専門獣医師が解説する小鳥の発情対策と卵関連疾患〔Ver.2〕
目次
発情して困っていませんか?
野生の鳥は必然的に発情を迎えて繁殖をします。飼育下では、明るい時間も長く、常に暖かいし、餌も豊富で発情しやすい環境です。群れで飼育されていないと、人やおもちゃを性の対象にすることもあります。特にメスの慢性発情や過剰な産卵は、生殖器系や卵に関する病気を引き起こす大きな問題となっています。
発情期は2つのステージ!
メスの繁殖周期には、発情期、抱卵期(産卵期)、育雛期(ヒナを育ている時期)、非発情期(発情していない時期)の4つに分けられています。いわゆる発情と呼ばれているのは発情期と産卵後の抱卵期になります。それぞれの時期で対応が変わってきます。
- 発情期
- 抱卵期(産卵期)
- 育雛期
- 非発情期
発情期
鳥のは発情期は、オスとメスが自分に合ったパートナーを見つけるため発情行動(求愛行動)をとります。一般的にはメスのほうがオスをパートナーとして選ぶので、オスは好みのメスとペアーになるためにアピールをします。メスとオスとの発情行動は以下のように異なります。まず最初にオスが発情し、メスに対してアピールをし、メスはこの刺激によって発情が引き起こされます。発情期の症状は卵巣・卵管疾患と似ており、それらの症状が長く続き、突然に食欲や糞に異常が起こり、気づいた時には病気だったということも珍しくはありません。
オス
- 頻繁に鳴く
- 餌の吐き戻し(発情吐出)
- マスターベーション(交尾行動)
- 気があらくなる
オスは「ピロロロ〜」と高い声で、頻繁に鳴くようになります。メスに対して求愛で餌を吐き戻して与えます(発情吐出 )。
オスはペアとなるメスがいないと、多くの場合オスは、鏡などの光る物、玩具、餌容器、止まり木などお気に入りの物や場所を見つけ吐きつけます。吐いたエサが付いた鏡やおもちゃ、止まり木は清潔にし、餌を取り除いてください。メスがいなくても吐出するので、ケージの中が不衛生な状況となり、吐き戻した餌を自分でまた食べることがあります。
発情吐出は餌をまとめて吐き出しますが、首を左右に振って撒き散らす様に吐くのは、そのう炎などの病気の可能性がありますので注意してください。顔が吐物で汚れている時は、発情吐出でなく、そ嚢炎の可能性があります。
止まり木などに総排泄孔を擦りつけるような行動は、交尾行動と同じマスターベーションです。マスターベーションが激しくて、尾羽が折れたり、お尻の皮膚に炎症を起こす鳥もいます。性格的に攻撃性が強くなると、イライラして人を噛むようになります。自分の羽を抜いたり、皮膚をかじることも多いです(毛引き)。
慢性的な発情が続くと、精巣腫瘍になりやすいとも言われています。
メス
- お尻を挙げる姿勢(交尾姿勢)
- ろう膜が茶渇色になり、盛り上がる
- 巣ごもり
- 巣づくり(営巣)
メスは交尾を許容する姿勢で、お尻を挙げる姿勢がみられます。その姿勢をシャチホコポーズと呼ばれています。発情が強いと、ろう膜が茶渇色になってカサカサになり、盛り上がってきます。
暗くて狭い場所でじっとしているような巣ごもりをする行動が多くなり、床に敷いてある紙の下に潜り込んだり、箱に入りたがります。
巣材を使って巣作りをすることがあります(営巣)。止まり木をかじってボロボロにしたり、紙をちぎるなどの行動は巣作りの材料を集める行動です。
メスもオスほどではありませんが、攻撃性が強くなる場合もあります。メスも吐き戻しをすることがありますが、まれなことです。これはヒナにエサを与える行動です。
抱卵期(産卵期)
交尾後に産卵してヒナが孵化するまでの時期を抱卵期や産卵期と言います。メスは基本的に発情していればオスと交尾をしていなくても無精卵を産みます。メスは最初に1つ目の卵を産んでもすぐに抱卵はせず、3~4個産んでから卵を暖め始めます。その理由は孵卵の差があると、ヒナの大きさに差が出てしまうからです。
抱卵のメスは卵の上にうずくまり暖めます。卵が無くても抱卵をする場合があり、ケージの床にうずくまったり、止まり木やハシゴなどの上で膨らんでじっとしていることもあります。一見してかなり具合が悪そうに見えるため、病気と勘違いやすいです。
・発情の症状は卵巣・卵管の病気と似ている
発情の問題点と病気
繁殖を目的としない鳥にとって、過剰な発情は病気の原因になります。また、長期間発情が続くと、体力も消耗してしまいます。
メス
メスの持続発情は、女性ホルモンであるエストロゲン(発情ホルモン)が持続的に分泌されることで引き起こされます。エストロゲンの影響で、発情兆候、巣作り行動、巣ごもりなどの行動が多くなります。発情と産卵を繰り返すことで以下の兆候がみられます。
