専門獣医師が解説するスローロリスの飼育〔Ver.3〕
ゆっくりと動くサル?
名前の通りにゆっくりと動くサルですが、いざとなると素早く動くことができます。穏やかな気性のため、ペットとしても人気があります。他のサルと比べて人にも慣れやすく、幼体から飼育すると腕に乗ったりもします。
飼育
スローロリスやピグミースローロリスを飼育には法的な規制があります。2007年のワシントン条約(野生動植物の種の国際取引に関する条約)の改正においてサイテスⅠに掲載種になりました。絶滅のおそれがあり、商業目的のための国際取引は原則禁止され、国内における取引についても、種の保存法に基づく国際希少野生動植物種として規制されています。現在はマイクロチップを挿入して、登録票がないと飼育ができなくなりました。もちろん感染症法からもペットのサルは輸入禁止対象なので、国内繁殖した個体だけがペットで流通しています。
飼育頭数
単独生活をしているので、基本的に1頭で飼育をして下さい。複数で飼育して相性が合わないと、頭や指、尾をかんで攻撃します。
ケージ
猫やオウムなどの金属製の金網ケージで飼育できます。運動量はそれほど多くないので、極端に大きなものを用意する必要はないです。手先が器用なので脱走防止の為に、網目が細かく出入り口は開けられないように鍵をします。ケージ内には登り木、餌容器や給水器、小屋などをレイアウトを設置して下さい。手先が器用で人と同じように物を扱います。餌容器はひっくり返さないように重い陶器製のものを選ぶべきです。
登り木
樹上性であるため、高さのあるケージに、耐久性のある太い樹木や枝、踊り場を止まり木を休息する場所として、そして木々の間を登って移動できるようにしましょう。ロリスは物をつかむ習性が強いので単に板状の踊り場よりは太い流木などを使います。
小屋・寝具
昼は顔を隠すように身体を丸めて休むため、身体が隠れるくらいの大きさの小屋を用意するか、あるいは寝具として布やタオルを与えると中で休みます。昼はケージを毛布などで暗くすると安心します。
床敷
床敷は種類を問いません。小屋で休むために、金網床でかまいません。ロリスは驚いた時に落下反応といって、登り木から床に落ちる行動をすることから、床に柔らかに木製チップや布を敷くとよいですが、糞や尿で汚れるのが欠点になります。
温度・湿度・照明
温度
熱帯に生息しているので暑さに強く、寒さに弱いです。低代謝な動物なために低体温症になりやすく、約20℃以下になると休眠して動かなくなります。冬の寒い時は、保温器具で寒さを防ぐ工夫をし、夏は冷房や送風などで温度が上がりすぎないように注意しましょう (温度・湿度)。
湿度
高温多湿な環境な地域に生息していますので、湿度は高めに設定して下さい。乾燥する冬などは加湿器をつけてあげましょう。
表:温度・湿度〔京都大学霊長類研究所 1986〕
温度 | 24-27℃ |
湿度 | 40-60% |
照明
夜行性なので、夜に活動的になり、日光浴をさせる必要はありません。昼間は暗い部屋あるいはケージにカバーなどをかけるなどして下さい(照明)。
食事
エサ
原猿用のペレット(モンキーフード)を主食に、野菜、果物、昆虫やミルワームなど与えます。基礎代謝率が低い動物で、過食や果物を与えすぎると、すぐに肥満になります。特に果物や昆虫を多く与えるような食事メニューを多く見かけますが、くる病・代謝性骨疾患などの骨の病気になりやすいです。原猿用モンキーフードが入手できない場合は、ドックフードなどの栄養が整ったエサをメニューに加えて下さい。なお、ペレットは、柔らか過ぎずに少しだけふやかした程度が適切とも言われています〔Prosimians 1998〕。
ロリスは周囲に興味があり関心を寄せることがあります。生き餌であるコオロギやワームが動いていると、追いかけることもあります。
水
ペレットをふやかして与えていると水をあまり飲みません。一般的には皿タイプの給水器で水を与えます。
ケア
ケージの中にロリスを入れてエサを与えるだけという単調な飼育は、成長や健康維持、繁殖のみならず、精神的的なストレスの原因になります。ロリスが持つ野生本来の行動を発現できるような環境作りのために、生息地に適応した体の特徴や生態を環境エンリッチメントに沿って考えて下さい。ロリスのは夜行性で静かな環境で飼育して下さい。そして、他のサルと異なり、基本的に言葉を理解したり、意思疎通をすることは難しく、コミュニケーションをとるというよりロリスの生活のタイミングや性格を知って、それに合わすような感覚でいて下さい。
静かな環境
臆病な性格でデリケートなため、普段はのんびりとして大人しいですが、驚いた時などは素早く動き、飼い主をかんだり、狭い隙間に入り込んだりします。大きな音や驚かすようなことは避けましょう。環境に馴れるまでの間は、そっとしてあげて下さい。
人との接触
人に対して攻撃的ではありませんが、保定されることに抵抗し、かんでくる個体がいます。スローロリスは唾液と臭腺分泌物を混ぜて毒液を作るのため、できるだけかまれないようにして下さい。空腹時は目の前の物をエサと思いかんだり、また正面からくるも物に恐怖を抱き、攻撃するかもしれません。指などを顔の正面から近づけることはやめましょう。この毒は人に対してはアナフィラキシーショックを与えたりもしますが、健康な人であれば特に影響はないとされています。しかし、触った後は手洗いをして下さい。
臭いを残す
頻繁で徹底的なケージの清掃は、スローロリスを不安にする可能性があります。ケージの清掃の時には、登り木や小屋は臭いがついたままにしておいた方がよいでしょう。飼い主の臭いも認識するため、少しづつスキンシップをとっていきましょう。スキンシップをとりたいのであれば、慌てずにゆっくりと慣らしていきましょう。
●大きな金属製の金網ケージで飼う
●木と寝具を設置する
●26℃以上に保温する
●原猿用モンキーフードが入手できない時はドックフードを代用
●夜行性
●環境に馴れるには時間をかける
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参考文献
■Prosimians.National Research Council.The Psychological Well-Being of Nonhuman Primates. Washington, DC: The National Academies Press.55‐67.1998
■京都大学霊長類研究所.サル類の飼育管理および使用に関する指針.1986