専門獣医師が解説するウサギの皮膚病〔Ver.3〕毛が抜ける・皮膚が赤い
目次
ウサギの皮膚病は奥が深い
ウサギの皮膚病は、細菌、真菌(カビ)、寄生虫などの感染以外に、ウサギ特有の皮膚・毛の特徴と不正咬合、スナッフル、白濁したオシッコ(カルシウム尿)、軟便・下痢などが皮膚病を引き起こす皮膚以外の病気が原因となります。ウサギの皮膚病は、皮膚の治療だけでなく、病気を起こす背景を考えないといけませんので、とても奥深いのです。皮膚病でなく、ストレス等で自分で毛を抜いたり、皮膚をかじる(自咬症)こともあります。
皮膚・毛の特徴
ウサギの皮膚は犬や猫と比べて薄く、特に表皮が薄いのが特徴です。毛は太い一次毛(オーバーコート)と細い二次毛(アンダーコート)の2種類があり、密に生えています〔Sandford 1996〕、犬や猫と比べて1つの毛穴から生えている毛の数も多いです。
品種でも違うの?
短毛種のニュジーランド・ホワイトは長毛種のアンゴラよりも皮膚は厚く、毛皮の利用に適していません〔Yagci et al.2006〕。しかしアンゴラではニュージーランド・ホワイトよりも細いアンダーコートが多く生えており〔Ozunurulu et al. 2009〕、アメリカン・ファジーロップやジャージー・ウーリーなどの長毛種の毛も同様にアンダーコートが多いので、手触りが良いです。細い毛のアンダーコートが多いと、もつれて毛玉ができやすいです。
レッキスやミニレッキスの毛は、オーバーコートが退化してアンダーコートと同じ長さになり、毛質が特に柔らかいです。毛の密度も高く、ビロードのような手触りになります。
一部のネザーランド・ドワーフは首の背側~肩にかけて生まれつき毛の薄い部分があります。
ウサギの皮膚は性や年齢でも変化が見られます。年老いたオスの皮膚は、厚くなる傾向があり〔Yagci et al.2006,Harcourt-Brown 2002〕、特にロップイヤーに多く見られます。触わっても皮膚が硬くなっているのが分かります。
皮膚は弱いの?
ウサギの皮膚は薄いだけでなく、柔らかく〔津崎 1954〕、水分が染み込みやすくて敏感です。水分を吸った皮膚は浸軟(ブヨブヨした状態)をまねき、糜爛(皮膚がはがれた状態)や細菌感染を生じやすいです。
ウサギの皮膚の浸軟の原因は、ヨダレ、鼻汁、涙や目ヤニ、糞やオシッコなどがあげられます。
皮膚が弱いため、体重の負荷によって足底に皮膚の炎症が起こります(足底皮膚)。包帯やギプスも湿気がこもって浸軟になり、強くしめると皮膚が損傷します〔石田2012〕。
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毛の抜け代わりを換毛(かんもう)
ウサギの毛は季節的な毛周期が見られ、毛の抜け換りである換毛は通常1年に2回ほど起こります。一般的に換毛は頭から始まり、首から背中へ移動し、最後にお腹の毛が生え替わります。
換毛期には大量の毛が抜け落ち、。ウサギは自らの毛づくろいだけでは間に合いません。
毛玉ができないようにしないといけません。自ら毛づくろいができない年寄りのウサギ、抜け毛が多い換毛期には、ブラッシングを行います。毛づくろいで抜けた毛をなめて胃内に毛球(胃のうっ滞・毛球症)の予防にもなります。
通常の換毛は7~10日以内で完了します〔Harcourt-Brown 2002〕。しかし、年齢、環境、ホルモン、栄養などが換毛に影響を及ぼすために、時期や期間、程度は個体によって異なります。加齢とともに明確な換毛は見られず、いわゆるダラダラと被毛が抜けるウサギが多いです。アンゴラ、ロップイヤー、ドワーフなどの一部のウサギの換毛は変わっていています。脱毛部と発毛部が同時に見られ、継ぎ接ぎ状や斑状模様のようになり、この模様をアイランド・スキン(Island skin) と呼ばれています〔Hoyt 1998〕。
脱毛部の発毛は遅くなることがあり、数週間にわたって毛が生えてこないことも珍しくありません。一般的に脱毛部は肌色ですが、発毛部は暗い褐色をしていますので、一見すると病気のように思ってしまいます。
・換毛は年に2回だが、年齢とともにダラダラ抜ける
・ウサギはお風呂やシャンプーは不要
・可能であれば飼い主がブラシングをする
・ウサギ特有のつぎはぎ模様の換毛をアイランド・スキンという
皮膚病の種類
