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専門獣医師が解説する真猿類(オマキザル・リスザル・マーモセット)の飼育の心構えと基礎知識

 2021/08/07 3 真猿類 この記事は約 15 分で読めます。 2,672 Views

サルを飼うには覚悟がないといけません

真猿類のサルは高い知能を有する動物で、飼育は難しく手間を要します。犬歯も鋭くて攻撃してくることもあります。人と同じ霊長類であることから人獣共通感染症の危険もありますので、単に愛玩目的や興味本位で飼育できる動物ではありません。

飼育する上で、運動や社交不足、不安や退屈などが、サルにストレスの原因になり、ここが重要視されています。ストレス起因の異常行動として体を丸めてケージの隅にうずくまったり、小さな物音にも敏感に反応して、金切り声をあげながら急速な動きを見せます。突然前触れもなくかんだり、威嚇したり、ケージの中でぐるぐると回るような行動も異常行動です。自分の被毛を抜いたり(抜毛)、皮膚をかじったり(自咬症・自傷)もし、軟便・下痢、食欲不振なども起こります〔南 1998〕。

サルは自我がはっきりしており、自尊心も高く、根気よく時間をかけてスキンシップをとらないと慣れません。

豊富な運動量

一般的にサルは木の上など、高さのある所で生活をし、運動量も多いため、ペットとして飼うためには十分な高さと広さのあるスペースを確保しなければなりません。屋外での散歩は、慣れた個体でない限り、逃亡を含めてリスクが伴いますのでお薦めしません。極端にケージを大きいものにするか、部屋に放すしか方法はありません。そして、サルが縦横無尽に動き回ることができるように身体の大きさにあった木や踊り場を設けて、行動の変化もつけて下さい。しかし、部屋の中でイタズラや壁や家具にぶつかるなどの不意な事故を未然に防ぐような配慮も必要です。なお、飼い主が不在の時は必ずケージに収容しておくべきで、決して家の中を自由に動き回れるようにしてはいけません。予想外のいたずらや事故が懸念されます。特にマーモセットはかなりの運動量が必要になります。

知能が高く感情豊か

真猿類のサルは知能が高くて好奇心旺盛で感情的な動物で、警戒心も強い面もあり、不快や恐怖といった感情もあります。人も認識できるので、慣れた飼い主には絶対的な信頼感を持つこともあります。一方で想像以上に賢いために、嫌なことや気にいらないことを一生覚えており、しつけなども一筋縄に行きません。人と慣れ親しむためにも、時間をかけて語りかけたり、接したり、心から繋がるようにコミュニケーションを辛抱強く図るべきです。

かみつきなどの攻撃

サルのかむ行為は意思表示の一つです。人にじゃれたり、甘える時は甘がみですが、怒りや興奮の表現で強くかむこともあります。群れで生活するサルは、乳幼仔の時にかみつく力の加減をルールとして身に着けて覚えますが、多くのペットのサルでは幼い時に親兄弟か放たれるので、かむ力加減も分からず成長します。サルの咬筋は発達し、犬歯も鋭利であることから、甘がみであったとしても大怪我を負います。サルがかむのは何かしらの意思表示なので、無闇に怒ったりしてはいけません。なお、発情中は興奮してかむことが多いです。いずれにせよ、意思表示、ストレス、発情などが、かむ理由になるので、その原因を調べる必要があります。ペットのサルでは自分をボスと思い込んだり、わがままな意思表示として、かめば希望通りになると覚えても困るので、サルのしつけも大切です。なお、かまれてしまった時は怪我だけではなく、感染症にかかる可能性もあります。リスザルやオマキザルではかみつくこと以外にも、引っかくいたり、物を投げることもします。サルは力のある指と固い爪でがっちりと物をつかむことができるため、引っかかれた傷はとても深くなります。ペットのサルでは自分の糞を投げつけることもよくあります。一昔前のサルの飼主の中には犬歯をニッパなどで破折させていました、露髄による感染を起こし、歯髄炎根尖膿瘍の原因になっていました。

