専門獣医師が解説する鳥の腎臓腫瘍と精巣腫瘍~セキセイがヤバい
腎臓腫瘍と精巣腫瘍
鳥の腎臓と精巣は解剖学的に隣接した位置にあり、腫大および腫瘍化した場合の鑑別が難しいとされています。どちらもセキセインコに多発する傾向にあり、初期症状も特異的でないことが鑑別を難しくしています。
精巣腫瘍はセキセイに多い
鳥の精巣腫瘍はセキセインコとハトに多発し、精細胞腫とセルトリー細胞腫が圧倒的に多く発生します。セキセイインコでの調査では、精細胞腫の発生は9.2歳、セルトリー細胞腫は10歳で、高齢で見られます。精細胞腫の14%が腎臓と脾臓に転移がみれましたが、セルトリー細胞腫では転移はありませんでした。その他、間細胞腫、リンパ腫、未分化肉腫、奇形腫などの発生もあります〔Reavill et al.2004〕。
腎臓腫瘍もセキセイが多い
鳥類の腎臓は、他の動物組織と同様に、腫瘍性疾患の影響を受けやすいです。腎芽腫と腎腺癌は、セキセイインコの腎臓腫瘍の大部分を占めています。 男性よりもメスであり、スズメ目の種よりもオウム目でより一般的に観察されます。〔Neuman et al.1983〕。最も一般的には生後 5 歳以内に診断されました〔Neuman et al.1983〕。
腎臓腫瘍の種類
腎芽腫と腎腺癌が圧倒的に多いですが、その他に、骨髄性白血病ならびにリンパ腫、血管腫、脂肪腫、組織球性細胞肉腫、神経線維腫、扁平上皮癌、肉腫などの原発性または、卵巣や卵管腫瘍の転移性として報告されています〔Van Toor et al.1984,Klumpp et al.1986,Puette et al.1994〕。鳥白血病ウイルス (Avian leukosis virus: ALV) は鶏に腎臓腫瘍を誘発する可能性が指摘され、そしてALV は腎臓腫瘍のあるセキセイインコでも検出されていますが、決定的な関連性はまだ確立されていません〔Neuman et al.1983〕。
精巣腫瘍と腎臓腫瘍の症状
腎臓腫瘍の一般的な症状は、片側性から両側性の脚弱(脚の衰弱または麻痺、および軽度の運動失調)です〔Van Toor et al.1984〕。その他の臨床症状は様々ですが、多くの場合、下痢、呼吸困難、腹部膨満、体重減少が含まれます〔Van Toor et al.1984〕。腰神経叢は腎臓前葉の背側に位置し、一方、仙骨神経叢は腎臓中葉に接しています。この密接な位置関連性のため、腎実質の炎症や腫瘍による神経の圧力は、潜在的に神経機能不全とその結果としての跛行を引き起こす可能性があります。跛行と筋萎縮に加えて、腎臓腺癌を患ったオカメインコでは同側の骨減少症が認められた報告があります〔Freeman et al.1999〕。腎臓腫瘍の多くは進行し、予後は不良です。腎臓腺癌の報告例では、ほとんどの鳥の生存期間は診断後 3ヵ月未満でした〔Freeman et al.1999〕。
精巣腫瘍では、腫大した精巣の大きさに比例して、呼吸困難、 活動性の低下、食欲不振、腹水、蝋膜の変色などが見られます。なお、腎臓腫瘍ほどではありませんが、脚弱も起こり得ます〔Reavill et al.2004〕。
精巣腫瘍と腎臓腫瘍の治療
鳥の腎臓は骨盤背側に可動性もなく密着しているため、外科的に除去することが困難です。腰神経叢と仙骨神経叢、および腎臓を取り囲む広範な血管網との密接な関係もあり、手術中に予想される重大な出血と神経学的損傷が発生する可能性があります〔Freeman et al.1999〕。セキセイインコの腎腺癌(剖検で診断)への、カルボプラチン(5mg/kg IV) を 1ヵ月毎投与の報告がありますが、治療開始から約3か月後に死亡しています。しかしながら、治療開始から 1ヵ月後、片脚の握力の低下と跛行が改善しました。カルボプラチンは鳥に対して腎毒性がある可能性がありますがるが、この薬剤は腎不全に進行していない初期の腎腫瘍の治療に役立つ可能性があると結論付けられました〔Macwhirter et al.2002〕。精巣腫瘍も外科的摘出が理想であり、腎臓腫瘍と比べて摘出の可能性は高いですが、やはり侵襲が高い手術になります。体重が200g以上でないと外科的摘出は困難という記載もあり、酢酸リュープロライドの定期的な投与で維持することが理想かもしれません〔Reavill et al.2004〕。
診断
大きな問題は生前診断が難しいことです。X線検査やCT検査で腎臓や精巣が大きく確認できても、それが炎症などで大きくなっているのか、腫瘍であるのか判断ができません。
多くは死後の剖検において病理組織学的検査で診断されます。したがって、確定診断できない状態では積極的な治療ができなていないことが現実です。
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参考文献
■Freeman KP et al.Right leg muscle atrophy and osteopenia caused by renal adenocarcinoma in a cockatiel (Melopsittacus undulatus).Vet Radiol Ultrasound40(2):144-147.1999
■Klumpp SA,Wagner WD:Survey of the pathologic findings in a large production colony of pigeons, with special reference to pseudomembranous stomatitis and nephritis.Avian Dis30:740-750, 1986
■Macwhirter P,Pyke D,Wayne J.Use of carboplatin in the treatment of renal adenocarcinoma in a budgerigar. Exotic DVM 4(2):11-12.2002
■Neuman U,Kummerfeld N: Neoplasms in budgerigars (Melopsittacus undulatus):clinical,pathomorphological and serological findings with special consideration of kidney tumours.Avian Pathol12:353-362.1983
■Puette M,Crowell WA,Hafner WS.Ultrastructural examination and cell count determinations of avian glomeruli from grossly normal and grossly swollen kidneys of broilers at slaughter.Avian Dis38:515-522.1994
■Reavill DR et al.Testicular Tumors of 54 Birds and Therapy in 6cases. Conference: Association of Avian Veterinarians25.2004
■Van Toor AJ,Zwart P,Kaal GThF: Adenocarcinoma of the kidney in two budgerigars. Avian Pathol13:145-150.1984