1. TOP
  2. 3 カエルの病気
  3. 専門獣医師が解説する両生類の塩水浴

専門獣医師が解説する両生類の塩水浴

 2021/12/18 3 カエルの病気 この記事は約 5 分で読めます。 16,283 Views

塩は万能薬?

両生類や水生爬虫類の治療で塩水に浸ける治療があります。魚の治療でよく行われ、塩水浴(えんすいよく)塩浴(えんよく)と呼ばれており、病気の治療や新しい魚を入れると際に病気予防などに使う万能な治療法と言われています。よく「○○%の塩水浴を行って下さい」と書かれていますが、カエルやウーパールーパー、水ガメなどで行う塩水浴とは、目的と塩濃度が異なりますので注意して下さい。

えっ、逸話なの?

塩水浴はこれまで魚の処理で数多く治療に関する推奨事項がありますが、これは経験的あるいは逸話的です。両生類や爬虫類では、多くが2〜5gの塩/水1Lの濃度(0.2~0.5%)が推奨されていますが、これは間違いではありません。時より高い用量(10〜20g/L:1~2%)も推奨されますが、短時間あるいは短期間で行われます。しかし、塩水浴は誤って使用すると、両生類や爬虫類に有毒になる可能性があります。

薬効

①両生類では体の負担を減らす&腎臓を助ける

塩は塩化ナトリウムで、両生類では飼育される水に添加することで浸透圧による水の流入を軽減します。つまり飼育水の浸透圧を増加させ(高張の塩水)、体の浸透圧勾配を減少させて腎臓での水分排泄・膀胱での再吸収を減らすことで、体の負担を減らします。また、必然的に飼育水中のアンモニアや亜硝酸塩などの可溶性毒素の吸収が減ります〔Mitchell 2013〕。

②細菌・真菌ならびに寄生虫の治療

塩は過剰な粘液や破片を取り除き、抗生物質、抗真菌剤、駆虫剤の目的で行われます。細菌・真菌・寄生虫に対して塩水によって高浸透圧な環境を作ると、水分を引き出して死滅させます〔Mitchell 2013〕。細菌・真菌・寄生虫の体内塩分濃度は0.35%程度と考えられています。病原菌の種類は非常に多いので一概には言えませんが、0.5%程度の塩水で死滅することが多いと思われます。05%塩水ではウイルスは若干の感染低下はあるものの、3%塩水においても完全には失活させることができませんでした〔瀬野 2003 〕。ウイルスには塩水浴は効果が期待できないでしょう。

③両生類の浮腫の治療

両生類の体内浸透圧は0.65%なので、それよりも高浸透圧な塩水に浸ければ、浮腫でたまった水分が体から抜けていきます。つまり、浮腫の治療では0.65%以上の塩水浴が必要ですが、高張な塩水浴ほど副作用が発現しやすくなります。便宜的には0.9%である哺乳類用の生理食塩水を使用することが最も簡単です。

0.9%生理食塩水

 

では何%でやればよいの?

報告では0.2〜2%と投与量に大きな相違があり、浴時間も数分から無期限理までの範囲があります。生体の種類や状況によって独自に判断をして行うものなので、決まった濃度と時間はありません。もちろん薬効の①~③の目的でも異なってきます。

塩水浴の場合、副作用を常に考えて行わないといけません。この副作用も同じ種類の生体で同じ病気でも、発現するかしないかは個体差があります。いずれにせよ、低濃度で短時間で開始して、状態や状況を観察しながら濃度や時間を調整して下さい。

ウーパールーパーの研究では、0.5%の塩水浴に入れても、動物は安定したままでしたが、高濃度では臨床的に不安定でした。体内で高ナトリウム血症ならびに高クロール血症が発症する可能性があることを示唆し、代謝性アシドーシスと血中酸素濃度の低下につながります〔Duhon 1989〕。哺乳類では、ナトリウム中毒という病態にあたり、主に神経系(脳と腸の浮腫形成)と胃腸系に影響を及ぼします。臨床症状には、便秘または下痢、嘔吐、失調、運動失調、旋回、発作、麻痺、および死亡します。治療には、ナトリウム源の除去、支持療法、浮腫の管理が含まれます。しかし、推奨される高濃度ではない塩水浴を行った両生類では、その後無塩水の環境に戻しますが、目立った問題を示しませんでした〔Mitchell 2013〕。

どの塩使う?

純粋な塩(塩化ナトリウム:NaCl)が理想であるが、販売されている塩はNaCL以外に
も多くの物質(Ca2+、Mg2+、K+)が含まれている。コイでの塩水浴では両者に違いは見られなかった〔瀬野 2003 〕。しかし、食塩には固まりを防ぐための化合物が添加されているため、使用しない方がよいという意見もあります〔瀬野 2003 〕。マグネシウムの割合が高いと、水質がアルカリに傾けてしまい、生体に悪影響を及ぼすという意見も多いです。

塩水浴用のお薦め塩はずばりコレ!

 

瀬戸内海の天然塩!ゆっくりと溶けるし、便利な計量スプーン付

参考文献
■Duhon ST.Diseases of Axolotls.In Developmental Biology of the Axolotl.Armstrong JB,Malacinski GM eds.Chapter 25.Oxford Univ Press.New York.1989
■Mitchell MA.Treating Reptiles and Amphibians with Salt:Its Not Just for Seasoning.NAVC Conference 2013
■瀬野龍一郎.ウイルス性コイ浮腫症の病理学.東京水産大学大学院学位論文.2003

\ SNSでシェアしよう! /

カエル情報室|専門獣医師による飼育と病気の解説の注目記事を受け取ろう

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

カエル情報室|専門獣医師による飼育と病気の解説の人気記事をお届けします。

  • 気に入ったらブックマーク! このエントリーをはてなブックマークに追加
  • フォローしよう!

この人が書いた記事

  • 専門獣医師が解説するカエルと人の関係

  • 専門獣医師が解説するカエルの鳴き声

  • 専門獣医師が解説する両生類の抗菌ペプチド

  • 専門獣医師が解説するカエルのラナウイルス感染症~両生類の新興感染症

関連記事

  • 両生類の投薬 | どうやって投薬するのか?

  • 専門獣医師が解説するカエルの全身性浮腫症候群~風船病

  • 専門獣医師が解説するカエルのラナウイルス感染症~両生類の新興感染症

  • 専門獣医師が解説する両生類用生理食塩水・両生類用生リンゲル液の作り方

  • 専門獣医師が解説するカエルの赤肢病(レッドレッグス)

  • 専門獣医師が解説するカエルツボカビ症~カエルの新興感染症