サルの歯の破折

犬歯の抜歯処置が一部で行われていますが、このような処置はサルにとって良いのか悪いのか、論議されています。

サルの歯の病気のことはコチラ

習性・行動

群れる

多くの真猿類のサルは群れで生活をし、集団の中で自制心が確立され、社会的上下関係ならびに協調性(社会のルール)を身に着けます。群れの中での仲間との社交性ならび刺激を絶えず受けることもストレス防止になります。単独飼育を行うことは社会的隔離と言われ、ストレスがたまって狂暴になり、人をかむことなどの異常行動として発現します。単独飼育の場合は、飼い主はサルと多くの時間を共有して仲間になる気持ちでいて下さい。また、サルは飼い主ならびに飼い主の家族も含めて順位付けをします。飼い主を自分より下位だとみなした場合は、馬鹿にしたり、かんできますので、サルを飼育するには家族の理解や協力も重要になります。

ひまつぶしをさせる

サルはストレス発散のためには、遊びも積極的に取り入れることが望ましいです。いつも同じケージの中にいると、異常行動が出やすくなります。サルは他の動物と違って、つかむ、取る、引っ張る、握る、摘む、投げる動作が優れています〔Whittaker et al.2012〕。そして、真猿類は知能が高いので、輪投げ、ブランコ、玩具等を、サルの種類によって玩具の好みも異なり、遊ぶ時間も異なります。サルが退屈しないよういろいろな玩具を試してみたり、玩具を時折、順に取り替えたりするようにします。霊長類のために作成された玩具は、日本では販売されていないので、人の乳幼児用の玩具を使うこともあります。

寂しがりの性格のサルは、ぬいぐるみを仲間と認識して手放さないことあります。

トイレ問題

サルの飼育で最大の難点は、トイレのしつけができないことによる臭いの問題があげられます。真猿類は知能が高いため簡単にトイレを覚えることが可能な印象がありますが、本来移動をしながら生活するため、決まった場所で排泄をしません。そのためケージから部屋に放す場合はオムツをすることになりますが、嫌がる個体が多く、幼少時からのオムツの生活に慣らさないけません。真猿類は自分の糞で遊ぶこともあります。

自慰行為問題

真猿類のオスは性成熟を迎えると自慰(マスターベーション)をするようになります。人と同じように手で性器を刺激して射精にいたり、飼育下では、そのような行為を飼い主の目の前でも行います。自慰行為ならびに発情によるかみつきの予防を含めて去勢手術(精巣摘出手術)が行われます。なお、メスも高齢になると卵巣・子宮疾患が多発するので、避妊手術(卵巣・子宮摘出手術)をすることもあります。

シャンプー・ブラッシング

サルは本来きれい好きな動物で、グルーミングで被毛を清潔に保ちます。サルの場合、グルーミングはペアで行われ、心理的には社会形成に重要な行為となり(下位のサルが上位にサルに行うことが多い)、物理的にも効果があります。自分で被毛の手入れを行う習性がありますが、オマキザルやリズザルではしつけによって、人にブラッシングされても安全であると理解できますが、反対にストレスになることもあり、慣らすのも一苦労です。水を嫌わないならシャンプーや入浴も問題なくできますが、ブラッシング以上に馴らすのは難しいです。公衆衛生上、免疫力の弱い人や乳幼児は一緒に入らないようにして下さい。

日光浴

真猿類の多くは昼行性なので、日光浴をします。日光浴あるいは適切な紫外線を浴びることでの最大の効果は、ビタミンDが生成されてカルシウムの吸収を促進することです。日光浴や紫外線不足によって、真猿類で多発する代謝性骨疾患(くる病)が起こります。

