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専門獣医師が解説するウサギの呼吸器感染症~肺炎になるとヤバイ!

 2022/05/19 3 ウサギの病気 この記事は約 7 分で読めます。 4,635 Views

呼吸器感染症って?

呼吸器感染症とは文字通りに呼吸器の感染症であり、呼吸器とは鼻、喉頭、気管や気管支、肺から構成されます。つまり、空気の通り道に関連した臓器に生じる感染症を指します。ウサギに呼吸器感染症は一般的な疾患で、どの年齢でも発症し、重症度も軽症から重症まで様々ですので、病気の原因や重症度に合わせて治療を行なわれます。

原因は?

呼吸器感染症は主に細菌感染によるもの多く、他にも腫瘍や誤嚥が原因になります。細菌はPasteurella multocida(パスツレラ感染症)〔Marlier et al.2000〕,Bordetella bronchiseptica(ボルデテラ感染症)〔Deeb et al.1990,Marlier et al.2000〕,Escherichia coli〔Marlier et al.2000〕,Pseudomonas aeruginosa〔Marlier et al.2000〕などが分離されます。ボルデテラの感染はパスツレラ感染症と併発することが多く、B.bronchisepticaは顕著な病状を示しませんが、パスツレラ菌の増殖や発病に大きく関与します〔Glavits et al.1990,Glorioso et al.1982,Corbeil et al.1983〕。マイコプラズマやクラミジアおよび粘液種ウイルス感染〔Marlier et al.2000〕などの報告もありますが、一般的ではありません。肺炎の非感染性原因は、換気の悪い環境やアンモニアがこもることで、肺炎を増悪させます。ウサギの尿のアンモニアは特に刺激性があり、換気の悪い場所では大きな問題になります。ウサギの原発性肺腫瘍は稀ですが、胸腺腫あるいはリンパ腫の可能性があります。より一般的なのは子宮腺癌や乳腺癌の肺転移がおこります。また、時に心不全での肺水腫が肺炎と同じく呼吸困難を起こします。老体のウサギでは心不全は珍しくないので、鑑別することは重要です。

ウサギのパスツレラの詳しい解説はコチラ!

どんな症状?

鼻と喉頭の上部気道感染症は、鼻水や鼻詰まり、くしゃみなどの症状が見られ、これをスナッフルと呼ばれます。

身体の奥に位置する気管支や肺に発生する気管支炎や肺炎は下部気道感染と呼ばれ、ウサギは咳が見られずに呼吸の異常が起こり、沈鬱や不活発になり、腹式呼吸ならびに頻呼吸が見られ、胸腹部を地面に付けた姿勢を示します。

気管支炎や肺炎では上部気道炎も併発し、鼻汁やくしゃみも起こることがありますので、スナッフルの症状も併発して見られることがあります。特に肺炎では、病気の初期兆候を示さず、明確な症状が示された場合は、すでにかなり進行していることも珍しくありません。肺炎が進行して、呼吸困難以外に、食欲不振、痩削や体重減少が見られて、初めて異常に気付くことも珍しくはありません。特に免疫力が低下した老体や他の疾患を患っていると、症状が重篤化し、呼吸困難が起こります。ウサギは胸腔が小さく、呼吸器系は犬や猫ほどの換気予備力がないため、肺炎が進行した呼吸困難が起こると、一気に一般状態が悪化します〔Johnson-Delaney et al.2011〕。酸素欠乏が起こることで、チアノーゼが起こり、皮膚や粘膜の蒼白も起こります。なお、ウサギの開口呼吸は特に予後不良の兆候で、死に近づいている可能性があります〔Harcourt-Brown 2002〕。

なお、パスツレラ菌は血行性に広がる可能性があるため、呼吸器疾患のウサギはその後、肺炎以外にも、全身に蔓延することもあります。

検査はどうするの?

鼻と喉頭の上部気道感染症はスナッフルの解説を見て下さい。上気道と下気道(肺炎)の鑑別は難しく、聴診を行っても、神経質または老体のウサギは呼吸数が増加し、鼻息も発して、正常な呼吸音を不明瞭にする可能性があります。ウサギは鼻呼吸を主にする動物なため、胸腔は狭くて肺活量も少ないため、下部気道感染症の肺炎では、呼吸困難が起こると、診察や検査でストレスを加えるだけで悪化したり、危険な状態になる可能性があります。特に肺の状態が分かるレントゲン検査では、ウサギを抑えこんで撮影するため、無理な撮影をすることで症状を悪化させますので、状態を確認してから行います。

また、鼻汁が見られるウサギでは、その鼻汁からの微生物検査などで、原因菌を調べることができます。近年は遺伝子(PCR)検査で原因菌を検出することもできうようになりました。肺炎のウサギの血液検査では、炎症があっても異常が見られない場合があります。しかし、近年は炎症を示す血清アミロイドA蛋白(SAA:Serum amyloid A protein )の測定がウサギでも行われ、急性性期蛋白として指標になります。胸腺腫やリンパ腫、心不全の診断には超音波検査が必要になります。

治療

重症度や原因によって治療方法が異なります。まず初めに、感染した病原体に効果が期待できる抗生物質の使用が検討されますが、いずれも長期の投与が必要になります。換気を増やし、衛生管理に努めることも重要です。滅菌生理食塩水と抗生物質による噴霧(ネブライザー)療法を行うことも可能です。呼吸困難の場合は、ウサギに酸素吸入で安定させる必要があります。重篤化した肺炎は、多くは予後不良です。

ネブライザー療法の詳しい解説はコチラ〔獣医師向け〕!

予防

パスツレラ感染症のページの予防を参照して下さい。

 

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参考文献

■Corbeil et al.Immunity to pasteurellosis in compromised rabbits. American Journal of Veterinary Research 44.845-850.1983
■Glavits et al.The pathology of experimental respiratory infection with Pasteurella multocida and Bordetella bronchiseptica in rabbits. Acta Vet Hung 38(3):211-215.1990
■Glorioso et al.Adhesion of type A Pasteurella multocida to rabbit pharyngeal cells and its possible role in rabbit respiratory tract infections.Infect Immun35:1103-1109.1982
■Harcourt-Brown F.Textbook of Rabbit Medicine.Reed Educational and Professional Publishing.Oxford.2002
■Johnson-Delaney C, Orosz SE. Rabbit respiratory system: clinical anatomy, physiology and disease.Veterinary Clinics of North America:Exotic Animal Practice14:257–266.2011
■Marlier D,Mainil J,Linde A,Vindevogel H.Infectious agents associated with rabbit pneumonia:isolation of amyxomatous myxoma virus strains.Vet J159(2):171-178.2000

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