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専門獣医師が解説するウサギの乳腺腫瘍の全貌!

 2023/03/09 3 ウサギの病気 この記事は約 15 分で読めます。 1,561 Views

乳腺腫瘤とは乳腺のしこりのこと!

ウサギの乳腺腫瘤は胸部(乳腺)に腫瘤(しこり)が形成されて発見されます。若齢では偽娠娠によって乳管の拡張、乳腺嚢胞乳腺過形成などの腫瘍でない病変(非腫瘍性病変)が多発し、時には乳腺に感染が起ることで乳腺炎が発生します。高齢になると腫瘍性病変である良性の乳腺腫や悪性の乳腺癌が発生します。つまり乳腺のしこりには組織が増殖しただけの過形成や炎症、良性や悪性の腫瘍まで幅広く発生します。近年、ペットのウサギの乳腺癌が増加し〔Baum et al. 2015,Degner et al.2018〕、メスのウサギの一般的な腫瘍である子宮腺癌に加えて、乳腺癌もウサギの平均余命を著しく短くすると指摘されています。Baumらは、ドイツでのペットのウサギの病理検査サンプルの約20%が乳腺腫瘍であると報告しています〔Baum et al.2015〕。ウサギの乳腺腫瘍の発生が明らかに増加しているのは、ペットとしてのウサギの人気の高まりと、長くなった平均余命が原因である可能性が高いです〔Arrington et al.1976,Adams et al.2010,Wallis et al.2018〕 。

乳腺の解剖

ウサギの乳頭の数は通常は4対(8個)ですが、5対(10個)認められる個体もいます〔Brewer 2006,Richardson 2000〕 。第1乳頭は前肢と鎖骨の間に位置し、イヌやネコと比べるとかなり頭側にあるので、注意して観察して下さい。

 

発生年齢

若齢では非腫瘍性病変や乳腺炎が発生し、高齢に腫瘍が多発しますが、総計の発生年齢は 8ヵ月から14歳の間で、平均すると4.9~5.5歳になります〔Greene 1939,Baum et al.2015,Degner et al.2018,Do Carmo Silva et al.2019,Sikoski et al.2008,Shahbazfar et al.2012,Schöniger et al.2014〕。

性差

乳腺腫瘤は基本的にはメスのウサギに見られる疾患ですが、避妊(卵巣・子宮摘出手術)済みのメスにも発生しています〔Baum et al.2015,Degner et al.2018〕。オスに乳腺癌が発生したという報告も珍しくはありません〔Schöniger et al.2019〕。なお、モルモットでは雌雄に同じ頻度で乳腺腫瘍が発生します〔Andrews1976〕 。

原因はホルモン?

動物の乳腺組織は内分泌系のホルモンの影響を強く受けます。マウスではエストロゲン、プロゲステロン、プロラクチンが乳腺の発育に関与します〔Schöniger et al.2019〕。エストロゲンは乳管と周囲結合組織の発育、プロゲステロンは腺上皮の発育、プロラクチンは腺房の発育を刺激するといわれ、ウサギの乳腺腫瘤は、これらのホルモンの影響、特に卵巣・子宮疾患に伴う雌性ホルモンとの関連が強いとされていましたが、詳細は分かっていません〔Schöniger et al.2019〕。卵巣・子宮疾患は高齢のウサギに好発するため、必然的に乳腺腫瘍の発生も高齢になると同時に多くなりますので、乳腺腫瘤が発見されると、しばしば卵巣・子宮疾患との因果関係が強く示唆されます。Walterらがエストロゲンやプロゲステロンの影響を受けやすい子宮疾患を患うウサギ59頭を対象に行った調査では、4頭に乳腺癌が認められています〔Walter et al. 2010〕。Saitoらが子宮疾患を患うウサギ47頭を対象に行った調査でも15頭に乳腺嚢胞が認められています〔Saito et al.2002〕。なお、乳腺腫瘍を持つウサギの遺伝性素因は研究されていません〔Greene 1939a,Greene 1939b,Greene 1939c〕。

症状

イヌの乳腺腫瘍は、後方に好発しますが〔Benavente et al.2016〕 、ウサギでは好発部位はありません 〔Baum et al.2015〕。乳管の拡張、乳腺嚢胞乳腺過形成では腫脹した乳腺から乳汁や漿液が分泌されます。

乳腺炎では炎症により乳腺が硬結し、血様の分泌物が認められることがあります。炎症によって乳腺の皮膚が暗色になることから、Blue chest(ブルーチェスト)とも呼ばれます。