人獣共通感染症

サルの飼い主は、サルからの咬傷や掻創を負うことはよくあるため、応急処置について訓練ならびに準備をする必要があります。サルによるケガを決して甘く見てはいけません。創口から感染を起こす確率は極めて高いため、十分な処置が必要になります。また、サルは人と同じ霊長類で、共通する感染症が犬や猫より多いです。サルではエイズウイルスやエボラウィルスなどがサルから人へ感染することが問題になっていましたが、現在、本邦ではサルは検疫対象動物となり、輸出国によって異なるが輸出前に検査を受けた健康個体のみが輸出され、本邦でも検疫を行い輸入される仕組みになりました。現在は野生個体がペット用として日本に輸入されることはなく、驚異的な感染症のリスクは低いです。しかし、よくある人の水虫(皮膚糸状菌症)~重篤になる病原性大腸菌症赤痢菌サルモネラ菌などの感染症が、ペットのサルに感染する可能性もあるので注意して下さい。いずれにせよ、サルのケージの掃除はしっかりと消毒までして下さい。

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予防接種は、サルにとって重要なだけではなく、彼らと接触することによって人に感染する人畜共通伝染病の危険性を可能な限り防止する意味でも重要です。しかし残念ながら、本邦ではサルに使用できる安全で効果のある予防接種はありません。

サルの法的規制のことはコチラ

食事

サルのエサは、種類によって与える餌の内容はもちろん異なります。新世界ザルは昆虫(動物性蛋白)を多く、旧世界ザルは果物や野菜を多く摂取します。実験動物用のモンキーフード(サル用ペレット)は、旧世界ザルのマカク種に対するものが圧倒的に多く、新世界ザルや原猿類のペレットは数少ないです。しかし、飼主の多くは市販のペレットより、犬や猫用のペレットを与えたり、人の食べ物を与えていますが、栄養のバランスを考慮しないといけません。特に真猿類のサルは、嗜好的な理由からペレットをあまり好まず、人の食物や果物などを欲しがり、偏食になる傾向が強いです。

モンキーフード

新世界ザル用のペレットの粗タンパクは旧世界ザルよりも多く、18~22%〔MSD Veterinary Manual〕、20~25%〔Johnson 1981〕が理想とされています。特に真猿類用のペレットにはビタミンCとカルシウム代謝に必要なビタミンDが強化して含まれ、ビタミンC欠乏症代謝性骨疾患を予防します。エサは1日に体重の3~5%の食べますが〔Johnson 1981〕、エサの多くは遊んだり、こぼしたりして無駄になるので、より多量の給餌を行う必要があります。1日に1回全量をエサ容器に入れて与えるより、2~3回に分けて与えて下さい。サル用の高タンパク質のトリーツ(モンキービスケット)なども補助的に与えることができます。

ビタミンC

多くの哺乳類はブドウ糖からビタミンC(アスコルビン酸)を合成する能力を持っていますが、人を含むほとんどの霊長類は、アスコルビン酸合成に必要な酵素であるグロノラクトンオキシダーゼを欠いています。なお原猿類は酵素を持っている種類が多いです〔National Research Council 2003〕。ビタミンCはサル用ペレットに添加されていますが、劣化しやすいため、果物や野菜、サプリメントなどでも補うようにします。ビタミンCは、どのような液体中でも酸化されてしまうので、ペレットの長期保存または飲水に混ぜたりすると劣化します。サルにはビタミンCが1~4mg/kg/日が必要量とされています〔Holmes  1984〕。ストレスを受けると、ビタミンCの必要量が増加します〔De Klerk et al.1973〕。

カルシウムとビタミンD

ビタミンD(カルシフェロール)は脂溶性ビタミンで、腸内でのカルシウム吸収を促進し、身体の骨の鉱質化に役立っています。ビタミンDはいくつかの食物に含まれており、ビタミンD2とD3の2つの形態があります。また、体内において生合成も行われ、日光浴あるいは紫外線の照射によってビタミンD合成が誘発されます。新世界ザルはビタミンD3(コレカルシフェロール)、旧世界ザルはビタミンD2(エルゴカルシフェロール)が必要とされています。新世界ザルはビタミンD2 を利用する能力が制限されている〔Hunt et al.1966〕、体内でビタミンD2をビタミンD3に変換できない等の諸説がありますが、よく分かっていません。ビタミンD3は動物由来の食品にしか含まれていませんが、ビタミンD2は主に植物に含まれていますので、新世界ザルのエサには十分な動物性食材が推奨されています。新世界のサルはビタミンD2を使用する能力が限られている理由はよく分かっていません〔Holick 1999〕。

