1. TOP
  2. トカゲの尾の自切

トカゲの尾の自切

尾をちぎって逃げる

一部のトカゲでは尾を自ら切ることができ、自切と呼ばれれています。天敵に捕まえられると、自分で尾をちぎって逃亡する防衛手段です。切れた尾はしばらくの間はくねくねと動き、天敵の注意を引きつけている間にトカゲは逃走します。そのため、尾椎には自切面(脱離節)と呼ばれる節目が切れやすい箇所があり、自切しやすい構造になっています〔Fukuda et a;/1967〕。自切面で切断が起こると、筋肉が収縮して出血も最小限に抑えられ、そこから時間をかけて尾が再生します〔佐藤ら2015〕。全てのトカゲが自切を行うわけではなく、イグアナ、トカゲモドキ(ヒョウモントカゲモドキ)、デグートカゲ、カナヘビ、ヤモリは自切するが、カメレオン、アガマ、ドクトカゲ、モニターでは自切しません。

自切解剖生理

血液とリンパ管は脊椎の腹側に位置しています。 尾椎動脈は椎骨に近いところを走行し、尾椎静脈は動脈の腹側に位置し、動脈と静脈の両側に1つずつ、2つの大きなリンパ管があります〔lepen et al.1995〕。多くのトカゲは脊椎にあらかじめ形成された骨折線(離脱面)があり、この部分が離開するきことで自切が始まります。

自切は複雑な防御メカニズムで、尻尾を掴んだり、捕食者につかまったり、何らかの方法で挟まれたりすると、尾の筋肉群の収縮によって離脱面に負荷がかかることで尾椎が切れます。 周囲の筋肉群は瞬時に分離するように配置されています。 尾骨動脈も破断点で収縮するため出血は最小限で収まり、周囲の筋肉の収縮によって止血も行われています。なお、犬や猫で行うような断尾手術は椎骨間の切断(椎間板切除術)ですが、このよう方法を爬虫類で行うと離断面を失うために尾は適切な再生がなされません。

 

再生尾

再生する尾は通常、外観的には元の尾にほぼ類似しています。離切面には元の尾のすべてのコンポーネントが含まれます。 離脱面からが椎骨は再生されませんが、代わりに軟骨の茎が生成され、それが元の尾と同じ長さにまで伸長します(軟骨幹)。

しかし、ヒョウモントカゲモドキの再生尾は軟骨が生えていません。周囲の筋肉のーは、均質な層あるいは元の構造を模倣して軟骨茎の周りに放射状に広がりながら再生されます。 動脈と静脈も新しい組織とともに成長します。皮膚および鱗も再生されますが、元の鱗と比べて小さくて、灰色や薄茶帯びた暗色になることが多く、元の尾よりも長さが短くなります。

一部のトカゲでは、軟骨幹の中央に椎管の模倣として、結合組織と血管が詰まっていることがあります。 脊髄からの神経組織の成長の兆候も付随的に観察されています〔Zwart et al.2006〕。

尾が短くなると・・・

尾の自切は捕食者の攻撃から逃れるための戦略ですが、この戦略は再生尾を持ちながら、以前の尾の時とは完全に同じとはいえません。特に再生尾が完全に生えていない時あるいは不完全な再生尾だと、 尾に脂肪を蓄積するようなトカゲでは枯渇問題、そして歩行機能の低下〔Brown 1995〕、交尾の失敗〔Langkilde et al.2005〕という問題があります。 しかしながら尾の脂肪の蓄積のほとんどは、尾の近位部に存在しますので、脂質の枯渇は最小限の可能性が高かいです〔Chappie et al.2002〕。自切の歩行への影響はカナヘビで研究され、尾が自切すると上手く歩けないが、再生尾が生えると樹上性において元のように動くことができるようになった報告があります〔Brown 1995〕。なお、尾の再生にはかなりのエネルギーを必要とします〔Ballinger et al.1979〕。

参考文献

■Brown RM.Effect of caudal autotomy on locomotor performance of walt lizards (Podarcis muralis). Journal of Herpetology 29(1): 98-105.1995
■Ballinger RE,Tinkle DW.On the tost of tail regeneration to body growth in lizards (Reptilia,Lacertilia). J. Herpetology 13:374.1979
■Chappie D,Swain R.Distnbution of energy reserves in a viviparous skink: Does tail autotomy involve the loss of lipid stores? Austral Ecology27 (5): 565.2002
■Fukada et al.Autotomyin the lizard,Takydromus tachydromoides (Schlegel). Bulletin ofthe Kyoto UniversityofEducation,Ser.B,31.27-32.1967
■ Ippen R,Zwart P.Anatomy of major blond versels in tails of reptiles,with reference to blond sampling. Proc Fifth int colloq Pathol Rept and Amphib 31.3. – 2.4. Alphen aan den Rijn,The Netherlands:265-269.1995
■Langkilde T, Alford RA and Schwarzkopf L No behavioural compensation for fitness costs of autotomy in a lizard. Austral Ecology30(7) 713.2005
■Zwart P et al.PATHOLOGIES OF TAILS IN REPTILES.Conference: European Association of Zoo-and Wildiife Vetennanans (EAZWV) 6.scientfic meeting,24-28. 2006
■佐藤瑞生,小池 啓.ニホンカナヘビの自切の組織学的観察.群馬大学教育学部紀要自然科学編63.27-33.2015