専門獣医師が解説するウサギのパスツレラ症~ウサギで有名な病気~
目次
パスツレラとは!
ウサギのパスツレラ菌による感染症は、「鼻炎や肺炎を起こす原因となり、白い涙や目ヤニ、鼻水などが見られる」とよく聞きます。結膜炎、鼻炎(スナッフル)、中耳炎・内耳炎(斜頸)、肺炎、膿瘍など多くの病態が発生します。パスツレラ菌はウサギだけでなく、人をはじめ牛や豚などの家畜、犬や猫、ハムスターなど多くの哺乳類での発生が報告されています。特に猫から人に感染することも知られ、動物から人へから感染する人獣共通感染症としても有名です〔澤田 2011,澤田 2003〕。このウサギのパスツレラ菌ですが、大半のウサギが保菌しているとも言われ、謎が多い細菌と言われています。
パスツレラには沢山の種類がいる!
パスツレラ感染症を起こすパスツレラ菌は、Pasteurella multocida(パスツレラ・ムルトシダ),P.canis,P.pneumotropica,P. stomatisP.aerogenesP. dagmatisなど少なくとも10菌種以上が存在します〔澤田 2011,澤田 2003〕。ウサギにパスツレラ感染症を起こすのはP.multocida(パスツレラ・ムルトシダ)ですが、P.multocidaにも異なる種の動物に関連する複数の血清型があります。それぞれの血清型は各動物に対して潜在的に病原性を持ち、また共生して無症状のこともあります。P.multocidaは、健康な犬の扁桃腺や人の気道からも分離され、ウサギでも普段は無症状で、鼻腔に生息しています。しかし、宿主の免疫低下などで炎症を起こす原因菌になることがあります。感染における病原性は各動物に感染するP.multocidaの血清型によって異なります。ウサギでは血清型12:A、3:A、3:Dが通常分離されるタイプで〔Percy et al.1993〕、 スナッフルでは12:A、肺炎では3:Aおよび3:Dが関連します〔Jaglic et al.2008〕。他の動物種では、猫から人への感染、そして牛の出血性敗血症、豚の萎縮性鼻炎、鶏の家禽コレラなど有名な疾病があります。しかし、猫から人に感染するのに、なぜウサギに感染しないのかは、P.multocidaの異なる血清型の相違と思われます。
パスツレラ・ムルトシダによる感染症
- ウサギのパスツレラ症
- 猫から人へ感染するパスツレラ症
- 牛の出血性敗血症
- 豚の萎縮性鼻炎
- 鶏の家禽コレラ
ウサギはパスツレラのキャリア?
パスツレラ菌(Pasteurella spp.)は犬や猫、ハムスター、ウサギなどの口腔や鼻腔、爪などに一般的に常在しています。特にP.multocidaは多くの健康な動物に見られで、犬の口腔で55~75%、猫の口腔で60~97%、猫の爪で20%と非常に高率で検出されます〔澤田 2011〕。ではウサギのP.multocidaはどのようにして常在しているのでしょうか?ウサギへは、保菌動物との直接的な接触と空中拡散によって感染します。感染動物と直接接触している非感染のウサギは、8日から3週間以内に感染した報告があります〔Manning et al.1989〕。 ウサギを数mの距離で物理的に放すことで、感染の伝播が遅れます〔Lelkes et al.1983〕。ノミやダニなどの媒介生物の拡散が実証されており、汚染された水が感染源になることもあります〔Whittaker 1989〕。ウサギでの一般的な感染は空中拡散によることが多く、十分な数のP.multocidaが感染すると、鼻腔などの上気道に生息しますが、この段階では無症状です。菌は粘膜を覆うように粘膜を豊富に作り〔Whittaker 1989〕、鼻腔の細胞の線毛クリアランスの低下と常在細菌のバランスが崩れることで、病状が現れます。ただし、 妊娠や出産、粗悪な飼育環境や過密飼育、ストレス、栄養不足、遺伝的素因などが発症に深く関わり、もちろんP.multocidaの血清型も影響します。P.multocidaは感染した母親から生まれた直後に、子ウサギに蔓延させるケースが多いと言われ、特に幼若なウサギでは、免疫力の低下、兄弟との接触などが感染を成立させて蔓延させます。さらに、P.multocidaに対する遺伝的感受性がウサギの品種において相違があるようで、チンチラ種(Chinchilla rabbits)はベベラン種(Beverans)よりも感受性が高いです〔Manning et al.1989〕。 感染後の発生率は、約5ヵ月齢までに年齢とともに増加し、鼻炎、結膜炎、肺炎や気管炎、涙嚢炎または中耳炎を引き起こします。しかしながら、一部のウサギは鼻孔にP.multocidaが存在するにもかかわらず、免疫力によって無症状のままです。 そのような個体は保因者(キャリア)となり、他のウサギと接触することで蔓延させる可能性があります。
ウサギの症状は?