皮膚病は感染するもの(感染性)と感染しないもの(非感染性)に大きく分けられます。感染は細菌感染、真菌(カビ)感染、ノミやダニによる寄生虫の3つです。ただし、細菌感染は非感染性の湿生皮膚炎が大きく関与しています。
- 細菌
- 真菌(カビ)
- 寄生虫(ノミ・ダニ)
非感染は、ストレスで自分の毛をかむ自咬症や内臓の病気(甲状腺機能亢進症や腫瘍)で皮膚炎やフケが起こるようなこともあります。
細菌による皮膚病
外傷
幼体では犬や猫、カラスなどから攻撃を受けるような外傷を負うこともあります。ケージの金具などでの裂傷、複数で飼育していると咬まれたり(咬傷)、電気のコード線をかじって感電するような事故も起きます。外傷を負った傷から細菌感染や化膿が起こりやすいです。
湿性皮膚炎が関与した細菌性皮膚炎
細菌の感染による皮膚炎は、皮膚が赤くなり、脱毛や糜爛が見られます。
炎症により皮膚に液体が染み出て、カサブタができます。
一般的な細菌性皮膚炎は、不正咬合や膀胱炎・尿結石、スナッフルどの基礎疾患が湿性皮膚炎を起こし、発生に関与します〔Dario et al.2013〕。常にこのような病気がないか確認することが重要です。細菌性皮膚炎の原因は微生物検査で調べますが、多くがそこまで行わずに、まずは一般的な抗生物質の内服投与で治療します。しかし、湿生皮膚炎が関与している場合は、浸軟を起こす原因の対応をしないと治らないので、そこが難しい所です。
肉垂の湿性皮膚炎(ウエットデュラップ)
不正咬合によるヨダレ、給水ボトルの位置が高い、投薬で液体の薬がこぼれるなどで、口の周囲から肉垂が濡れて湿性皮膚炎を起こします。
肉垂の皮膚のヒダが濡れる症状から、ウエットデュラップ(Wet dewlap)と呼ばれます。
肉垂は口元にあるため、ウエットデュラップになると、ウサギは違和感やかゆみから患部を自ら口でかんでしまうこともあります(自咬症)。
目の周囲の湿性皮膚炎(ランニーアイズ)
目の病気や不正咬合による慢性の涙や目ヤニにより、目の内側から鼻にかけての毛の濡れます。
ウサギの涙は粘稠性が高いので、目ヤニと一緒にこびりつきやすくなり、湿性皮膚炎を起こします。常に涙が見られる状態をランニーアイズ(Runny eyes)と呼ばれています。
目ヤニがひどくなると目の周囲全体の皮膚が赤くなります。
陰部・肛門の周囲の湿性皮膚炎(ハッチバーン)
陰部・肛門周囲の湿生皮膚炎は、糞やオシッコで皮膚が浸軟したり、毛がもつれて感染が起こります。
肥満になると陰部やお尻が地面と常に接触するため、糞が付きやすくなります。
一昔、沢山のウサギが狭いウサギ小屋(Hutch)で飼われ、陰部や肛門周囲がオシッコ焼けで毛が変色したり、炎症も起こり、火傷(Burn)を負ったように見えたことから、ハッチバーン(Hutch Burn)と呼ばれるようになりました。膀胱炎・尿結石で頻尿になり、太ももの内側の毛にもオシッコがついて、ハッチバーンになります。
肥満だと肛門に口が届かないため、盲腸便で汚れたり、毛づくろいができなくなります。盲腸便をを食べにくくする不正咬合や背骨の変形(変形性脊椎症)、老化などがあると、常に肛門が糞で汚れています。
前足の湿性皮膚炎
ウサギは左右の前足を使って顔を掃除したり、毛づくろいをします。しかし、ナミダや目ヤニ、スナッフルなどで鼻汁があると、違和感のある目を擦ったり、鼻汁をとろうとし、不正咬合があると口の痛みのために口周囲をおさえたりします。そのために前足の内側に、目ヤニや鼻汁、ヨダレが付着します。
炎症が起こり、ひどくなると赤く腫れることもあります。
ウサギ梅毒
ずばりウサギの性病です。Treponema paraluis-cuniculiという細菌が原因で、生殖器スピロヘータやトレポネーマとも呼ばれています。主に交尾感染で、幼体は母ウサギとの接触や産道において感染します。2~3ヵ月齢未満の幼体で好発し〔Cunlif-Beamer et al. 1981〕、免疫低下によって皮膚病が発生します。ウサギ梅毒は特徴的な皮膚病で、オスのペニスや包皮、メスの陰部が赤くなって腫れあがり、次にオスやメス関係なく、ぺニスや陰部をなめることから、唇や鼻に皮膚病が広がります。
性病ですが、生殖器には炎症が見られず、顔にだけ皮膚病が生じることもあります。
基本的に元気や食欲などの一般状態には影響せず、かゆみもありません。感染したメスは流産や不妊を引き起こし、子宮内膜炎などの原因になります。