- 卵塞(卵づまり)
- 卵巣嚢腫
- 卵黄性腹膜炎
- 卵管炎
- お腹が出てくる(ヘルニア)
- 変性卵
- 卵管脱(総排泄腔脱)
- 低カルシウム血症
- 骨軟化症
- 肝機能低下(脂肪肝)
- 毛引き
発情するとお腹がぷっくらとして少し太ります。お腹の羽が抜けて血管の走った脂肪が沈着します。この脂肪は抱卵斑(ほうらんはん)と呼ばれ、卵に熱を伝える役目をします。
産卵の回数が増えれば、卵づまりを起こす可能性が高くなります。
卵が大型卵で産卵しないこともあります。
卵が潰れていたり、変性していたりしていることもあります(変性卵)。
卵管が腫大して炎症を起こしやすくなります(卵管炎)。
卵の黄身や白身、卵殻の成分が卵管内に貯まったりもします(卵管蓄卵材症)。
卵を産みすぎて、体内のカルシウムが減少し、軟卵を産んだり、低カルシウム血症や骨軟化症を起こし、ぐったりします。
卵は最終的に外側に卵殻を作るために、発情中は卵殻の材料であるカルシウムを骨の中にため込みます(骨髄骨・多骨性過骨症)。この状態が継続すると骨に変形することがあります。関節面に変形が起こると骨の変形や関節炎になり、飛べなくなったり、歩行異常や脚弱が見られます。エストロゲンは、お腹の筋肉が弛緩する作用もあり、そして、常に卵巣や卵管が発達して頻繁に産卵をしますので、刺激が加わることで、ヘルニアになります。
卵黄の材料である蛋白質(ビトロゲニン)は肝臓で産生され、これによって肝臓に負担がかかります。発情中は高脂血症になるので、慢性発情になると脂肪肝を引き起こします。生殖行動の欲求が満たされない場合、毛引きの原因になります。
オス
- 発情吐出の吐物を食べてそのう炎になる
- 精巣腫瘍
吐き出したエサをそのままにしておくと、また自分で食べてしまうことがあります。吐いた餌は腐敗しやすく、食べたり吐いたりを繰り返すと、そのう炎などを引き起こします。交尾行動であるマスターベーションは、頻繁に総排泄孔を擦りつけるので、尾羽が抜けたり、皮膚は擦り切れて出血します。発情の持続は、精巣を発達させ、非発情時の何十倍~何百倍もの大きさになります。このように大きくなった精巣は精巣腫瘍になりやすいです。
発達した精巣は足の神経である坐骨神経を圧迫することがあり、これによって足に不完全麻痺が見られます(これは主にセキセイインコに多いです)。
・セキセイインコのオスは精巣腫瘍の恐れがある
発情対策
発情期と抱卵期で対応が少し異なりますが、一般的に下記の対策を練って下さい。
- 明るい時間を短くする
- 保温しない
- 湿度を下げる
- 性の対象を隠す
- 巣を外す
- ダイエット
- 少しストレスを与える
明るい時間を短くする
発情期
明るい時間が長くなると発情のスイッチが入り、明るい時間に比例して発情が強くなります。明るい時間が6~8時間以上に発情の刺激となると言われているので、夕方の5~6時には、ケージを暗く静かな所に置き、12時間以上の睡眠をとるようにしてください。完全に寝かせるのは難しいですが、暗い空間にして下さい。起きている時間を6~8時間くらいにするの限界かしれません。
カバーは光が入らない遮光性のあるものを使用し、暗くするには完全に遮光して下さい。
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リビングなどの家族がいる部屋でカバーや布だけかけても、寝かせていることにはなりません。人の声やテレビの音が聞こえない静かな場所に移動しましょう。明るい時間が発情に大きく関与するのは、セキセイインコ、オカメインコ、キンカチョウなどの温帯にいる種類で、つまり四季のある地域に生息する鳥だけです。熱帯にいるブンチョウ、ボタンインコやコザクラインコなどの熱帯に生息する種類も、明るい時間が長い方が発情しやすくなる傾向があります。
抱卵期(産卵期)
抱卵期は光は無関係です。メスは薄暗い場所を巣とみなして発情するので、発情予防~発情期対策のように極端に明るい時間を短くするのではなく、明るい時間をしっかりと設けることで抱卵を辞めるようになります。
保温しない
発情期