エサまたは日光浴から得られたビタミンDは生物学的に不活性で、活性化するには肝臓と腎臓で水酸化を2回受ける必要があり、活性化した1.25-ジヒドロキシビタミンD(1,25(OH)D)(カルシトリオール)が形成されます〔Jones et al.2014〕。新世界サルではビタミンD2でのカルシトリオールへの変換が低いとされています〔Horst et al.1988〕。そのため、昼行性のサルであるオマキザル、リスザル、マーモセットでは日光浴あるいは紫外線の照射が必須になります。新世界ザルのエサには2400IUのビタミンDが含まれている必要があります〔MSD Veterinary Manual〕。

エサの栄養も重要で、十分なビタミンDとカルシウムはもちろんのこと、カルシウムとリンの適切な比率が必要となります。サルのエサには0.5%のカルシウムが必要とされています〔National Research Council 1978〕。幼体は成体よりもカルシウム要求量が高く、またゆっくりと成長する旧世界ザルよりも、急速に成長する小型の新世界ザルではカルシウムが多く必要となります。また、カルシウムとリンの比率は、1:1~2:1が理想です。新世界ザル、特に幼体では、エサの栄養と日光浴の知識がないと、代謝性骨疾患を好発します。

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ポイントはコレ!
・ストレスを減らす飼育が理想
・運動量を多くとらせる
・知能が高くて表情が豊か
・かむのは意思表示
・群れることで社交性が高まる/飼い主がかまう
・暇つぶしのために玩具を与える
・トイレは覚えないのでオムツに慣れさせる
・オスは自慰行為をするので、対策は去勢手術
・人と同じ霊長類なので人獣共通感染症が多い
・日光浴あるいは紫外線ライトが必要
・エサは動物性のエサ/ビタミンC/ビタミンDが重要

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参考文献
■De Klerk VA,Du Plessis JP,Van Der Watt JJ,De Jager A,Laubscher NF.Vitamin C requirements of the vervet monkey(Cercopithecus aethiops)under experimental conditions.S.Afr.Med.J29.705-708.1973
■Hay AW.The transport of 25-hydroxycholecalciferol in a New World monkey.Biochem J151(1).193–196.1975
■Holick MF.Vitamin D:photobiology,metabolism,mechanism of action,and clinical application.In Primer on the Metabolic Bone Diseases and Disorders of Mineral Metabolism 3rd ed.Favus MJ.ed.Lippincott-Raven.Philadelphia.p74-81.1996
■Holick MF,Lips P,Chapny MC,Dawson-Hughes B,Pols HA. An internal comparison of serum 25-hydroxy vitamin D.measurements.Osteoporosis Int9.394-397.1999
■Horst RL,Reinhardt TA,Gardner RM.The biological assessment of vitamin D3 metabolites produced by rumen bacteria.J.Steroid Biochem29.185-189.1988
■Hunt RD,Garcia FG,Hegsted DM.A comparison of vitamin D2 and D3 in New World Primates.I. Production and regression of osteodystraphia fibrosa.Lab.Anim.Care17.222-234.1967
■Jones G.Vitamin D.In Modern Nutrition in Health and Disease,11th ed.Ross AC,Caballero B,Cousins RJ,Tucker KL,Ziegler TR,eds.Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia:2014
■National Research Council.Nutrient Requirements of Nonhuman Primates.National Academy of Sciences.Washington DC.1978
■National Research Council.Vitamins.In Nutrient Requirements of Nonhuman Primates:Second Revised Edition. Washington, DC: The National Academies Press.p113-149.2003
■Shinki et al.Extremely high circulating levels of 1 alpha,25-dihydroxyvitamin D3 in the marmoset, a new world monkey.Biochem Biophys Res Commun29.114(2).452-457.1983
■Whittaker M,Laule G.Training techniques to enhance the care and welfare of nonhuman primates.Vet Clin North Am Exot Anim Pract15(3).445-54.2012
■南徹弘.総説 隔離ザルの行動異常.霊長類研究Primate Res14.69-76.1998

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