鼻炎、涙嚢炎または中耳炎、肺炎や気管炎、生殖器の炎症、そして皮膚ならび創傷に膿瘍を起こしますが、一方で無症状のままの保菌ウサギもいます。鼻炎によりウサギは鼻汁を前肢手で擦り、全身をなめる、また血行的に全身に広がります。重症化すると敗血症で死亡します〔澤田 2011、澤田 2003〕。
鼻炎(スナッフル)
スナッフルとは、鼻汁や異常鼻音などの症状を表す俗称です。特に上部呼吸器感染症である鼻炎の際に使われます。鼻炎は慢性化することが多く、鼻甲介などの軟骨が融解したり変形していることが多いです。
涙嚢炎
鼻腔の感染は鼻涙管排泄孔から蔓延し、涙嚢に炎症を引き起こします〔Petersen-Jones et al.1988〕。
中耳炎
耳管を介して鼻腔から中耳に蔓延します。感染は内耳までに及び、内耳神経に沿って脳炎を起こすことも珍しくはありません。前庭疾患と言って、斜頸や眼振などの神経症状を引き起こします。
肺炎
ウサギの肺炎の原因になりやすく、慢性または亜急性の感染は、ウサギに顕著な症状を示さないこともあります。明らかに健康なウサギの死後検査中に偶発的な肺炎が見つかることも珍しいことではありません。大きな膿瘍が胸腔内にできることもあります。
生殖器感染症
比較的高い割合で、保菌ウサギの膣から分離され〔Percy et al.1993〕、交配中に感染を起こる可能性があります。精巣炎や子宮蓄膿症などを引きおこします。
創傷感染および膿瘍
感染した創傷や膿瘍から分離されます。ウサギの鼻腔に常在していた菌が、舐めたり、毛繕いをした際に蔓延させます。整形外科手術後に骨髄炎を引き起こすこともあります〔Leibenberg et al.1984〕。
どうやって検査するの?
微生物を分離するために微生物検査における培養をします。鼻腔におけるサンプリングには深い鼻腔スワブが必要ですが、鼻腔奥深くから採取しないと、偽陰性の結果が生じる可能性があります。しかし、ウサギの鼻腔奥深くに届くような細い綿棒を入手するのは難しいです。また、意識のあるウサギでは鎮静または麻酔が必要になります。禁煙、アメリカでは血清学的検査と遺伝子(PCR)検査が利用され〔Sanchez et al.2000〕。スワブからの培養よりも有用です。
ウサギのパスツレラは人にかかる?
犬や猫は飼い主である人に密着しているため、人へのP.multocidaの感染が増加しています。人では感染により、蜂窩織炎、膿瘍、関節炎、鼻炎などを起こし、高齢者や免疫が低下している人では、敗血症、肺炎、髄膜炎、心内膜炎など重症化します〔澤田 2011、澤田 2003、竹本ら2012〕。人のパスツレラ感染症の起因菌として報告されている大半はパスツレラ・ムルトシダ(P.multocida)です〔原 2012〕。ウサギから人に感染するのか?ということですが・・・P.multocidaにも様々な血清型があり、そのタイプにより動物種による感染力や感受性等が大きく変わってきます〔澤田 2011、澤田 2003〕。現在の所、ウサギが人に大きな感染を引き起こすことは稀なようです。
治療は
パスツレラ菌(Pasteurella spp.)の多糖類による莢膜(細胞壁の外側に位置する被膜状の構造物)、リポ多糖(細胞壁外膜の構成成分)を備え、殺菌作用に対する耐性を持っています〔Deeb 1993〕。そのため微生物検査の感受性試験から、原因菌に対して有効な抗生物質を調べることもできます(感受性試験)。効かない抗生物質を投薬しても無駄になるだけです。
予防には
粗悪な飼育環境や過密飼育、ストレス、栄養不足および換気不足(空気の質の悪さ)は、P.multocidaの発病を引き起こす可能性があります。ウサギではほぼ潜在している可能性が高いため、適切な飼育が重要となります。発病したウサギでは、他の個体への感染源となるため、迅速に隔離しないといけません。同居個体あるいは異なるケージで飼育されているウサギでも飼育部屋を別にし、発病しているウサギでは、清潔で乾燥した換気の良い環境が必要となります。 ウサギは寒さに耐えることができますが、高温によってストレスを感じるようになります。そして蒸した暑い部屋は、特に尿中のアンモニア濃度が高くなり、空気の質が低下し、病気のリスクを高めます。温度変化もストレスになるので避けて下さい〔Whittaker 1989〕。下記のような殺菌性のクリーナーでこまめに掃除をしてあげましょう。
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ワクチンがあるの?