四季のある地域に生息する温帯の鳥は、気温が高くなる春から夏にかけて繁殖しやすくなり、気温の低くなる冬には繁殖はしません。つまり、気温を高くすると繁殖しやすくなります。冬でも暖房のかかっている部屋で飼育すると、季節感がなくなり、発情が起こります。熱帯にいる鳥は、野生下で寒い時期がないため、温度よりも降雨量や湿度、エサの影響を受けます。冬でも暖房の効いた暖かい部屋で飼っていると発情しやすくなります。寒すぎると体調を崩す原因にもなるので注意しなければなりません。特別に鳥が元気であるならば、過剰に保温しないほうが良いのかもしれません。
特に冬は過保護にしないで、人と同じように保温しないで暮らすのも一方法です。また、夏や秋に温度を下げる場合は、急激な温度低下は調子を崩す原因となるで、注意しながら温度を下げるようにして下さい。寒くても耐えられるような体力を作りが必要となります。寒いと鳥は膨みますが、病気と鑑別するために毎日体重測定等の健康チェックをしましょう。
病気や弱っている鳥だと、保温しないことで弱ることもあるので、注意しないといけません。
抱卵期(産卵期)
産卵中のメスにとっての温度管理は難しいです。暖かいことは抱卵行動を継続させる可能性があります。温度を下げると卵塞の原因になるかもしれません。現在何とも言えません。
湿度を下げる
発情期
雨期が発情起因の要因となります。温帯でも雨季は温度の上昇する時期でもあり、日本では梅雨に発情する鳥が多く見られます。除湿器等で湿度を下げるようにします。完全に発情期になると、湿度を下げても発情の抑制に効果がありません。
抱卵期(産卵期)
湿度は無関係です。
性の対象を隠す
発情抑制~発情期
異性に対して発情している時は、分けて1羽だけにして下さい。視覚的に異性の存在を確認するだけでなく、鳴いているといった音の刺激も発情を促進させます。
求愛する相手は鳥とは限りません。1羽飼いの場合だと、飼い主である人、鏡、おもちゃ、止まり木などに求愛や発情します。
人に馴れている鳥は、人を性の対象と認識することが多く、人と同じ生活環境にいるだけで発情を助長します。対象となる人がいない部屋にケージを置いてみたり、触ったり、話しかけ過ぎないようにして刺激を与えないようにしましょう。鏡やおもちゃなどは異性と見立てて発情しますので、ケージ内に入れないようにして下さい。
抱卵期(産卵期)
性の対象は無関係です。
巣の撤去
発情期
巣ならびに巣材の存在は発情する重要な刺激となりますので、外して下さい。
巣箱を設置していなくても、ケージの隅っこやエサ入れの中など、狭いところに潜り込んでいたら要注意です。ケージの隅っこで、くつろげないように何か障害物を置いたり、小さめのエサ入れを用意してください。床敷きの紙をかじるようでしたら、それを巣材に使用するので紙を使わないようにします。
放鳥の際にも、バッグ、家具や引き出しの隙間、束ねたカーテンの隙間、本棚の隙間などを巣と見立てる可能性があるので片付けて下さい。
抱卵期(産卵期)
卵を暖めているならば、巣と卵を取り上げるのも一方法です。
ダイエット
発情期
高カロリーの餌を与えている場合も、発情を引き起こす原因になります。これから卵を産んで、ヒナを育てるには、十分な栄養が十分でないといけません。発情期に入ると太るのが普通です。太らないように食べるエサの量を調節して体重管理をすることが発情の抑制につながります。
少しストレスを与える
発情期
人に馴れた鳥の場合、飼育環境に対して、外敵のストレスを感じないため、発情しやすくなります。ストレスを感じた場合、発情が止まる可能性があります。ケージやその置き場所を周期的に変えたり、知り合いの家など、たまに知らない場所に連れて行ってみるのも一方法です。過度の変化はストレスになるので、健康な鳥のみで行いましょう。
抱卵期(産卵期)
ストレスを感じた場合、抱卵が止まる可能性がありますのえで、ストレスは与えないでください。
・巣箱は不要、性のパートナーを放す
・人が構い過ぎない
・過保護にすることが発情を引き起こしやすい
偽卵の使い方
卵を産んでしまった時に、これ以上産ませたくない時に偽卵を置く方法があります。発情を抑制すると言うよりは、偽卵を温めさせて抱卵期にさせて発情を終わらせようという考えです。とりあえずの方法なので、抱卵期もいずれ終わると、またすぐ発情してしまいます。擬卵はプラスチックや陶製の人工の卵の形状の商品です。
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まとめ
最後まで読むと、鳥を可愛がり過ぎて、保温してエサをたっぷり与え、おもちゃを与え、構いすぎることが発情を起こし、悪いことのように思えます。反対に体力をつけて、屋外で飼育している鳥は、四季を感じて真夏や冬は発情しません。どっちが良いのか、いつも悩んじゃいます・・・