真菌による皮膚病
皮膚糸状菌症
皮膚のカビよる皮膚病です。糸状菌の病原性は弱いのですが、免疫低下が発症要因となります〔Franklin et al. 1991〕。ウサギでは特に幼体によくみられ、不顕性のキャリアにもなりやすく〔Vangeel et al. 2000〕、他の動物や人へのうつる可能性もあります(人獣共通感染症)。ウサギでは鼻の周囲、耳介、手足の先に皮膚病が起こります。症状は限局的なフケと脱毛です。一般的にかゆみはありません。
毛づくろいによってカビが全身に広がるので、早期治療が望まれます。
寄生虫による皮膚病
ノミ・ダニ
ウサギヅツキダニ、ウサギツメダニ、疥癬(かいせん)、耳ダニ、ノミ、マダニなどの外部寄生虫にかかります。寄生虫の種類によっては、かゆみが見られ、皮膚病になります。
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参考文献
■Cunliffe-Beamer TL,Fox RR.Veneral spirochetosis of rabbits.Description and diagnosis.Lab Anim Sci 311. 366-371. 1981
■Dario D’Ovidio;Domenico Santoro.Orodental diseases and dermatological disorders are highly associated in pet rabbits: a case-control study.Vet Dermatol24(5).531-e125.2013
■Franklin CL,Gibson SV, Caffrey CJ, Wagner JE, Steffen EK.Treatment of Trichophyton mentagrophytes infection in rabbits. Journal of the American Veterinary Association 198(9).1625-1630.1991
■Harcourt-Brown F.Skin disease. Textbook of Rabbit Medicine.Butterworth
Heinemann.London.UK.p224-248.2002
■Hoyt RF Jr.Abdominal surgery of pet rabbits.In Current Techniques in Small Animal. Surgery. 4th ed. Bojrab MJ ed.William & Wilkins.Philadelphia.PA.p777-790.1998
■Ozunurulu Y,Celic I,Sur E,Telatar T,Ozparlak H.Comperative Skin Histology of Whte New Zealand and Angora Rabbits: Histometrical and Immunohisutochemical Evaluations.Journal of Animal and Veterinary Adcances 8(9). 1694-1701. 2009
■Sandford JC.The Domestic Rabbit.5th ed.Black-well Science.Oxford.UK.1996
■Vangeel I,Pasmans F,Vanrobaeys M,De Herdt P,Haesebrouck F.Prevalence of dermatophytes in asymptomatic guinea pigs and rabbits. Veterinary Record 146.440-441.2000
■ Yagci A,Zik B,Uguz C,Altunbas K.Histology and morphometry of white New Zealand rabbit skin.The Indian veterinary journal 83(8).876-880.2006
■石田陽子.皮膚の浸軟に対する看護ケア技術確立のための実証的研究
第38回日本看護研究学会学術集会.2012
■津崎孝道.実験用動物解剖学 兎編.金原出版.東京.1954