P.multocidaに対するワクチンは、羊などの種類で使用されています。しかし、ウサギの効果的なワクチンは開発の試みがなされており、生ワクチンと不活化ワクチンの両方が使用され、同じ血清型の株間で交差免疫が高くなり、実験用ウサギでは良好な結果が出ています〔DiGiacomo et al.1987〕。しかし、異なる血清型に対しては免疫は不完全でした〔Suckow et al.2008〕。
まとめ
日常的に動物と頻繁に接触し ている人は感染のきっかけを得やすいです。ウサギは子供がペットとして飼育する機会が多いですが、子供は大人に比べて免疫力が不十分で、簡単に感染症にかかりやすいです。ウサギに接した後の手洗いやケージの掃除には注意して下さい。もちろん、ウサギのもパスツレラフリーの個体を探し出すのも難しいため、適切な飼育環境と栄養バランスのとれたエサを与えることで、免疫力をつけて発病させないという考えが得策です。
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参考文献
■Deeb B.Update for veterinary practitioners on pasteurellosis in rabbits.J Small Exotic Anim Med2:p112-113.1993
■DiGiacomo RF et al.Safety and efficacy of a streptomycin dependent live Pasteurella multocida vaccine in rabbits (Abstract).Lab Anim Sci37:p187-190.1987
■Jaglic et al.Experimental study of pathogenicity of Pasteurella multocida serogroup F in rabbits.Vet. Microbiol126:p168-177.2008
■Lelkes L,Corbett MJ.A preliminary study of the transmission of Pasteurella multocida in rabbits.J Appl Rabbit Res6:p125-126.1983
■Manning PJ,DiGiacomo RE,Delong D. Pasteurellosis in laboratory animals.In Pasteurella and Pasteurellosis,Adlam C,Rutter JM,eds.Academic Press: p264-289.1989
■Petersen-Jones SM et al.Pasteurella dacryocystitis in rabbits.Vet Rec122.p514-515.1988
■Percy DH,Barthold SW.Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits,Iowa State University Press:p179-223.1993
■Sanchez et al.Pasteurellosis in rabbits.Compendium on Continuing Education22:p344-350.2000
■Suckow MA et al.Field trial of a Pasteurella multocida extract vaccine in rabbits..J. Am. Assoc.Lab Anim Sci.47:p18-21.2008
■Leibenberg SP,Badger VM. Suppurative osteomyelitis in the foot of a rabbit.J Am Vet Med Assoc185:1382.1984
■Whittaker D.Pasteurellosis in the laboratory rabbit: a review.Vet Ann29:p285-291.1989
■澤田拓士.パスツレラ感染症.人獣共通感染症.木村 哲,喜田宏編集.改訂版.p290-294.医薬ジャーナル社.大阪.2011
■澤田拓士.パスツレラ科と感染症.獣医微生物学.見上彪監修.第2版.p68-70.文永堂出版.東京.2003
■竹本正明、岡本健、福田健太郎、盧尚志、井本成昭、中澤武司、松田繁、田中裕.軽微な猫掻傷により敗血症性ショックをきたしたPasteurella感染症の一例.日本集中治療医学会雑19.231-235.2012
■原弘之.人獣共通感染症としてのパスツレラ感染症.日本集中治療医学会雑誌19.158-160.2012