専門獣医師が解説するフトアゴヒゲトカゲの雌雄鑑別と繁殖〔Ver.2〕
雌雄鑑別
成体になると体の特徴(二次性徴)と行動で雌雄鑑別ができます。
- 頭の大きさ
- 顎の黒化
- 大腿腺
- クロアカサックの膨らみ
- ヘミペニス
- 行動
頭の大きさ
オスは頭がメスよりも大きくなる傾向がありますが、この大きさは微妙で、比べてみないと分かりません。
顎の黒化
発情すると下顎のアゴヒゲ状の鱗房も黒色に変色します(ストレスマーク)。
威嚇で喉を膨らませている姿は、まるでがアゴ髭を生やしているように見えます。
大腿腺
オスは臭腺である大腿腺(だいたいせん)が発達し、固まった分泌物が腺から突出しています。
メスの大腿腺は貧弱で、ポチポチと並んでいるという感じに見えます。
クロアカサックの膨らみ
オスの尾の基部にはヘミペニスが収納されているクロアカサックがあるため、2つの膨らみができます。しかし、この膨らみはあまり目立ちません。
メスは尾の基部は膨らみません。
ヘミペニス
総排泄孔を指で押してヘミペニスを出すことでオスと診断できます。
行動
オスは頭を上下に振るボビングをし、メスはオスに対して腕をグルグル回すアームウエビングを行いますが、これらの行動は絶対にするとは限りません。
繁殖
繁殖は計画的に行いましょう。増えたら引き取り手はあるか、自分で育てることができるのかよく考えて下さい。
性成熟
オスメスともに6ヵ月~1.5年齢で、性成熟を迎えて発情します。オスは精子ができるようになり、メスは卵を産むことができるようになります。
繁殖期
原産地でのフトアゴヒゲトカゲは季節繁殖で、9月~翌3月の春くらいまでが繁殖期ですが、飼育下では年中繁殖可能な周年繁殖です〔Grenard 1999〕。オスは喉元が黒色になってボビングをし、メスはオスに対してアームウェービングをすれば繁殖させるのに最も適しているといえます。繁殖する際のメスには特に栄養をしっかりと採らせてください。特にカルシウムが欠乏しやすいので、カルシウム剤を含めたミネラル剤やビタミン剤の投与は心がけて下さい。
交配
交尾はメスの背中にオスが乗って行われます。2本あるヘミペニスの1本のみをメスの総排泄孔に挿入します。交配後約1~2ヵ月で産卵します。卵を持ったメスは消化管が圧迫され、産卵前の4~6週は拒食しますが、それは正常な行動です。産卵までの間は水分だけは頻繁に摂るので、新鮮な水だけは用意しておいて下さい。
成熟したメスは、オスがいなくても無精卵を産みます。多数の卵胞が発育するので、お腹が膨らんで、食欲が落ちることから、病気(卵関連疾患)と間違いやすいです。
卵胞が大きくなっても、環境が卵を産むのに適していないと、排卵して卵になる前に吸収するような現象が起こることがあります(卵胞吸収)。卵が病的に変性しているのか、吸収していくのかの判断はエコー検査やCT検査をしないと分かりません。
産卵床
卵をもったメスは、産卵までの間しきりに地面を掘る行動を見せ、その中で産卵します。掘る行動が産卵の引き金になっていると思われるので、飼育下でも掘れる場所(産卵床)を提供する必要があります。
産卵床として、大きいタッパーや小さい衣装ケースを容器として中に土を20cm位の厚さで敷いてください。土を食べることもあるので、肥料などが混入されていない普通の黒土が理想です。容器には出入り口を設け、フトアゴヒゲトカゲが自由に出入りできるようにしてください。内部は保温し、適度な湿度があった方がよいので、容器下にフィルムヒーターなどを敷き、土は定期的にスプレーなどで水をまきます。最大約24個の卵を1回で産みます〔Tosney 1996〕。爬虫類の卵は胚が出来るまで(約1日?)は転がっても問題ありませんが、胚が形成された後に転がって上下逆にすると卵が死にます。基本的に卵は見つけた時の向きのまま保管するために、マジックなどで上部に印を付けます。
フトアゴヒゲトカゲの卵は羊膜卵と呼ばれる柔らかく、鶏のような硬い卵殻がありません。周囲の水分を吸収するような構造をしています。
人工孵化
産卵したフトアゴヒゲトカゲをケージに返したら、卵を慎重に掘り返して孵化をさせます。フトアゴヒゲトカゲの卵の孵化には約60日かかります。温度は25~30℃で、湿度は80~90%を保つように環境を設けてください。孵卵用床敷は、バーミキュライト、ミズゴケ、ピートモスなどが使われます。卵は衣装ケースやプラケースなどがよく使われます。最近ではハッチライトという孵化専用の床材も販売されています。乾燥を防ぐために、蓋はしておきますが、蓋の代わりに、ラップなどを使用します。通気性をもたるために、ラップの蓋に針で、いくつか穴を空けておきます。
市販の鳥類用の孵化器を使うのもよいですが、転卵(回転する)機能がオフに出来る商品を選んで下さい。
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フトアゴヒゲトカゲの性の決定は特殊です。卵の孵卵温度)が22~32℃であると性染色体が有利になり雄雌が決まります(遺伝的性決定:GSD)。しかし、孵卵温度が22~32℃以外であると卵の孵卵する時の温度で決まる温度依存的性決定(TSD)というシステムが有利に働きメスが多く生まれます〔Quinn et al. 2007〕。
検卵
産卵2~3日で卵の中に血管が発生します。卵は薄い殻に覆われているので暗い場所で下から懐中電灯等で照らせば血管の確認ができて、有精卵と判断できます。卵に光をあてることをキャンドリング(Candling)と言います。
キャンドリングをすると卵の中の胎子が成長していくのが分かります。
無精卵の場合は、産卵1~2週間で潰れてしぼんできます。
出生
孵卵温度26℃で、86~96日で孵化した例があります〔千石 2005〕。
出生直後のフトアゴヒゲトカゲにはヨークサック(Yolk sac)とよばれる栄養の袋がお腹にぶら下がっています。動き出した幼体のヨークサックを切らないようにし、新たなゲージを用意して移してあげましょう。ヨークサックからの栄養をとるので、すぐにはエサを食べません。
ヨークサックから栄養を取り終えたフトアゴヒゲトカゲの幼体は初回の脱皮を数日以内にして、初めて自分で口からエサを食べるようになります。
表:繁殖知識
繁殖形式 | 卵生 |
性成熟 | 6ヵ月~1.5年 |
繁殖期 | 原産地 季節繁殖(9~翌3月の春~夏) 飼育下 周年繁殖〔Grenard 1999〕 |
産卵数 | 最大9回/年 最大24個/回〔Tosney 1996〕 |
性決定 | 孵卵温度22~32℃ 遺伝的性決定 それ以外の温度は温度依存的性決定〔Quinn et al. 2007〕 |
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参考文献
■千石正一.Reptiles & Amphibians Gallery アゴヒゲトカゲ.月刊アクアライフ197.マリン企画.東京.204‐207.1995