB International.New York.p309-331.1998
■Norris SA,Pettifor JM,Gray DA,Buffenstein R.Calcium metabolism and bone mass in female rabbits during skeletal maturation:effects of dietary calcium intake.Bone29:62–69.2001