良性の乳腺腫は成長が緩慢であり、浸潤性が認められないことから自壊しにくいです。乳腺癌も成長が緩慢な傾向がありますが、腫瘍が大型化すると、乳腺の硬結した腫瘤として発見され、自壊しやすくなります。Greene は乳腺癌の発生の 2 つの経路を解説しています。一般的には、癌は単純な嚢胞から嚢胞内良性乳頭腫瘍および非浸潤性癌を経て、転移の可能性がある浸潤性癌へと段階的に進行します。単純な嚢胞から浸潤癌の存在までの期間は、2ヵ月から 1 年以上の範囲で変動します〔Greene 1939b〕。もう 1 つの形態では、既存の嚢胞性病変を伴わずに乳腺組織に癌が発生します〔Greene 1939b〕。最終的に乳腺癌は、肝臓、肺、付属のリンパ節に転移しやすいです。ウサギの乳腺腫瘍は良性の乳腺腫よりも、圧倒的に乳腺癌が多く、検査した腫瘍の50~ 98%が癌腫で診断されます〔Baum et al.2015,Degner et al.2018,Schöniger et al.2014〕。また病理組織学的検査の約20%は、腫瘍と非腫瘍性病変である嚢胞性変化の同時の存在が認められます〔Degner et al.2018,Schöniger et al.2014〕。

診断

細胞診および病理組織検査によって診断されます。乳腺腫瘤が発見されたウサギは卵巣・子宮疾患が潜在していないかも確認します。

治療は避妊のみ?

ウサギの標準化された乳腺腫瘍の分類が無く、予後因子は不明なために、唯一の治療が外科的切除になります。イヌの乳腺腫瘍では、組織学的タイプが予後を決定する重要性を持っており〔Rasotto et al.2017〕、同様にヒトの乳癌では、管状組織型を含む特定の組織型は、比較的予後が良好とされています〔Ellis et al.2013〕。しかし、ウサギでは、病理組織学的検査を行っても予後判定がまだ調査されていません。

犬では早期の卵巣摘出手術(避妊手術)により、乳腺腫瘍の発生のリスクが著しく低下しますが〔Benavente et al.2016〕、ウサギでは手術を行うことで発生が低下するか調べた研究はありません。ホルモン剤も確実に効果のある薬剤がウサギでは定まっていません。ヒトでは乳腺細胞におけるエストロゲンおよびプロゲステロン受容体 (ER-α/PR)の有無が、乳癌患者の予後の予測およびホルモン療法の適用の適否を診断する上で、有用な指標となります。また、ER/PGRは予後因子としても重要で、悪性度、生存率、転移部位などと関連があることが示されています。しかし、ウサギの乳腺癌はER-α/PRの発現が欠如している症例が多いため〔Degner et al.2018〕、ホルモン剤による薬剤治療は有益ではないことになります。なお、正常な乳腺組織および乳腺嚢胞などの非腫瘍性病変では、エストロゲンとプロゲステロンの一方または両方の受容体の発現が確認されています〔Degner et al.2018〕。つまり、ウサギでは乳腺嚢胞などの非腫瘍性病変においてはエストロゲンとプロゲステロンの影響を受け、腫瘍性病変では関与する程度が低くなります。乳腺腫瘍の発生はエストロゲンやプロゲステロンよりもプロラクチンの関与が疑わしいとされています。プロラクチン分泌細胞の下垂体腺腫(プロラクチノーマ)と著しく上昇した血中プロラクチンを有する9頭のメスの未経産のニュージーランドホワイト種は乳腺嚢胞を発症し、授乳活動も示しました〔Lipman et al.1994〕。その他、下垂体腺腫とプロラクチン上昇を伴ったメスのウサギが乳腺癌と診断された例もあります〔Sikoski et al.2008〕。つまり、血液中のプロラクチンの上昇は、ウサギの乳腺組織を刺激し、まれに腫瘍性変化を起こす可能性があります。さらにペットのウサギでは偽妊娠などが起こりやすく、泌乳活動と乳腺組織の過形成はよくみられる状態となっています〔Fan et al.2018〕。今後、ウサギのプロラクチン分泌において更なる研究が必要です 〔Bernichtein et al.2010,Sethi et al.2012,O’Sullivan et al.2016〕。

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ヒトのエストロゲン受容体の陽性の乳癌では、タモキシフェンやアロマターゼ阻害剤などの抗エストロゲン作用を持つ物質を使用して治療されます〔Lakhani et al.2012〕。しかし、これまでウサギの乳腺腫瘍に対するタモキシフェンの効果はこれまで研究されていませんが、受容体が陽性のウサギの子宮疾患であれば、タモキシフェンは効果的かもしれません〔Bhargava et al.1993〕。

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参考文献

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