専門獣医師が解説するセキセイインコの飼育〔Ver.2〕
鳥を狭いケージでどう飼う?
鳥は飛ぶ動物です。環境エンリッチメントを考えると、飛ぶように体ができていますので、広い空間で飼育するのは当然です。飛ぶことで筋肉や骨がしっかりとし、ストレスも減るはずです。
野生の小鳥は天敵に被捕されることが多い動物です。犬や猫がいる部屋はもちろん、騒音があるような落ち着かない環境ではストレスになります。狭いケージでもストレスがかかり、1羽での飼育では社交性がなくなり、毛引きなどの問題行動になります。
普段はケージで飼育し、部屋の中で放鳥する時間を設けることが理想的かもしれません。
放鳥する場合は飼い主の目の届く範囲で行って下さい。放鳥は 壁紙や柱、電気コードなどをかじることによる 異物摂取や事故、ネコなどによる襲撃、重金属、観葉植物などを口にして中毒を起こす可能性があります。
放鳥の際に逃亡しな いように翼を切る(羽切り:クリッピング)こともあります。
飼育
複数での飼育や繁殖目的の場合は、特に大きいケージを用意して下さい。
飼育頭数
群れで生活するため複数で飼育することも可能ですが、相性や繁殖計画を考えましょう。
コザクラインコとボタンインコは攻撃性が強いため、セキセイインコとの同居することは避けて下さい。ケージ越しに相手を攻撃することもあります。ケージに新たな鳥を同居させる際には、様々な細菌やウイルス、オウム病などが蔓延する恐れがあります。検疫(鳥の健康診断)を行ってから導入するのが理想です。
ケージ
一般的には金属製の金網で作られたケージが衛生的なため使用されています。鳥を飛ばすなら大きなケージが理想ですが、部屋の中でのケージの設置や掃除の手間を考えなければいけません。もちろん複数で飼育する時は大きなケージが必要です。
大きさは最低でも翼を広げて止まり木の間を飛び移ることができる空間が必要になります。インコはケージの金網にも止まって移動したり、上手く空間を利用できます。
アクリルやプラスチック製のケージもあります。保温に優れていますが、欠点は湿気がこもりやすいです。壁が透明なので、インコが衝突するような事故も聞あるので注意して下さい。
鑑賞用の鳥のケージも多数販売されていますが、多くが使い勝手が悪かったり、耐久性が悪いです。
ケージ内には餌入れ、水入れ、止まり木などをレイアウトして下さい。ケージ中がマンネリ化しないように、容器の位置を定期的に変えたり、止まり木の素材や形を変えて下さい。しかし、臆病な性格だと、ケージ内のレイアウトを大きく変化させない方がよいこともあります。
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止まり木
止まり木は鳥が生活の多くの時間を過ごす重要な場所になります。木製やプラスチック製の商品があります。止まり木の太さは、鳥が止まった状態で爪の先端が止まり木に触れる程度が最適です。
太すぎる止まり木だと爪があたらないので、爪が伸びすぎることがあります。
プラスチック製の止まり木は衛生的ですが、硬いものが多く、足の裏にタコができたり、炎症を起こすこともあります(足底皮膚炎・趾瘤症)。
止まり木はつかむ以外にもクチバシを擦りつけたり、かじることで長さを調節する役目もあり、木製のものがお薦めです。かじる行為はクチバシの磨耗以外に、ストレスの解消にもなります、爪が伸びてしまいがちであれば、流木のような太さが異なる止まり木を使うと、止まりやすい位置で爪も削れ、クチバシを擦ったり、かじる場所を自由に選べます。
基本的にケージの手前と奥に段差を設けて2本位の止まり木を設置します。尾羽がケージの床やなどに当たらないよう十分な間隔をとります。ケージの入口に餌や水入れを設置している場合は、その前に止り木を1本設置すると食べやすくなります(餌入れや水入れに止まりる棒が付いている商品もあります)。一般的に鳥は高い方の止まり木の方で休みます。
餌入れ・水入れ
ケージセットに付属品として餌入れと水入れが付いてくることがほとんどです。
深い餌入だと、インコが容器の中に入って排泄するので不衛生になります。
餌入れは浅いタイプを使うことをお薦めします。浅い餌入れのメリットは、2~3日分しか入れられませんが、衛生的に優れ、また食べたエサの量を測ることが簡単にできます。食べた餌の量を測ることはダイエットさせる時に必要になります。
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葉野菜を入れる容器を菜挿し(なざし)といいます。
