羽毛をもっと知りたい・・・専門獣医師が解説する鳥の羽毛
羽毛
鳥は 嘴、眼の周囲、踵以下の脚を除いて羽毛で被われ、飛翔の揚力や推進力、体幹の保護・防水、保温の役目を担います。さらに、羽色はコミュニケーションにも役立ちます〔Pettingill 1970〕。いくつかの種は頭長く伸びた羽である冠羽を持っており、オウムなどの羽冠は自由に上げたり下げたりして、仲間とコミュニケーションに使用したり、敵に対して体を大きく見せかける防御手段に使われます。羽色のパターンは、二次性兆、捕食者に対するカモフラージュなどに役立ちます。場合によっては、可視で色の違いが認められない場合でも、羽毛の紫外線反射による性差存在することがあります〔Eaton et al.2003〕。
正羽とダウン
羽毛は主に外面から観察される正羽、身体を直接被う綿羽があります。正羽は翼の羽毛や尾羽が代表的で、翼は構造と機能から、風切羽、雨覆、小翼羽などに分けられます〔茂田ら 1986〕。初列風切羽は掌骨と第2指に付着し、その枚数は3〜16枚(多くは9~11枚)と種により多様です。次列風切羽は尺骨に接続しています。三列風切羽は上腕骨に接続していますが、鳥種によっては次列風切との差は明確ではありません。風切羽根は飛翔の推進力と揚力に役立ちます〔茂田ら 1986〕。雨覆は風切羽根を覆い、翼の上面と下面にあり、それぞれ上雨覆、下雨覆と呼ばれ、場所によって大雨覆、中雨覆、小雨覆と称されます。雨覆は翼全体の空気の流れをスムーズにする働きをしています〔茂田ら 1986〕。小翼羽は第1指に付着し、2〜7(多くは3〜4)枚からなり、無い種も知られています〔茂田ら 1986〕。
尾羽
尾羽は着地時に落下速度を低下させるパラシュート的な役割をします。尾羽の付け根部分を 被う羽毛は尾筒と呼ばれ、 上面が上尾筒、下面が下尾筒です。尾羽は交尾や排泄、あるいはディスプレィ時に上げることで、行為を助けます。風切羽や尾羽などの飛翔する目的の羽毛は保温効果が低いです〔Gill 2007〕。
羽毛の構造
正羽は長い中央の柱となる羽軸から横に伸びる羽枝ならびに小羽枝からなり、 羽枝全体を羽弁と呼びます。小羽枝は多数の小さな鉤によって連結しているため、羽枝と小羽枝はばらばらにならずに1枚の羽弁を形成します。なお、多くの水鳥は小羽枝が発達し、撥水性も生み出しています。綿羽は羽軸を欠き、羽軸もほとんどなく、被毛のような羽枝が伸びている羽毛です。柔らかくて、空気を大量に含み、身体と外界を空気によって遮断することで、保温効果を高めます。綿羽は巣を覆い、卵の孵化や雛の保温の際に、抜いて使われることもあります。ダウンジャケットや羽毛布団など、人の生活においても様々な場面で綿羽は活用されています。
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色々な羽毛
羽毛には正羽と綿羽以外にも、半綿羽、剛毛羽、糸状羽、粉綿羽などの特殊なものも見られます。半綿羽は正羽と綿羽の中間的な形状をし、羽弁を欠いていますが、羽軸はあります。主に綿羽同様、保温の役割をしています。 紛綿羽は最も変わった羽毛で、一生を通して成長し、成長しながら先端が崩れて粉ができます。この粉は羽毛同士の密着性を高めたり、防水効果があります。粉綿羽は、サギ類、ハト類、フクロウ類などや、愛玩の飼鳥では、オカメインコやバタン類に見られます〔Lucas et al.1972〕。サギ類の紛綿羽は腹部にパッチ状に密集している部分があり、嘴を使って粉を羽根から砕いて広げたり、頭を振って粉を全体に塗ることもあります〔Delhey et al.2007〕。糸状羽と剛毛羽は、感覚羽とも言われ、羽の位置や形の乱れを感知したり、異物の侵入の阻止、さらには虫を捕食するために役立つと考えられています〔Lederer 1972〕。
換羽
周期的に新しい羽毛に生え換わることを、換羽と呼ばれ、成鳥では年に2回生え換わるものが多いです。ボウシインコ類では年中換羽が見られ、カナリアでは春から始まり夏まで続きます〔Mckibben et al.1986〕。換毛に関与するホルモン、チロキシンとプロラクチンと言われています〔Kuenzel 2003〕。
コラム:換羽の餌
幼体のオカメインコにおいて、餌の推奨されるタンパク質が20%が最適であることを示されました。 10%のタンパク質は発育不良を示し、反対に25%以上であると痛風などの異常が見られました〔Roudybush 1986〕。セキセイインコでは餌のタンパク質は17~20%が最適であることが示されていましたが〔Underwood et al.1991〕、他の研究では、2%のリシンと10%のタンパク質が理想とも報告されています〔Drepper et al.1988〕。タンパク質ならびにアミノ酸の欠乏は、1つまたは2種類の種子に制限された食事を摂る場合に最も起こりやすいです。例え、数種の種子を混ぜたミックスシードでも偏食する鳥では、やはり問題が起きやすいと思われます。偏食の対応が難しい場合は下記のサプリメントを使いましょう。
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筆毛
新生羽毛は、皮膚の羽囊と呼ばれる袋から伸長する。伸長した羽毛は筒状で、最外層の皮膚は羽鞘と呼ばれ、羽毛が伸長すると粉のように脱落します。伸長した羽毛は羽鞘から出て広がり、その初期の状態は筆毛、またはピンフェザー(Pin feather)と呼ばれ、草の芽のように硬く尖って伸長し、先端から羽枝が開いて筆のように見えます。ピンフェザーは血液が流れて成長しており、ブラッドフェザー(Blood feather)と呼ばれることもあります。 完全に成長した羽毛は血液供給が終止し、羽軸内は空洞になります。ピンフェザーは発育して長くなり、血液供給は基部のみに集中するようになり、先端は薄い革のようなもので羽毛自体を包みこんでいます(羽鞘)。 鳥が羽繕いをすると、羽鞘が取り除かれ、羽弁が広がります。この行動は掻痒のように見えます。なお、ピンフェザーの羽軸が損傷すると、大量出血する恐れがあり、換羽中に、鳥は不注意に羽軸を噛んだり、ぶつかって損傷させて、出血させる事故です。このような時の止血の最善な方法は羽根を根元から引き抜くと、血管が収縮して止まります。
栄養性嘴羽毛形成不全
羽毛はケラチンから構成され、栄養(アミノ酸)および内分泌要因の影響を受けます〔Brush 1993〕。したがって、換羽時の餌は通常よりも多くのタンパク質を必要とし、一般的にメチオニンやヒスチジンなどの硫黄加アミノ酸の摂取が、羽毛の状態を維持するのに重要とされています〔Wortinger et al.2015,Brue 1994,Wheeler et al.1981〕。鳥の餌のタンパク質不足ならびにアミノのアンバランスがあると、抜羽などの行動、体重減少、羽毛形成不全(ストレスライン、羽色の変化)、生殖能力の低下が見られます〔Wortinger et al.2015,Melo et al.1999〕。同時に嘴もアミノ酸から構成されるため、変形や過長などの異常が同時に見られることがあります。性ホルモンと甲状腺ホルモンも羽毛に関与するため、生殖器疾患や甲状腺機能低下症に罹患すると、羽毛形成不全や不規則な換羽が起こります。換羽期は羽毛の発育に伴う血管供給が活発になるため、身体の基礎代謝率は約30%増加し、必然的に鳥の栄養要求量も多くなります〔Mckibben et al.1986〕。羽毛の色は、羽根の基礎構造に対しての光の反射、そして羽毛に含まれるメラニンやカロチンなどの色素によって生じます。
はげ?
羽毛が生えている羽域と生えていない無羽域(裸域)があります。ダチョウやペンギン類は無羽域を欠き、水鳥は羽域が広いです。なお、腹部正中、嘴、腋窩、手羽先、頸部背側は無羽域であるため、これを病的な症状と間違えないように気を付ける必要があります。例えば、白オカメインコ(ルチノー)に見られる頭頂部の無羽域は特有の正常所見です。
抱卵班
メスは産卵期に産座をつくるために、腹部の羽毛(綿羽)が抜ける、または自ら抜く生理学的脱羽が見られます。抜いた腹部の皮膚は浮腫状に肥厚して血管が発達し、抱卵斑と呼ばれ、抱卵時に卵へ体温が伝達しやすくなります〔Turner 1997〕。抱卵班の多くは腹部の中央に 1 つの領域が見られますが、一部のシギ類は腹部の両側に 1 つの斑、 カモメとカモメには 3 つのがある場合もあります。孵化して雛が発育するにつて、皮膚の肥厚と血管新生は退行し、消失します。なお、 ペリカン、ペンギン、カツオドリ、カツオドリは抱卵斑を形成せず、足で卵を抱きます。
脚鱗
多くの鳥では、足根部から趾先まで鱗状の角質で被われ、この部分は脚鱗と呼ばれています。
参考文献
■Brue RN.Nutrition.In Avian Medicine:Principles and Application.Ritchie BW,Harrison GJ,Harrison LR eds.Wingers.Lake Worth.FL:70-85.1994
■Brush AH.The evolution of feathers.A novel approach.Avian Biol9:121-162.1993
■Delhey K,Peters A,Kempenaers B.Cosmetic coloration in birds: occurrence, function and evolution(PDF).Am.Nat169: S145–158.2007
■Eaton MD,Lanyon SM.The ubiquity of avian ultraviolet plumage reflectance.Proceedings: Biological Sciences270(1525):1721–1726.2003
■Gill FB.Ornithology 3rd ed.W. H. Freeman and Company.New York.2007
■Kuenzel WJ.Neurobiology of molt in avian species.Poult Sci82(6):981-91.2003
■Lederer,Roger J.The role of avian rictal bristles (PDF).The Wilson Bulletin84:193–197.1972
■Lucas AM,Stettenheim PR.Avian anatomy.Integument. Agriculture.Handbook 362. Goverment printing office. Washington DC.1972
■Melo JE et al.Effects of dietary crude protein on slaughter yield of selected broiler stocks.J.Appl.Genet40:219-231.1999
■Mckibben JS,Harrison GJ.Clinical anatomy.In Clinical avian medicine and surgery. Harrison GJ., Harrison LR. eds. WB Sauders Company.Philadelphia:p31-66.1986
■Pettingill OS Jr.Ornithology.In Laboratory and Field.Fourth edition.Burgess Publishing Company:p29–58.1970
■Turner JS.On the Thermal Capacity of a Bird’s Egg Warmed by a Brood Patch (PDF).Physiological Zoology7(4):470–80.1997
■Wortinger A, Burns KM.Avian.In Nutrition and Disease Management for Veterinary Technicians and Nurses.2nd ed.Wiley Blackwel.Ames.IA:227-233.2015
■Wheeler KB,Latshaw TD.Sulfur amino acid requirements and interactions in broil rs during two growth periods.Poult.Sci60:228-236.1981
■茂田民光.佐野裕彦.鳥体外部の名称Bird Toogphy.Bull. JBBA1(3):56-69.1986