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ボレイ粉などはさらに小さい小型の餌入れを使って下さい。
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容器には形状やカバーの有無など様々な商品があります。
ケージの外から付けるものもあります。
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餌入れや水入れは、止まり木にとまっている時に糞やオシッコが入らない位置に設置してあげましょう。
止まり木と餌入れを組み合わせて、レイアウトに変化をもたらすこともできます。
餌や水入れは鳥がとまっている止まり木の近くに設置すると、食べたり飲んだりしやすなります。特に病鳥や老鳥であれば入口に設置しなくても、止まり木近くに設置して、口にしやすい状態にさせて下さい。
・ケージを大きくするか、部屋の中で飛ばすべき
・ケージ内のレイアウトは鳥が自由に動け飽きないように考える
・止まり木は流木を使用するのも一方法
・エサ入れや水入れの形や位置も考えて設置する
温度・湿度・照明
健康なインコならば猛暑の夏や極寒の冬を除いて屋外で飼育したり、過度な温度管理が不要かもしれません。多少の暑さや寒さに慣れて元気に過ごせますし、体に負担をかけない範囲で季節の変化を感じてもらうことも大切です。一年中同じ温度や湿度を保っていると、換羽が長く続いたり、発情が起きやすくなります。しかし、日本の冬は10℃以下になることが多く、季節による気温変化が激しい時は注意、真夏や真冬は温度管理をした方が良いでしょう。
下の写真のように屋外で飼育をする方もいます。このような鳥は真夏や真冬にでも耐えられる体力があるのでしょう。屋外なので季節感を感じて、発情が慢性的に起こることもなく、季節的な換羽がきちんと見られます。しかし、野鳥と接する可能性があるので感染症やダニ・シラミの寄生の恐れがり、また犬猫、カラスなどに襲われることもありますので注意して下さい。
温度
野生のセキセイインコは一日の内でも温度差がある中で暮らしていますが、ペットでは急激な温度差は体調を崩すくことが多いです。生後1才未満で初めて冬を越す幼鳥、病鳥や老鳥は、温度管理が必要になります。体の負担を軽くするためにもしっかりと温度管理をした飼育にしましょう。
セキセイインコは温帯に生活している鳥なので、理想的な温度は 20~25℃(最低20℃以上)で、幼鳥では25〜30℃になります。病鳥は体重や栄養状態にもよりますが、29.4~32.2℃の環境温度が必要となります〔Harrison et al.1986〕。ただし、あまり過保護にならないで下さい。健康な鳥ならば、様子を見ながら少しずつ寒さに慣らしていきましょう。その季節に応じた気温のメリハリをつけるようにし、季節感を感じてもらいます。年中温かいことで発情が慢性的に起きやすい状態になり、卵を産み過ぎて、卵閉塞などの卵巣・卵管疾患が好発します。最低温度は15℃以上くらいを目安に、温度変化をつけても対応できるような体力作りが理想です。ただし、体力がないヒナ、免疫力が低下している老鳥や病鳥には、特に冬は保温する必要があります。冬はエアコンにより部屋全体を暖めたり、ヒーターなどをケージの横や下に設置してケージ全体を保温して下さい。簡易的にはケージにビニール、布、ダンボールを被せることにより、 ある程度は適温に維持できます。
真夏は熱中症などが起こるため、エアコンやクーラーを設置して下さい。32.2℃以上の環境温度では、両翼を広げて熱の放散を行い、速い呼吸をします〔Harrison et al.1986〕。
湿度
冬は乾燥するため、適度な加湿を行います。乾燥地帯に生息するセキセイインコは乾燥した環境を好みますが、あえて乾燥させる必要はありません。冬に部屋の温度を上げるためにエアコンを使ったりすると、特に乾燥します。
照明
セキセイインコは昼行性の鳥で、日の出とともに活動してエサを食べ、夜は睡眠をとります。このサイクルは性ホルモンや体調を維持する上で重要です。ま紫外線を浴びることで体内でビタミンDが作られて、カルシウムの吸収を促進し、くる病や低カルシウム血症を予防します。時々太陽光による日光浴をさせてあげましょう。なお、ガラス越しの日光浴は紫外線の多くをカットしますので注意して下さい。
鳥の日光浴の詳しい解説はコチラ!
夜も明るくしていると結果的に日照時間が長くなり、発情が起きやすくなり、メスでは過剰産卵や卵巣・卵管の病気が好発します。またストレスにつながる可能性もあります。特に屋内飼育では光のリズムを考える必要があります。日没後は消灯して静かな環境にしましょう。遮光カバーなどをケージに被せることで、適切な暗さに調節できます。
・温度は20~25℃
・時々日光浴させて
・夜は暗くしてしっかりと寝かす
・健康ならば屋外で飼育するのも一方法
ケア
ケージの中に鳥をいれてエサを与えるだけという単調な飼育は、成長や健康維持、繁殖のみならず、精神的的なストレスの原因になります。鳥が持つ野生本来の行動を発現できるような環境作りのために、動物はそれぞれ生息地に適応した体の特徴や生態を考えて下さい。
飛ぶ動物ですが、飼育での最低の運動量や飛ばせる時間の一概に定まっていません。複数の止まり木や玩具などを使い、ケージ内が立体的に動けるような環境を考えて下さい。野生では、1日をエサを探して食べることに費やしていますが、飼育下では容易にエサが手に入り、残りの時間を退屈に過ごすことになります。鳥が野生本来の採食行動を発現できるよう、エサの種類を増やしたり、与え方を工夫したり(フォージング)、回数を増やすなどの工夫をしましょう。
セキセイインコは群れで生活をしているので、個体同士のコミュニケーションが必要ですが、1羽で飼育している場合は、飼い主とのコミュニケーション(鳥との会話)が必要となるかもしれません。しかし、臆病な鳥では人を怖がることもあります。ヒナの時から人に馴れるように手乗りで育てるとよいでしょう。
一般的にセキセイインコは自ら羽つくろいをし、クチバシや爪を止まり木に擦りつけて摩耗します。しかし、クチバシや爪が過長した時は切らないといけません。飼い主が切れない時には、動物病院や専門のペットショップで切ってもらいましょう。
遊び
セキセイインコは人と意思伝達ができるくらいに知能が高く、特に手乗りにすると人とのコミュニ ケーションを積極的にとるようになります。玩具(おもちゃ)や鏡などはストレスの予防になりますが、発情の誘因となり、特にメスでは過剰産卵や卵巣・卵管の病気になる恐れがあります。
おしゃべり
セキセイインコは幼鳥から訓練すると、おしゃべりや歌も歌うことができます。
クチバシ切り
クチバシのケラチンはアミノ酸から構成されており、栄養のアンバランス(種子の主食)、肝機能低下などに より変形や変性が起こります。クチバシの成長が咬耗よりも早いと、過長することがあります。クチバシは固いものを齧って摩耗するのではなく、歯ぎしりのように上下を擦り合わせて咬耗して調節するため、基本的には切る必要はないはずです。人と接触する上で、かみ癖がある鳥では先端部分を切ることもあります。クチバシには血管が走行しているため、切りすぎないように注意して下さい。基本的にはクチバシが変形したり、長くなったら動物病院で診察を受けた方がよいでしょう。
翼の羽切り
部屋の中で放鳥する時に、翼の羽を切って(クリッピング:Cliping)、鳥が窓から逃げるのを防ぐことをします。しかし、羽をクリッピングすることで、セキセイインコ本来の飛ぶ行動ができなくなることに反対意見もあります。クリッピングをしても、しばらくすると羽は伸びてくるので、繰り返す必要があります。
爪切り
爪が伸びすぎると止まり木をつかみづらくなり、放鳥時には絨毯などに爪が引っかか り、折れて出血することもあります。また、飼い主が爪の伸びた鳥を手に乗せていると痛いと感じるかもしれません。爪切りはとても難しいので、無理して飼い主が行わずに、専門のペットショップや動物病院で受けて下さい。
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・退屈させないようにおもちゃを与える?
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参考文献
■Cameron M.Cockatoos.CSIRO Publishing.Australia.2007
■Gill FB.Ornithology,3rd ed.W.H.Freeman and Company.New York.
■Harrison GJ,Harrison LR.Clinical avian medicine and surgery.WB Saunders Company.Philadelphia.1986
■独立行政法人.農業・食品産業技術総合研究機構 編.日本標準飼料成分表.2009
■Roudybush TE,Grau CR.Food and water interrelations and the protein requirement for growth of an altricial bird, the cockatiel (Nymphiccus hollandicus). Journal of Nutrition. 116(4).552-559.1986
■Walsberg GE.Avian ecological energetics.In Avian biology7.Farner DS,King JR,Parkes KC eds.p161-220.Academic Press.New York.1983
■須藤浩.飼料学講義.養賢堂.東京.1981